3:依頼を受けたが今日も呑む
なぜかこちらばかり書いてしまっています。
「私はセイゲル騎士団渉外担当部門の副部門長、アーウェン・ケンメルだ。正式な名乗りは長くなるから省かせてくれ。」
騎士団本部の応接間で、先刻ギルドで話した線の細い男と向き合っていた。
「まず、これから話すことは他言無用だ。断るのは構わないが、言いふらした場合はこちらも考えがあるということだけは伝えておく。」
彼の言葉に了承すると、彼は頷き話を進めた。
昨年の新年祭で特別なことが起きたこと。
それによってとある予言が確実視されるようになり、どうにかしようとなった時に白羽の矢が立ったのはセイゲル騎士団であったこと。
これまで上手いこと立ち回ってきたが、来年の新年祭でその成果を見せるよう陛下に命じられたこと。
ここまで話すと彼は一度口を閉じる。
どうやらこちらの様子を伺っているようで、チラチラ見てくる。細身とはいえ長身の青年にそれをされても可愛くないのだが……。
とりあえず苦労を理解しているというポーズを取ることにした。
「……大変だったのだな」
「そうなのだ!分かってもらえるか!」
食いぎみに頷かれた。手を取らんばかりの勢いである。
いや、大丈夫なのか騎士団。心配になるぞ。
なにやら愚痴が止まらぬ彼の話を聞き流す。
あいつらは現場を知らないだの、プライドだけは一人前だの、今回の要望も苦労しただの、聞こえてくる。
彼らの苦労が偲ばれる。
なんせかれこれ十分弱愚痴を続けているのだ。
いや、本当に大丈夫か騎士団。
しかしこの愚痴から察するに、ろくでもない奴が騎士団の命令系統に入ったか。
貴族のボンボンでも預かったのか?
いや、セイゲル騎士団は権威ある騎士団故に貴族出身の騎士がとても多かったはず。
高位の貴族家からも入団している者はいたはずなので、貴族のボンボンといえども無茶を通すのは簡単じゃない。しかし、彼の愚痴を聞くに結構な頻度で無茶や面倒事を言われているようである。
と、言うことはだ。
「王族の誰かが入団したのか?」
確か、末の王子殿下は今年15歳で成人を迎えるはず。
「……それもある。」
非常に頷きにくそうに、しかし力強く頷かれてしまった。
「待ってくれ、それも?」
「そうだ、殿下だけではないのだ。というより、去年の新年祭での件は殿下と関わり無い。」
言いづらいが、末の王子であるため然程権力があったわけではないのだ、とアーウェンは言う。
もともと困っていたのは王子が入団する前からで、王子が入団して"あいつら"と出会ったことでより困惑することが増えたのだ、と彼は嘆いた。
私は困惑した。
結局"あいつら"とは誰なのか、そこが分からない。そう率直に彼に告げると、彼は答えてくれた。
「話題に出していたのは、勇者様方のことだ。」
「……勇者?お伽噺のか?」
「まさか、本物だよ。素質においては間違いない。」
「……なるほど。もう一ついいか?様方なんて言い方、何人いるんだ?五人とかか?」
「聞いて驚け、30だ。」
絶句した。
何だその数、ふざてんのか。
いや待て、30ということは一クラス丸ごとか。
こちらを見ながら彼は笑う。馬鹿げた話だよな、と。でも、と彼は続けた。
「信じ難いだろうがこれは本当だ。貴族も宮廷魔術師も大司教もいる中、陛下もおわすその前でだ。彼らは光と共に現れた。しかもその後の検査では全員【勇者】持ちだ。私自身夢ではないかと疑ったくらいだ。
実際に目の当たりにせねば信じられんだろう。」
【勇者】持ち。そう、この世界では才能を可視化することが出来る。
といっても前世のゲームのようなステータス画面を開くのではなく、魔法の道具の効果によるものだ。
当然、道具を使うことの出来ない者や存在自体知らない者などもいて、小説のように全員が自分の才能を知っている等と言うことはないのだが、そこはアレだ。
王族の、いや国王の威光が発揮されたのだろう。
「話は初めに戻るが、勇者が現れたことで予言は確実視されている。その内容は王国に大いなる脅威が訪れるというものだ。
詳しく話せないのはすまない。そこまでの開示は許可されていない。
それで君たち冒険者への依頼は、勇者への指導だ。よければ仲間に加えて貰ってもいい。」
「ちょっと待ってくれ、指導?それは騎士団の方で行っているのでは?」
「無論行っているとも。
