乾杯
みんなでケチャップの試食をしていると、村の人が集まり始めて来たので試食会を終わらせて準備に取り掛かる。
「一旦、終了にして準備しますね。そういえば椅子が欲しいですね」
椅子をどうするか考えていると、神父さまが教会のベンチを貸してくれたので、早めに到着していた若者に協力してもらって広場に並べる。
「聖女さま、頼まれた物を持ってきたけど、どこに置けばいい?」「俺も持ってきました!」
そういえば、よく見たら午前中に頼んだ人たちか……。お礼を言って教会に運んでもらい、約束通りお弁当などが入った袋を渡す。
「器が入っているから、シスターの所に持っていけばスープがもらえますよ。あとは、みんなが集まったら説明するので適当に待っていてください」
「ありがとうございます! 聖女さま! こんなに、いいのか……いいんですのかい? あんなもので良かったらいつでも持ってくる……持ってきますです」
若者たちは慣れない敬語を駆使してお礼を言うと、早速スープを貰いに走り去っていった。
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「大分、集まりましたけど、まだ来てない人はいますかね?」
神父さまに聞いてみるとシスターと話した後、多分、全員来ていると教えてくれた。
「よし、じゃあ! 肉の販売とビンゴ大会を始めましょう」
「「「びんごたいかい?」」」
「今から全員にまとめて説明しますので、少々お待ち下さい」
そう言って広場の方に向き直し、全員に聞こえるように声を掛ける。
「みなさ~ん! お待たせしました~! 今から始めま~す! 少し説明するので聞いて下さい」
その声で広場の話し声がピタッと止まり、全員の視線がこちらに向いた事で若干ひるんだものの説明を始める。
「今日は、お集りいただきありがとうございます。皆さんに配った袋は見ず知らずの私に優しくしてくれた皆様への感謝の気持ちなので、遠慮なく受け取ってもらえれば嬉しいです」
もの凄い歓声や感謝の声で、最早、何を言っても聞こえない状態になってしまい、声を止むのを待ってからまた説明を再開する。
「それで販売の方は昨日の商品に加えて、ソーセージ、え~と肉詰めの方が分かりやすいかな? それとベーコンも売ってます。肉詰めが大銅貨八枚、ベーコンが銀貨一枚です。あとスープのおかわりは大銅貨一枚になります。詳しくはシスターにお願いしているので聞いて下さい」
周りを見回して問題がないのを確認して説明を続ける。
「あとは飲み物については、ここに置いてあるエールとワインはおかわりも含めて無料です」
さっきより大きい歓声が上がり収まる気配がないので、ジェスチャーで止めるしぐさをするとピタリと歓声が止んだ。何これ? 気持ちいい。
「お酒が飲めない人に関しては、果実水も用意してあるのでそれを飲んで下さい。袋を開けた人は知っていると思いますが、その中にコップが入っているのでそれを使って下さい。待って! まだですよ!」
取りに行こうとする人を止めて説明を続ける。止められた男性は、奥さんらしき人に頭を思いっ切り殴られていた。
「そのお渡しした食器類も記念としてすべて差し上げます。私がこの村を去った後も偶に私の事を思い出してくれたら嬉しいです! 直ぐ飲みたいとは思いますが最初の一杯だけは、乾杯をしたいと思うのでもう少しだけ待ってね! そこのお父さん!」
広場に笑い声が広がる。
「それでは、みなさん! 取りに来てもらって、飲みたい物の前に並んでください」
待ちきれなさそうなのでビンゴの説明は後にしよう。
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「ノア様、全員に飲み物が行き渡ったようなのでお願いします」
ノア様はその言葉に頷き、みんなの前に歩み出る。村の人たちを見ると静まり返って、しっかり話を聞く態勢になっていた。やはり権力者は怖いのだろう。
「乾杯の前に皆に伝えなければならない事がある。今日、湖跡の付近にオークが現れたようだ」
戸惑う村の人たちの声や悲鳴が上がり、広場が混乱に包まれる。
「落ち着け! もう心配はない! ここにいる魔術師殿が討伐してくれた」
今日一番の歓声が上がる。照れながらそれ応えて手を振るとさらなる歓声が上がり、村の人たちはオレの名前を叫び称賛の声をあげる。
「そのオークの肉を使ったスープや料理など、貴族でも滅多に食べられない貴重なものである! その事を理解し、感謝して食べるように! 無礼があったなど野暮な事は言うつもりは無い! 存分に楽しむが良い! 魔術師殿に乾杯!」
「「かんぱーい!」」「聖女さまにかんぱーい!」「魔術師さまにかんぱーい!」
次々に村の人たちが感謝の気持ちを伝えに殺到して、もみくちゃにされ大変な事になった。
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「ふ~~っ! 凄かった!」
やっと村の人たちに解放されて教会の方に戻って来ると、みんなもお酒を飲んで楽しんでくれているようだ。
「ノア様も乾杯の挨拶ありがとうございました!」
「いえいえ! それにしてもすごい人気ですな! 昨日今日、来たとは信じられない!」
笑って誤魔化し少し話をした後、シスターの元に向かう。
「すみません! 任せっきりで! シスターも休んでください!」
「ケイ様、焼き串しがもうなくなってしまうのですが」
お酒の効果で飛ぶように売れているらしい。
「じゃあ、残ってる肉を焼き串しにしちゃいましょう。シスターは休憩していていいですよ」
「では、ケイ様の料理を見ていても構いませんか?」
「いいですけど、のど湧きません? いい物があるんですよ!」
そう言って、後ろに積まれてる樽を叩き、ある事を思い出す。
「そういえば、シスターはお酒は飲んでいいんですか?」
聞いてみると、限度はあるようだが禁止はされていないらしい。まあ飲みすぎなければ良いという事だろう。お酒は水より安全という立ち位置だし、そうなるか……。石で作っておいたとっくりに日本酒を注ぎ、おちょこを渡す。
「二人で先にいただいちゃいましょう」
そう言ってシスターの持っているおちょこに注いであげる。
「可愛らしい器ですね! あら! いい香り」
「「かんぱーい!」」
試しにほんの少しだけ飲んでみる。……これはおいしいけど結構強いかも。感想を聞こうと目を向けると、シスターは空のおちょこをを見つめていた。
「えっ! シスターもう飲んだんですか?」
シスターは『すみません、余りにおいしくて』と顔を赤くして呟いた。
「気に入ってくれたなら構いませんけど、もしかしてシスターってお酒強いですか?」
空になったおちょこに注いであげると、シスターはまた一気に飲み干した。いやいや、わんこ蕎麦じゃないんだから……。またしても自分の記憶に不安をおぼえる。日本酒ってこんな飲み方だっけ……?




