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そこを裏切るの? アリス・ブレンジャーSide(3)

父は激怒していた。当たり前だ。

 

「ごめんなさいっお父様……」

ブルネットの髪を揺らして、姉が泣き崩れた。


――お父様、嘘泣きよ。そうやって男という男を手玉に取るのよ……。お父さまはお姉さまを分かっていない……。


姉から鍵をもぎ取るように取った父は、ガトバン伯爵夫人をじろっと見た。


「あなたもお引き取り願いたい。ここへの立ち入りは今後一切お断りします。この敷地に今後近づいたら、警察と国王に報告します」

「ごめんなさい……あの……つい興味本位で……本当にごめんなさいっ!」


ガトバン伯爵夫人は涙を流して謝罪した。


――うっそくさ……。


「エミリー、お前は当分の間外出禁止だ。家に帰りなさい!執事のデービッドにお前を監視するように伝えておくからな!」


私の父は仕事中毒でもない。少々脇が甘い。そんな言いつけを姉が守るはずがないが、父には見抜けないだろう。


私は柱の鍵に身を潜めたまま、どちらの跡をつけるか考えた。


――お姉さまはきっとクリスを助けるわ。


――あの顔がちょっといいだけのクズ男とお姉さまの組み合わせはよくないわ。


――「集めた魔力」という言葉が何を意味するのか考えたくもないけれど……闇堕ちレベルの破壊的な匂いがするわ……。


私は胸の前に靴を抱えたまま、じっと身を潜めた。


父の逆鱗に触れた特別管理室の見張り番が連れてこられて、父にクビを言い渡された。新しい見張り番が緊張した面持ちで特別管理室の前に立ち、ようやく父が姉の腕をつかんで、泣き崩れた(ふりをした)姉を連れていくのを私は柱の影から眺めていた。


ガトバン伯爵夫人もずっと涙を流していた。姉と一緒に館長の逆鱗に触れた夫人という強い印象を周囲に与えながら、出ていった。


――「集めた魔力」をお姉さまが持つならば、その代わりに王立魔術博物館の管理する「魔力」は何になったのだろう?

 

――あぁ、だから闇の禁書なの?禁書を使って、魔力に見える魔力ではない偽物と本物をすり替えでもしたとか……?


私は雷に打たれたような衝撃を受けた。


――魔力に見える「魔力」でないもの……!?


――それを闇の禁書を使って実現させたの……?

――あのスケベで破廉恥なお姉さまが!?


――誰か協力者が他にいるはずだわ。仕事中毒で魔力博士のように力がある人物が。

 


「あっ!」


私は思わず声を上げて、慌てて口を塞いだ。胸に抱えていた靴が床に落ちて、新しい見張り番がさっとこちらを見た。


――見つかるのはまずい!


慌てて私は柱の影から後退り、靴を拾い上げて素早く動いてその場から離れた。


途中で靴を履き直した。足早に出口に向かう途中で、テスに見つかった。


「アリス!どこにいたの?エミリーはとんでもないことをしていたわ……激怒した館長がさっき馬車に押し込んで、家に強制送還されたわよ」


私は驚いたフリをした。


「そうなの!?お姉さまが怒られるのを見たかったのに、貴重な場面を見逃してしまったわ。残念よ」


「館長が倒れなければいいけれど……あんまり真っ青なお顔で激怒されているから、ちょっと心配で……」

「ガトバン伯爵夫人は?」

「今後敷地内に近づいたら、国王陛下と警察に報告すると言い渡されていましたわよ。先ほど馬車を手配されて、お泊りになっているホテルまで帰るように言われておりましたわ」


――王立魔術博物館の所有する配達馬車を使ったのね……だとすると、2人ともお父様が手配した行先に着くしかないわね。


私はそう考えてうなずいた。


「家に戻ってお姉さまの様子を見るわ。ありがとう、テス」


私はテスに抱きついた。テスは純情なところのある若いワーキングガールだ。アルベルト王太子とのことは深く反省して心を入れ替えた。


――お姉さまもテスのように心を入れ替えればよかったのに……。今度やらかしていることはきっと犯罪だわ。見逃せない。


私はテスに背中をトントンと優しく慰められて、ほっとした。


「じゃあ、またね、テス」

「えぇ、アリスもね」


私は馬車乗り場に急いだ。普通の辻馬車より、王立魔術博物館の馬車乗り場にいてくれる馬車の方が贅沢だ。

「ブレンジャー子爵邸までお願い」


私はそう御者にお願いして座席に身を沈めた。


――1人だけ、かつてお姉さまの身近に数年もの間いて、魔力の研究に関しては真面目で博士並みの知識を持つ人物がいるわ。


――ブランドン公爵令嬢ディアーナ……かつてお姉さまの親友だった彼女なら、魔力に見える「魔力」でないものが作れるかもしれない。


――ただ、お姉さまの協力者なんかじゃない。親友と思っていたお姉さまに裏切られたディアーナさまが、姉さまの協力者になるはずがないわ。


――彼女も利用されたんじゃないかしら……?


――お姉さまは親友を裏切り、親友の婚約者を寝とっていた。深くそのことに傷ついた彼女は国を出ていき、隣国の皇太子と恋に落ちて華々しい結婚式を挙げたわ。お姉さまは、今度はその元親友である彼女の力を利用して何かを企んでいるの……?


――そうでないことを祈りたい……。


――もしそうならば、あまりにクズよ……お姉さま……ただスケベで破廉恥なだけを遥かに逸脱しているわ。


――天才的な策士である妹でしか気づかない思考回路ならば、私は自分の役目を果たすだけだわ。


――絶対にお姉さまの仕掛けたゲームで勝ってみせるわ。私が止めてみせる!


馬車が家につくまでの間、夕暮れのエイトレンスの街並みをぼんやりと眺めた。だが、心中穏やかでは決してなかった。


――クリス・オズボーンとお姉さまが繋がっていたら、本当に最悪よ。



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