1. 婚約破棄までにしたい10のこと
デイジーは聞いてしまった。
婚約者のルーク王子がピンク髪の女の子に言い聞かせている。
「フィービー、もう少しだけ待ってくれ。次の夜会でデイジーに婚約破棄を伝えるから。そうすれば、次はフィービーが正式な婚約者だ」
「ルーク、分かった。アタシ、難しいことはわからないから。ルークを信じて待ってる」
ふたりはヒシッと抱き合う。
お熱いふたりと対照的に、デイジーの心は氷のように冷え切った。
屋敷に戻ったデイジーは自室で机に向かう。
怒りの炎で自分まで焼けてしまわないよう、心の中に吹雪を起こしながら。
紙に『婚約破棄までにしたい10のこと』を書いた。
「ひとつ目はこの一択。女友だちと飲んだくれる」
飲まなきゃやってられない。でもひとりで飲むと危ない。引き潮で沖に流され陸に戻れなくなるみたいに、悲しみの中で溺れてしまう。
こんなときに頼れるのはやっぱり女友だち。吐き出した愚痴を聞いてもらい、傷をなめてもらって、離岸流から助け出してもらえる、最高の親友たち。
西のリコリス、南のペティー、北のエリカ。
そして東の辺境からやってきたのが私、デイジー・リュベナー。
東西南北、四人あわせて辺境女子。喜びは四倍に、苦しみは四分の一に。四人で支え合って、王都で生きてきた。
婚約者のおぞましい企みにショックを受け、助けを求めれば、三人はすぐに集まってくれる。
馬車で三つの屋敷をまわり、友だちを乗せてまた自分の屋敷に戻ってきた。
「さあ、飲もうか」
「一番いい酒持ってきたよ」
「同じく」
「乾杯」
四人で飲み干す。
「くっ、ルークのやつ。許さん。顔がいいから、たいていのことは許してきたけど、あれは論外」
「せやな。うちら、辺境女子をコケにしたらどうなるか、分からせなあかんな」
「あたしら、田舎者と蔑まれてきたけど、猫をかぶって都会に溶け込んできたのにさあ」
「そうそう、かわいくてかよわい女の子がいいってぬかすから、仕方なくぶりっこしてきたんじゃん」
我ら四人は辺境女子。王都から遠く離れた、東西南北からやってきた田舎者だ。おかげで気があって仲良くしている。
「でさ、こうなったら婚約破棄イベントをめいっぱい盛り上げてやろうと思っててさ」
「逆にな。ええやん」
「あたしら、なめられて泣いてるだけの辺境女子じゃないって分からせよう」
「デイジー、策を聞かせな」
「まずはピンク髪のことを調べつくす。敵を知り己を知れば百戦危うからずって言うじゃん」
「オッケー」
三人はのりのりだ。
「ちな、ピンク髪はフィービー・シーウェル男爵令嬢な。みんな知ってるよね?」
「知ってる。王都中の貴族男子がこぞって夢中になってるかわいこちゃんや」
「ウワサにうといあたしらの耳にも自然に入ってくるもんね」
「あれはなー、男は好きになっちゃうよねー」
誰も反論できない。うなだれつつ杯を空け、新たな酒を注ぐ。
「ピンク髪にピンク目。でも肌が真っ白だからくどくないんよね」
「ぐ、ぐやじい」
デイジーの口から押えていた嫉妬心が漏れ出す。
「わ、わだすなんで、茶髪に茶目で、どこの沼地にだって溶け込める泥臭さだというのに」
「なまりすぎだぞ」
「デイジーはかわいいよ。でもあれだ、敵が強すぎる。フィービーたんの戦闘能力はS級だお」
「シーウェル男爵家をまるっと家探しすっか。叩けば埃のひとつやふたつ、出てくるっしょ」
「うん、そうしよ。みんな、ありがとね」
デイジー、感無量。持つべきものは、理解力と機動力が規格外のトモダチ。
「で、どうすんの? 夜中に忍び込む?」
「それだと見つかったときに言い訳できないぞ」
「だよね。なので、みんなの強みを活かした作戦を考えてみました」
「お、やるじゃん」
「デイジー、君は本気出せばできる子って知ってた」
褒め称えられ少し元気が出たデイジー。しっかりと作戦を説明した。




