技術指導料
細かい彫刻が施された蓋とベンチを何の装飾もない物に作り変えた所、なぜか三人とも魂が抜けたようになってしまった。良からぬ事を考える人間に知られた場合に、教会に危険が及ぶかもしれない事と、私の軽い気持ちで作った物で争いが起きるのは、本意ではないと伝えておいた。
「魔術師さま、私は決して良からぬ事を考えていたワケではないです。私は何故あのような事を言ってしまったんだ!」
ロイはそう言うと自分の頭を叩き出した。『売ったら幾らぐらいになるだろう?』 ぐらいの疑問は誰でも普通に思い浮かぶものだから、そこまで気にする程の事ではないと思うんだけど……。しかし、この少年はさらに『悪魔よ! 出ていけ!』とか言い始めてるんですけど……。悪魔なんているの? いや、魔法があるファンタジー世界だからありえるのか? 一応ロイの鑑定もしてみたのだが、悪魔に憑りつかれているなどの気になる所は特になかった。強いて言うならレベルが低い事ぐらいか。十五歳でレベル2って普通なのかな? 算術と読み書きのレベルが一か……。
「私も少し感情的になってしまいました。お恥ずかしい限りです。申し訳ございませんでした」
神父さまはロイの腕をつかんで、頭を叩くのを止めながらオレに謝る。その後、ロイとシスターにも何かよく分からないが謝られてしまう。普通に考えると大して誰も悪くないんだよね。誰が一番悪いかと言えば、知らなかったとはいえ高価な物を何も考えずに作ったオレかな。それを見た子供が幾らかなって言って、それを聞いて神父さまが怒っただけだからね。そんなに怒る事か? とは思ったが、まあ一応、謝っておこう。
「こちらこそ、申し訳ございませんでした。私の考えなしの行動が原因ですから、これからは気を付けますのでお許し下さい」
「いえ、私が――」「いえ――」「私が悪い――」
三人が何か言おうとするのを止め言葉を続ける。
「もう、この話は終わりにしませんか? 材料も集まったことだし肥料作りを始めましょう」
ケイ様がそうおっしゃるならと三人とも了承してくれたのだが、何故かロイだけは肩を震わせて泣いていた。なんで? 泣く所あったか? 見なかったことにして説明を始める。
♦ ♦ ♦ ♦
「今回は私の料理スキルで発酵をさせましたが、本来は一か月に一、二度かき混ぜてもらって管理していき長期間かかります。全体的に、こんな感じでボロボロになれば完成です。材料は他の物でも代用は可能ですが、肉や骨、あとは硬い皮とかは避けた方がいいです」
説明を終えてみんなに肥料を見てもらう。
「今の畑の土とは全然違いますね! これなら効果がありそうです」
「確かに、これ程いい土は見たことがありません」
「もしかして、魔術師さまは料理スキルも最高レベルの五なのですか?」
「ロイさん、人にスキルを聞くのは失礼にあたりますよ」
ロイがシスターに、とがめられているのを見ながらある事に気付く。
「あれ? レベル五がスキルレベルの最高なんですか?」
「はい、確か最高ランクの冒険者がスキルレベル五に到達したとか!」
そう神父さまが答えてくれた。あれ? レベル五が最高? レベルが高い人は秘匿にしてるのかもな。というか冒険者とかいるのか、面白そう。ギルドとかもあるのだろうか?
もう少し話を聞きたかったが、お昼前に終わらせたいので雑談を終わりにして、みんなで畑に肥料をまく。魔法でやっても良かったけど、ロイは口が軽そうだし力は見せすぎないようにしないとね。作業をしながらお昼ご飯を考える。こっちの人はパンとスープが定番らしいからな。シスターが動物性食品を食べないから、折角もらった卵や牛乳も駄目ってことかな? 材料の縛りがあると想像以上に難しいな。
「ケイ様、貴重な肥料の作り方を教えて頂きありがとうございます。村のみんなにも教えたいのですが、よろしいでしょうか?」
肥料をまき終えて畑全体を眺めていると神父さまがそう尋ねられる。振り返ると三人が立っていた。
「どうぞどうぞ! あっ! 絶対に説明通りにやらない人は少なからず出てきますから、ひどい悪臭が発生する可能性があるので、設置場所は考えるように伝えて下さいね」
「ありがとうございます。そのような事がないように、しっかり教えて守るように伝えます。それで技術指導料はいかほどでしょうか?」
「へっ? お金ですか? いらないですよ。お世話になってますし気にしないで下さい」
それを聞いた途端、三人は跪き順番にオレの手を取り、手の甲を自分の額に当て祈り始めた。村の人にも何回かされたことがあるから、なんとなくわかるけど多分この世界の感謝なのかな。でもここじゃなくていいだろう。全員の膝が肥料まみれなんですけど……。
「お気持ちはもう十分頂きました。一段落しましたしお昼にしませんか?」
何か前も似たような事をした気がする。土下座とか跪くとか本当にやめて欲しい。お願いして立ってもらい、膝を払うふりをして浄化してあげる。技術やレシピは重要なもので簡単に人には、教えてはいけないもののようだ。さっきの件もそうだが、これも今後気を付けないといけないな。本来なら大金貨数枚の技術指導料を払うのが一般的と聞いて、貰っとけば良かったと少し後悔した。そりゃ、何百万円も払わなくていいって言われたら、オレも跪くかもしれないな……。