これは勇者たちの希望なのだ。冒険者の話が聞きたいらしい。
まあ、話だけで済むとは思えんがね。」
彼のにたりとした笑みを見て、言外にぼこぼこにしてしまえ、と言われているのが分かった。
「なるほど。30人の内に性根の曲がったのがいたんだな。」
「その通りだ。一度で直ると思えんが、機会があれば是非とも頼みたい。」
「あまり積極的にやりたくはないが、依頼を受けよう。
ついては雇用主殿、勇者様方について詳しくお聞かせ願いたい。」
「資料にまとめてあるから後程渡そう。
……それから急に改まってどうした?」
「雇用される側になりましたからね。口調には気を遣いますよ、騎士団ですし。」
アーウェンが困っているのが分かる。
さっきまでズケズケ話していた奴が急によそよそしくなれば戸惑うのも無理はない。
その様子を見てひとまず信用できそうだと感じた。
戸惑うということは、冒険者に対して理解があったということであるからだ。であれば、時折いる馬鹿な貴族と違ってとんでもない無茶を投げてくることはないと見ていいだろう。
彼は言う。
「普通は逆というか、初めこそ丁寧に振る舞うべきではないか?」
「それを言うなら貴方もでしょう。」
苦笑しながら返す。彼はうーむと唸った。
粗野な冒険者として振る舞いながら、信用できそうな依頼主には丁寧に振る舞う処世術。これがこの世界では中々うまくいった。
「礼には礼をもって返すものですから、その通りにしているだけですよ。粗野な冒険者であっても受け入れる度量が貴方にありそうでしたから、より受け入れやすいように振る舞いを変えたのです。」
こちとら、元貴族なのだ。この程度の振る舞いはできる。最近忘れ気味だが。
「そう言えば君はブロンタード男爵家の出だったな。」
「ええ、成人を機に家を出まして。」
「騎士団は先々代の当主殿にお世話になっていてな。受け入れる度量があるように見えたなら、きっとそれが関係しているだろうな。
こちらとしてはありがたい話だ。」
「そうでしたか。
でしたら、気になることもございましょう?」
「まあ、聞きにくいことではあるがこの際聞かせて貰おうか。」
そう言うと、彼は身をのりだし机に肘を置く。
「君の家は〔剣狂い〕と称されるほどに【剣士】持ちの輩出が多い。故に武闘派な貴族だと知られている。先代も先々代も【剣士】持ちだったな。
しかし当代は【剣士】どころか、戦闘向けの才能を持っていないと聞く。
そして君は単身で冒険者としての活動ができるほどの戦士だ。
率直に聞こう、なぜ君が当主ではないのだ。」
当主についてここまでまっすぐ問われたことは初めてだった。あまりにもストレートな言葉に思わず苦笑が漏れる。
彼は私の顔を見て憮然とした表情をした。
「失礼しました。ここまで率直に聞かれたのは初めてのことでして。
理由は二つです。一つは、兄弟での争いなんてつまらないことでしょうから。兄とは年も離れておりますし、私が黙っていれば既に決まった路線からは外れませんでしたよ。もう一つは、先々代の遺言です。『オーガストを当主にするな』とのことでした。」
「そうだったのか、欲の無い話だな。だが、家内で争っている貴族に聞かせたい話だ。
しかし、失礼なことを聞いてしまった。
詫びとして一つ伝えておきたいことがある。」
彼が居ずまいを正すのにつられて、こちらも姿勢を整える。
「勇者様方は30人もいるため一枚岩ではない。しかし、一応とある勇者を中心にまとまっている。
なぜならその勇者は他の勇者様方より発言力が強く、そして王子と仲が良いからだ。
実質的に力でまとめているということだな。」
「つまり、叩くならその勇者ということですか。」
彼は無言だった。
だが、それこそが答えだ。
アーウェンはこれを伝えるためにわざと家の事情を聞いてきたのだろうな。
話も終わりなのか彼が席を立つ。
「後ほど依頼書をギルドに届けさせる。資料も一緒にだ。
受け取っておいてくれ。よろしく頼むぞ。」
そう言うとアーウェンは部屋を出ていった。
私の方は団員に案内されて応接間を出ると、そのまま騎士団本部を後にした。
勇者に出くわすようなことはなかった。
とりあえず明日、ギルドで資料と依頼書を貰うと心のスケジュール帳に書き留め、酒場に向かう。
おそらくこの先呑む機会が減るだろうから、呑み納めである。
ご高覧くださりありがとうございます。




