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試食会


「え~と、もしも~し」


 オークの討伐を伝えたところ、神父さまとシスターは思考停止して固まってしまった。そんな二人の意識を引き戻す為に、大げさに二人の顔の前で手を動かす。


「はっ! ケイ様はお怪我はなかったのですか?」


「ええ、大丈夫です。オークについては子供たちには話していません。子供たちも含め、誰に話すかの判断は神父さまにお願いしたいのですが……」


「わかりました。オークなどの強力な魔物の存在が発覚した場合は、生死にかかわらず領主さまへの報告が義務となっております。家令が着き次第伝えておきましょう」 


「お願いします!」


 村人にも注意をうながす意味で伝えるそうだ。オークの肉はというと高級で手が出ないが、食べたいと思う村人は多いという事だった。なぜならば、魔物の肉は食べるとレベルが上がると言い伝えられているからだそうだ。なるほど……そういえばオークを倒したけどレベルが上がらなかったな。食べることで上がるのだろうか? まあ取りあえず食べられることは分かった。


「シスターには申し訳ないのですが、今回作る料理はシスターが食べれるものが少ないかもしれません」


「私の事は気になさらないで下さい。お気遣いありがとうございます」


 シスターはそう言うけど、一人だけ食べられなかったら可哀想だし気になるよね……。野菜だけの料理って意外と思いつかないんだよな。


 とりあえず片手で食べれるような簡単なものにしよう。串焼きは売るとして、あ~っ! 内臓を捨てなきゃよかった。ソーセージとか作れればフランクフルトやホットドッグが作れたかも……。サンドイッチ、カツサンド、お好み焼きも簡単でいいかも。スープはどうしよう? 豚汁をつくりたいけど、パンに豚汁ってどうなんだ……?




 ♦ ♦ ♦ ♦




 結局、スープは豚汁にした。理由は自分が食べたいからである。シスターにある程度簡単なものは任せて、調理を進めてもらっている間に【秘密の部屋】でパンを焼きながら今夜の準備を進めていく。


「う~ん! マヨネーズは成功だけど、ケチャップとソースは一味足りないな。まあ、材料が足りない中でよくできたほうかな?」


 調味料を作り終わり、今度は土鍋の蓋を開けて中身を確認する。煙が立ちのぼり網の上に並んでいる物は、日本で見たことのあるものと遜色のない出来栄えだった。後は味だが……。試しに茹でて一口食べてみる。


「おお! ソーセージだ! 食感もこれなら誰も代用の皮ってわからないんじゃないかな?」


 動物の腸がなかったのでスキルの【ものづくり】を使い、他の肉の部分をソーセージ用の皮に作り替えて代用してみたが、上手くいったようだ。みんなに感想を聞くために茹でたソーセージを持って外に出る。


「わ~~っ! 魔女さま! 何それ~!」


 子供たちが集まってきて、その後ろに神父さまもつづく。


「ソーセージって言うんだけど、知ってる? 試しに食べてみて欲しいんだけど、はい! 並んで~!」


 子供たちは男の子たちを先頭に素早く並ぶ。


「まだ熱いから気を付けて食べてね! 最初は何も付けないで食べてみて! 神父さまもいかがですか?」 


 全員にソーセージを渡して食べてもらう。パリッと音がなり、肉汁が溢れ出す。


「「「おいし~!!」」」


「ケイ様はソーセージの作り方も知っておられるのですね」


 神父さまの話ではソーセージ自体はあるのだが、作り方はまだ広がってはいないそうだ。


「そうですね。これが正確な作り方かは知りませんが、今食べてもらっているソーセージなら作れますね! それじゃあ! みんな今度はこの赤い調味料を付けて食べてみて!」


 そう言ってみんなの方に目をやると、子供たちは皆、焦った顔をしていた。


「「あっ!」」「食べちゃった」「「俺も……」」「あたしも……」


「あははは! いいよ! 気に入ってくれた?」


 元気に頷く子供たちにもう一本ずつソーセージを渡していき、食べきって気まずそうにしている神父様にも、もう一本渡しておく。みんなケチャップをつけて恐る恐る口に入れる。


「わぁ~~っ! これもおいし~!」


 その声に食べるのを躊躇していた子供たちも食べ始める。どうやら全員に気に入ってもらえたようだ。


「この赤い調味料はケチャップって言って、みんながいた時におばあちゃんに貰った赤い実で作ったんだよ」


 神父さまは頷いて聞いていたが、子供たちはそんな情報には興味がなく食べる事に夢中らしい。


「大丈夫そうですね! それでは残りを作っちゃいます! みんなは一旦、帰らなくても平気なの?」


 子供たちは家族とここで待ち合わせているそうなので、みんなが集まるまで教会にいるらしい。


「じゃあ、神父さまに迷惑かけないように、おとなしく待っててね!」


 子供たちの返事を聞き厨房に向かい、シスターに声を掛ける。


「手伝っていただいて申しわけありません! どんな感じですか?」


「いえいえ! 料理がこんなに楽しいものだとは、知りませんでした」


 そう言うと、シスターは料理の進み具合を教えてくれた。灰汁を取るとか切り方ぐらいしか教えてないのだが、料理にハマってきているらしい。


「では、スープの方はそろそろ味噌を入れてもらって、こっちの茹でたジャガイモは潰して、それにこの茹でた野菜とゆで卵を混ぜてこの調味料で味付けしてください」


 そう言ってマヨネーズを渡すとシスターはまじまじと見ていた。


「その調味料はマヨネーズといいます。残念ながら卵が入っていますが……」


 シスターは笑顔で『そうなんですね』と頷いていたが、明らかにがっかりしている様子だった。う~ん! 神様の教えなら仕方がないのかな? でも神父さまは食べるんだよね……意味が分からん。


「私も残りの料理を作ってきますね! あとはよろしくお願いします」


 シスターに挨拶をして部屋に戻り料理の続きを始める。部屋に戻って料理を作るとか、自分で言っていてもおかしいと思うのだが、最早そのことについては誰も質問すらしなくなっていた。





 

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