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私が聖女? いいえ、そもそも男です。  作者: 東雲うるま


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フェネック商会からの依頼


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ありがとうございます。



 

 今、オレは目の前に並ぶゴブリンの集団に、今回の工事の作業内容や注意点について話していた。ゴブリンのみんなにはフェネック商会のロゴの入った作業着を渡していて、みんなには申し訳ないけど人前では人間の姿でフェネック商会の従業員として作業してもらう事になっている。


「今日、明日ぐらいは本来の姿のままでいいんだけど、人が来たらよろしくね~! じゃあ、今、分けたグループに分かれて作業を開始してください。『ご安全に!』」


「「「「ご安全に!」」」」「「「ギィギィギィ~」」」


 一斉に声を上げ、道具を担いだゴブリンたちが作業に向かっていく。


「ケイさま! それではわたくしも魔法円の作成をしてまいります」


「うん、シンクも安全第一でよろしくね!」


「はっ! ありがたいお言葉、胸に刻み作業してまいります」


「う、うん。よろしくね!」 


 そう言うとシンクはゲートをくぐり消えていった! シンクには大人数での腕輪のゲート移動はオレがいないと難しいという事で、魔法円による転移門の作成をしてもらうことになった。一応、つなげる場所はここに建てる予定のオレの商会の地下室と今日、確定したレンドール内の商会建設予定地、それとミドリンたちの洞窟内で、順次、増やしていく予定だ。


「え~と、じゃあ、オレも自分の商会を建ててくるから、ミドリンも現場の監督よろしくね」


「はっ! お任せください」


 やはり、生活インフラは欠かせないという事で、まずは予定している浄水場と水道用の「上水」「中水」「下水」の地下水路をミドリンたちにはお任せしている。その間、オレは何をしているかというと、自分の商会と今回、雇った作業員や従業員が寝泊まりする宿舎と施設の建設だ。


「よし! やるか!」


 オレは気合を入れると【土魔法】と【ものづくり】を使い、地面の土や石を操作、変形させ、土台からしっかり作っていく。この力を使えばどんな建物でも作れそうではあったが、出来るだけこちらの世界の雰囲気を壊したくなかったので、今回の建物は石積みで作る事にした。しかし、浅い知識での建設は不安もあったので、こちらでは、まだ、そこまで一般的ではない鉄筋やモルタルを使ったり、鉄骨の柱で強度を上げ、柱と壁との接合部も金具で補強するなど安全面にも考慮しておく。


 そして、無心で作業を続け、自分の商会の外壁と内壁を三階まで作り終わった所でふと手を止め、三階部分から建物周辺を眺めてみた。すると、すでにかなりの距離の地下水路用の穴が掘られていて、周辺の木々もあらかた倒されていた。魔法も使うって言ってたけど、想像以上に早いな……。オレも床と屋根を作ったら完成だし、もう少し頑張ろう。





 ♦ ♦ ♦ ♦





 今日はフェネック商会からの依頼が大量に張り出された為、冒険者ギルド内はお祭りのような盛り上がりを見せていた。依頼内容は薬草などの納品、さらに動物や魔物の素材の納品など多岐にわたり、その中でも目玉なのが魔石のサイズを問わず、相場より少し高めで買い取ってくれるというものだろう。しかも、どの依頼も受付が不要で制限がなく買い取ってもらえるので、納品をしようとする冒険者でどの受付にも長蛇の列ができていた。


「エリン! 今の魔石、問題なしだ!」


 魔石の鑑定を担当する職員からの鑑定結果を聞き、用意していた硬貨をカウンターに並べる。


「はい、それでは先ほどの魔石の買い取り金額が銀貨一枚と大銅貨三枚になりますが、問題ございませんか?」


「ああ」


 冒険者の男は数える素振りすら見せずに、重ねられた硬貨を乱暴につかみ取ると足早に去っていった。大抵の冒険者は計算が苦手なので金額が間違っていたとしても、多分、気づきもしないだろう。しかも、多く人が並んでいるので、延々と受付で話し込む人もいないので、今回の大量の買取の業務は普段と比べると逆に楽まである。

 

