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知ったかな姉と女神さま アリス・ブレンジャーSide(2)

***

王立魔術博物館から自宅に戻る馬車の中で、私は姉がブランドン公爵令嬢の研究記録を盗み読んだ可能性に行き着いた。


私は聖ケスナータリマーガレット第一女子学院の優等生だ。


優等生の私は、アルベルト王太子妃候補だったブランドン公爵令嬢の当時の魔力研究記録が保管されていることを知っている。誰にとっても巨大な魔力を手にすること自体ができないために、あまり一般には意味を持たない研究記録だ。後輩の中でも特別な優等生は閲覧可能だった。


今は、私とフローラ嬢が特別な優等生だ。

 

――お父様には申し訳ないけれど、「魔力配達馬車」の馬を借りることにするわ。ここでお姉様を足どめにするわ。

 

安全運転で走るしかない姉を乗せた「魔力配達馬車」に追いついた私は、馴染みの御者に館長娘特権でお願いをした。


――破廉恥で人騒がせなお姉様と次期館長候補の私では、職員の態度がまるで違うのよ。


館長娘特権で「魔力配達馬車」の馬を1頭拝借してしまったのだ。残りの1頭は近くの木に手綱を巻きつけた。


爽やかな笑顔で、たてがみを撫でて馬に言い聞かせた。


「可愛いぃ、お馬さん。ここで待っていてね」


「アリス、一体何やっているのよっ!貴女何を企んでいるの?」


「魔力配達馬車」に閉じ込められた姉は怒り狂って叫んでいた。


自分の乗せられた馬車が途中で止まり、私が姉の馬車の馬を拝借したことで、大変な激怒っぷりだ。だが、私は涼しい顔で全て無視した。


――企んでいるのはお姉様の方でしょうに、何を今更おっしゃっているのやら……。ただスケベで破廉恥なだけのお姉様がやらかしたことを「天才」策士の私が見逃すはずがないのよ!


「魔力配達馬車」に閉じ込められた姉が叫んでいる声は聞こえ続けたが、魔力配達馬車は目的地に到着するまで決して開かない馬車だ。魔力でコントロールされているのだ。馬が消えた魔力配達馬車は路駐するしかなく、周囲の好奇の目に晒されながら、姉を乗せた馬車は私が戻るまで待っているしかない。


王立魔術博物館の紋章入りの馬車に近づこうと思う人はいない。魔力を盗もうとしていると、あらぬ疑いがかけられるからだ。

 

――じゃ、私はお姉様の元親友のお方の研究記録を探しに行くわ!


私は自分が乗ってきた馬車を返して、姉の馬車から拝借した馬にまたがり、風を切って聖ケスナータリマーガレット第一女子学院まで向かった。


エイトレンスの街並みを疾走する自分が、周囲の好奇の視線にされていることは全く気にならなかった。

 

――スケベで破廉恥な姉がしでかした企みを絶対にこの私が止めてみせる!

 

私は猛烈な勢いで聖ケスナータリマーガレット第一女子学院に駆けつけて、憧れの先輩であるブランドン公爵令嬢の魔力研究記録を調べ始めた。



「違う、違う、違う、違う、違う……これは魔力に似た何かができた……?あぁ、これだわ!」


ブランドン公爵令嬢の研究記録が残されている特別室に忍び込んで、嵐のように書類の束をひっくり返して探し回った。どうやって魔力に似た違うものを作り出せるのかについては記録を見つけた。


「次は、強力にかけた魔法を解除する方法よ……」


そして、私が駆けずり回って書類をひっくり返している最中に、思いがけない来客があったのだ。

フローラ嬢も私と同じ見解に達したらしく、猛烈な勢いで研究室に飛び込んできた。


――感動いたしますわ……フローラ嬢、さすがございます!


――アルベルト王太子も一緒なのは残念だけれど……この2人は一緒に行動しているのね……。


「フローラ嬢!?あなたも気づいたのね。さすがだわ!」

「アリス!?」


――私たち優等生にとっては、色気だけが取り柄の姉の考えることは見破ることができること。


私はフローラ嬢と同じ推理ができたことが純粋に嬉しかった。


――そうよ、そうよ……私たちは「天才」策士の素質がありますのよ。


――同じデビュタントなだけでなく、私たちは通じ合える何かがある!彼女は信頼できる!



「じゃ、ここは任せるわ。ブランドン公爵令嬢が記した魔力の解除方法を探して!偽の魔力の作り方は分かったから!」


アルベルト王太子とフローラ嬢に魔力を解除する方法を調べることを託した私は、大急ぎで姉を閉じ込めている「魔力配達馬車」まで戻り、馬を戻してあげた。


流石に私が「魔力配達馬車」の配達人が座るべき御者台に一緒には乗れないので、アルベルト王太子が貸してくれた王家の馬車にこっそり乗って自宅に戻り、姉を泳がせたのだ。


ところが、予想に反して姉は途中でどこにも寄らなかった。魔力の隠し場所に立ち寄ると思ったジャックと私は意表をつかれて困惑した。


姉はまっすぐにオールドゲート監獄に向かったのだ。トケーズ川近くの監獄に向かい、途中でどこにも立ち寄らなかったのだ。


「どこに魔力を隠したの?」

「どういうことだ?」


私とジャックは訳が分からなくなった。


――絶対にクリスのところに行く前に途中で魔力を隠している場所に立ち寄って、魔力の塊を手にいれるはず……と思っていたのに違うの?



だが、事態は思わぬ展開を見せて、今に至るのだ。


姉が堅固な刑務所の建物の前で馬車を降りたとき、ワイン色の髪を颯爽と靡かせて現れた美しい女性が姉を足止めした。


それが、アルベルト王太子の元婚約者で、ブランドン公爵家から大国ザックリードハルトに嫁いだディアーナ皇太子妃だった。



***


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