4:嘘つきが一人、外道は何人?
やたらと筆が進むので本日二度目の投稿です。
もしかすると近い内に次の投稿も出来る、かもしれません。出来たらいいな。
よろしくお願いします。
去年の新年祭でのことを酒場で情報収集したが、あまり話が聞けなかった。
むしろ、今年の新年祭でのことを聞かされた。何でも神殿の一部で火事が起きたそうである。
これが結構大きな火事になったそうで、祭りに出掛けていた民衆は煙に巻かれたり、逃げる時に転倒したりで数十人単位で死傷者が出たのだと言う。
今もグラスを傾けながらその話を聞かされている。こいつで四人目になる。大まかな内容は前の三人と同じだ。
「でよぉ、俺は見ちまったんだよ。」
聞き流しているところで突然、男が声を潜めて言う。辺りを気にしている様子もあって、何かこれまでの三人と異なる情報が出るのではと期待が持てた。
「で、何を見ちまったんだ?」
こちらも小声で問う。さりげなく男の手元に銀貨を置きながらだ。
スパイ映画のようで少しだけ心が躍る。
男は銀貨をそっと握りしめながら、ヒソヒソと先を話した。
「それがよぉ、俺だって細かくは分かんねぇんだが。」
言葉を切り、キョロキョロする男。
そこそこ高級な酒場なので騒ぐような奴はいない。そのためかなり静かである。それが気になるようだ。
「仕方ねえな、河岸を変えるぞ。」
前から言ってみたかった台詞の出番である。まさか、機会があるとは。
そう言って立ち上がるも男はポカンとしている。こちらを見上げる目には疑問の色が浮かんでいた。
「あんた、何言ってんだ?」
ああ、そうだった。
こちらの世界で河岸を変えるなんて言い回しはしないのであった。
男の目に浮かんだ疑問の色が警戒へと切り替わっていく。
「……あんた何もんだ、この国の奴じゃねぇな。」
男の腰が椅子から浮く。
声の調子も先ほどまでの陽気で付き合いやすい感じから、ドスの効いた声へと変わっていた。
ため息をつく。完全に失態を犯した。
映画みたいだと浮かれていたら漫画のような失敗をした。
グラスをぐっと呷る。
空になったグラスをテーブルに置く。
「他国にも行ったことがあるただの冒険者だよ。警戒させて悪かったな。」
大銀貨を五枚テーブルに置き、テーブルを離れる。
男はこちらをじっと見ていたが、何か言うでもなく座り直すのであった。
そのまま酒場を出る。今日はもう寝よう。
酒場で失敗した翌々日、騎士団の練武場に来ていた。
砂地に覆われた練武場はかなり広かった。
前世の記憶にある総合体育館より尚広いのではなかろうか。
その中心に立つ。
依頼の開始である。
依頼書には、襲いかかる勇者を退けてほしいと書かれていた。
読んだ時は正気を疑った。疑いすぎて三度読み返したが、何度読んでも変わらなかった。
私のことは勇者たちに伝えてあるため、挨拶などはなく時間になったら勝手に始めるとのことだった。
動物とか魔獣のような扱いだな。
下手に接触して、先日の酒場のような失言をしたらと思うとこの形式は助かるが。
依頼書によれば全部で18名の勇者と1名の王族が参加すると言う。
王族の参加は、……まあアーウェンか誰かは知らないが、上手いことやったのだろう。
木剣を振る。今回、手加減として刃引きした剣ではなく木剣の使用を指定されていた。
木剣を振る。まだ誰もかかってこない。
遠巻きに囲むだけだ。
揃いも揃って腰が引けている。視線を迷わせ、こちらを見ようとしない。
これじゃ、ガージャバンダ横取りに来た髭どもの方が気合い入ってたな。
だらん、と木剣を下げる。
真面目にやろうとするのが馬鹿らしくなったのだ。
というか、アーウェンと話したときは一応指導だったはずだ。これでは模擬がつくが戦闘訓練だ。
だが、依頼は依頼。受けると約束した以上勝手は出来ない。それを許せば、これまでの己れが崩れていく。
ザリザリと砂を踏む音が回りをめぐる。19人もいるのにこれでは、大いなる脅威がどんなものか知らないが、勇者が当てにならないことだけは分かる。
ふと天井を見やる。高い天井だ。
オベルビロイを縦に三頭積み上げられるくらいの高さだな。
こんな天井の高い建物を作れるとはさすが王都といったところか。
視線を戻す。
あからさまな隙を作ったのに誰も踏み込んでこない。
既に体感で、夜営で一品作れるくらいには同じ状況が続いている。
下げていた剣を上げ、金髪の少年を指す。周りが黒髪だからとても目立つ。十中八九、王子だろう。