「ありがとうございました。次の方、どうぞ」


 そう言うと、次に並んでいた仮面の四人組が一歩前に進み、太陽草の束と五本の一角うさぎの角をカウンターに並べる。


「エリンさん! 依頼の納品に来たよ~」


「あら、おつかれさま! 今日はみんな、一緒なのね」


「うん、今日は人が多いから、はぐれないように」


「ああ、ごめんなさいね! 今日はフェネック商会の依頼がたくさん入ったから、混みあっているのよ。でも報酬が良いから、みんなも受けるといいわよ」


「あっ、そっか! ケイが依頼を出したって言ってたね」


 えっ? ケイ? 依頼自体は商業ギルドからだったから、名前が一緒だったけど確信が持てずにいたのだけれど、やっぱり、あの人の商会だったようだ。


「……え~と、そのケイさまは『白狐』のリーダーさんよね。冒険者以外もしてらっしゃったのね」


「うん、この街でもお店を開くんだって! だから、私たちもそこで働くの! 凄いでしょ」


「ちょっと、ジュリア!」


「あっ! エリンさん! 今の内緒ね!」


「……ええ、わかったわ! 誰にも言わない……」


 多分、冒険者ギルドでも知られてないであろう情報を、突然、聞かされ、冷静を装っているものの、かなり動揺していた。


「よかった! あっ! あとエリンさんにお土産! 採取中に倒した魔物のお肉。マルチナ! 渡してあげて」


 返事をしたマルチナが大きな葉で包んだ大きな塊をカウンターにのせる。


「えっ! こんなにいいの? ……………っていうか大きすぎない? 何のお肉?」


「え~と……それはイノシシの魔物のお肉だよ」


 高級なお肉に周りの職員も反応しているのを感じる。


「えっ? イノシシの魔物? ファングボアかしら……? 良く倒せたわね! 小さくても牙が鋭いから、アイアンランクでも倒すのが難しいって言われているのに……。みんな、ケガはないの?」


「うん、平気! みんな無傷だよ!」


「そ、そう……。それなら良かった。……じゃ、じゃあ、お肉はありがたく頂くわね! ありがとう! でも何か貰ってばっかりで悪いから、今度、みんなにもご馳走させて! 知り合いがやってる凄く美味しいお店があるの!」


「ええ~っ! いいの? みんな! 今度、エリンさんがご馳走してくれるって!」


「やった~」「わ~っ!」「楽しみだね」


 こうやって喜んでる姿を見ると本当にこの子たちって普通の女の子よね……。私はこの子たちと話したことがあったし、仮面をしているから周りの人たちが勝手に想像を膨らませて、凄い魔法を使うとか格闘術に優れているとか噂をしているのかと思っていたのだけど……。ファングボアを無傷で倒すほどの実力を持っているのだから、噂の方が正しかったのかもしれない。はっ! もしや、軽い気持ちで食事に誘ったけど、見た目に反して大食いなのかも……。


「で、でも、ご馳走は今月のお給金の日まで待ってね」





 ♦ ♦ ♦ ♦





「全然、進まねぇ! 並ぶ列、間違ったな」


 ライトの言葉にオレも背伸びをして列の先を確認する。


「う~ん! 何か受付で揉めてるな。列、変えるか?」


「ええ、こんなに待ったのに?」


 そこに肩にネコをのせたジュリアがやってきた。


「えっ、まだ、終わってないの?」


「何か受付で揉めてるみたいなんだよ」


「あっ! あの人じゃん。列、変えた方がいいよ」


「えっ!」


 どうやら、ジュリアの話では、オレたちの並んだ受付の女はお貴族さまだったらしい。


「うわっ! お貴族さまかよ。ライト、ルー、隣に移るぞ」


「ああ、ちょっと待って、私たち、この後、荷物を届けなくちゃいけないから行くね!」


「お、おう、今日は助けてくれてありがとな! あと肉も! このお礼は必ず今度するから」


「だからお礼はいいって言ったでしょ! あっ! でも、どうしてもって言うなら、お金持ちになったらフェネック商会でお買い物して! やばっ! みんなが呼んでる! もう行くね! ルーちゃんは後でね」


「はい、後で」


 すっかり、ジュリアたちになついたルーは、今晩はジュリアたちの宿に泊めてもらうらしい。助けてもらった後も食事をさせてもらって、倒したイノシシの肉まで分けてもらったのだから、お礼をしたかったんだけど……。でも、彼女たちの武器も商会の偉い人から貰ったものって言ってたから、武器も売ってるみたいだし、自分の武器を買う時はお願いするのも良いかもしれない。


「次の方、どうぞ~」


「あっ! キース、オレたちの番だぞ!」


 三人で前に進み、毒消し草の束と数字が書かれた木札、そして、代表してオレの冒険者プレートをカウンターにのせる。


「おつかれさま! あら? 今日は湿った布で包んでいるのね。鮮度を保つ処理をしてるし、状態もすごく良いから、いつもより高く買い取ってあげるわね」


「ホントか? やった!」


 三人で互いに顔を見合わせて喜び合う。ジュリアたちに習った薬草を長持ちさせる摘み方と保存方法は、本当に正しかったようだ。


「うん、これなら……あら? その袋って、ちょっと、見せてくれる?」


 突然、ライトの持っている麻袋をみて受付の女の人が興味を示す。綺麗な袋だから盗んだと思われたのかもしれない……。


「こ、これは盗んだ物じゃないです。貰った物で……」


 ライトも誤解されたことに気づいたのか、必死に盗んだ物ではないことを説明する。


「違うの、違うの! その袋に描かれてる……やっぱり、フェネック商会の紋章だわ」


「えっ! 紋章? あっ! この絵の事?」


「そう、それ! もしかして、あなたたち、ジュリアちゃんたちの知り合い?」


「えっ! ジュリア? え~と、知り合いっていうか、今日、魔物に襲われそうになった所をジュリアたちに助けられて、その時に袋も貰ったんだよな。な? ライト!」


「お、おう。だから、オレたちは盗んでないです」


「大丈夫よ! 盗んだとは思っていないから! でも、その袋の紋章が今、話題の商会のものだったから、気になったの! ところで、襲われそうになった魔物って、もしかして、イノシシの魔物だったりする?」


「えっ! うん、何で知ってるんだ?」


 ライトと受付の女の人が話している間、オレはぼーっと、ジュリアたちの事を思い出していた。すげぇ……ジュリアたちが働いてるって言ってた商会って有名だったんだ……。


「さっき、ジュリアちゃんたちにイノシシの魔物のお肉をお土産で貰ったから、もしかしたらって思っただけ……。でも、誰かを助けたとかは言ってなかったけど……。一応、報告されたっていう事で、上に報告してもいいかしら? 彼女たちのランクアップの助けにもなるわよ」


 彼女たちに何かお礼がしたかったオレたちはそれを二つ返事でうなずき、毒消し草の報酬をもらった後、報告書の作成の為にいくつかの質問に答えることになった。しかし、報告書を作成するために現れた男の職員はオレたちの話をまったく信じず、オレたちの背よりも大きかったイノシシは恐怖心から大きく見えたとされ、結局、よくある小さな魔物におびえた初心者が助けられた話として、片付けられてしまった。


「あ~~っ、むかつく! あいつ! 全然、信じねぇ~し!」


「木を倒したって言ってるのに、馬鹿にして鼻で笑ってたしな!」「わたし、あの人、嫌い」


 ルーが口に出すなんてよっぽど、むかついたんだろう。


「もう、いいよ! 早く、肉、売って、少し休もうぜ」


 目標だったギルドでの食事は先ほどジュリアたちにご馳走してもらった事により、見事に今まで食べてきた中で一番おいしい料理の順位は入れ替わり、すでに目標でも何でも無くなっていた。


「そうだな! さっき、食ったばっかりで腹は減ってないし。お~い、おっちゃん」


 カウンター越しに食堂の禿げたおっさんに声を掛ける。


「クソガキ、だれがおっちゃんだ! お兄さんだろうが! で、なんだ? 今日は無料じゃねぇぞ」


「肉を売りに来たんだけど……」


「肉だぁ~? ……まあ、見せてみろ」


「ライト!」「ああ!」 


 オレが名前を呼ぶとライトが担いでいた袋から、大きな葉にくるまった肉を取り出し、カウンターの上にのせる。


「ん? どうせ、ウサギかネズミだろうと思たんだが……こりゃ、イノシシか? ……しかも、こりゃ~ビッグボアじゃね~か……」 


「えっ! わかるのおっちゃん!」


「当たりめぇ~だろうが! そんな事よりこの赤身と脂身の色をみてみろよ! 新鮮で最高の状態じゃね~か! 買う、買うぞ」


「やった!」「やったな!」


「……いや、まてよ! お前らこの肉、どうやって手に入れたんだ?」


 またかよ! オレらが何かいいもんを持ってると、なんでも盗んだって思いやがって!


「オレらが襲われそうになった時に助けてくれた冒険者がくれた……」


「……こいつを倒して助けってくれったってことだな……っていうとシルバーランクか……。名前は?」


 おっさんは肉をぺちぺち叩きながら質問を続ける。


「……ジュリア」


「誰だそれ? この辺の奴じゃね~な……」


「……仮面をしてて、ネコを連れてる……」


「ああ~~、あいつらか……なるほどな! よし、銀貨六枚で買ってやる。どうだ?」


 えっ! 銀貨? 聞いたこともない金額で意味がわからず、無言で二人と顔を見合わせる。おっさんは仮面の話をした途端に、急に買い取ってくれると言い出すし、本当にジュリアたちって何者なんだ?

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