王子の顔が歪む。プライドが高いとのことだし、他を置いて自分だけ指されるなんてきっと挑発と受け取ったことだろう。
そして、その通り挑発だ。ニヤリと笑って見せる。
その瞬間、王子が踏み出してきた。
その顔は誰かを守らんとする戦士の顔だ。
それにつられて五人、王子の近くにいた奴も動き出す。
それを待ち構える。
背後の勇者たちは様子見か。
王子は三歩で距離を詰めると、大上段から剣を振り下ろす。剣筋がある程度立っていることに驚いた。
この王子、ちゃんと剣を振ったことのある人間だ。
だが、あの髭どもの方が強い。
王子の剣を木剣で迎撃すると同時に足払いで王子を転がす。地面に転がった王子に足を止めた二人を無視し、側面から襲い来る勇者三人に対処。
右から来た一人目は、剣を振る前に胴を蹴る。
蹲るのを尻目に二人目の突きを左手で払いのけ、すぐさま拳を胸元に叩き込む。
咳き込む勇者の首元を掴み、一人目の後ろにいた三人目の勇者目掛けて放り投げ、一人目は踏みつける。
背後からかかろうとしていた勇者たちの動きが止まる。
自分達も似たような目に遭うと直感したのだろう。武器を投げ出す者すらいた。
いくらなんでも心が弱すぎるのではないだろうか、戦えないぞそんな様子では。
ため息をつく。これでは弱いものいじめではないか。
依頼してきたアーウェンにも、こんな内容を考えた騎士団にも、安請け合いした自分にも腹が立った。
踏みつけていた足を退ける。
よろよろと起き上がる勇者。持っていた武器で戦いを続けるなんてことはせず、さっさと離れていく。
勇者たちは皆遠巻きにこちらを見るだけだ。訓練どころではない。戦意もなくなっている分、スタートより悪くなったかもしれない。
「アーウェン!」
「何だ、オーガスト。先日の言はどうした、大声で呼びつけるとは君らしくない。」
「これ以上は無理だ。」
「それは同意だ。今日は終わりにしよう。」
「訓練だけの話ではない。彼らは戦士じゃないぞ、アーウェン。出来ないことを無理にやらせようとするな。」
「見解の相違だな。それに無理強いはしていない。」
「それは嘘だろう。彼らは私でない何かを恐れていた。それに先日の話も嘘まみれだろう。」
アーウェンの眉尻がピクリと動いた。
王子の剣からは鍛練の形跡を感じられた。
勇者たちだって尻込みしていたがそれでも自分から動いた。誰かに命じられた動きではなかった。
彼らはきちんと団結している。
「いいや、そんなことはない。必要なことは正直に伝えたとも。」
「必要なことか。それは勇者が30人じゃないことは含まれていないんだな。」
「っ!」
勇者たちは目を見開いてこちらを見ていた。
「待ってくれ!」
勇者たちから声がかかる。あれは、王子に続いて向かってきた勇者の一人だ。
「俺たちは35人クラスだ!先生だって居た!
勇者が30人ってどう言うことだよ!」
勇者の叫びが練武場に響く。
アーウェンは何も答えない。
「今年の新年祭では神殿の火事で死者が出たと聞いた。気になって昨日調べてみたが、既に補修された後だった。だが、火元から離れた草むらを調べているとこれが落ちていた。」
懐から取り出した銀色の釦を見せる。
勇者たちは皆驚きの目で見ていた。
「それは俺たちの制服の!」
「あり得ん!隈無く浚って何も残してなかったはずだ!」
アーウェンが堪らず叫ぶ。叫んだ後でしまったという顔をしていた。
こういうのを何と言ったか、問うに落ちず語るに落ちるだったか。
初めから嘘をついていたのだ、この男たちは。
不都合な人物を消し、人数を偽った。この分では陛下に正しい報告など行ってはいないだろう。
アーウェンの視線が王子の方へ向く。じっとりとした暗い視線だ。
勇者たちが王子を庇うように動く。
舌打ちをしたアーウェンは入口付近に控えていた騎士に叫ぶ。
「マジェロ!やれ!」
騎士が剣を抜き踏み出す。
「アーウェン、判断が遅いぞ!」
そう騎士が答える声はすぐ後ろから聞こえた。
「っ!」
咄嗟に横に転がる。
一瞬前まで立っていた場所には剣が振り下ろされていた。
恐ろしく速い。10mではきかない距離を一息に詰めてきた。
マジェロと呼ばれた騎士の目を見て悟る。
冒険者を呼んでいた理由はこれだ。
人が殺される所を間近で見させて心を縛っていたのだ。
というかだ。
「……ギルドが片棒担いでんじゃねーよ、くそったれが。」
手には木剣、後ろに子供たち、相対するは手練れの騎士。さすがに死んでもおかしくないぞ。
ご高覧くださりありがとうございます。




