039 キッドの冒険~役者はまだ揃わない
あと一話でキッドの冒険を終わらせるためには最後が長くなりそうです。まあいいかと思っています。
《キッド》
「すっげーな! お前、そんなに強かったのか!」
興奮した様子で駆け寄るビリーにキッドはどう言ったらいいものか困ったように苦笑することしか出来なかった。キッド自身、今起きたことが信じられない気持ちでいっぱいだったのだ。
ネムネムに出会うまでは戦いとは無縁な生活を送り、ネムネムに拾われてからは召喚者たちに囲まれレベルの差を思い知らされるばかりの日々。実力が徐々についたとしても実感できる場面がなかったことが原因だろう。
「と、とりあえずここから離れよ? ねっ?」
「ん? そうか? そうだな。その方がいいかもな」
男たちはリーダー格を倒されたことでキッドの強さに恐れをなして逃げ去って行ったが、仲間を集めて来ないとも限らない。そうなれば数の前に子ども二人、勝てる確率は限りなく低くなってしまう。
「つってもどこに行くか……」
「……ひとまずは男たちが向かった場所じゃないところならどこでもいいと思うけど」
その場所がまずわからないので、逃げようがない。
キッドの頭の中ではネムネムたちに助けを求めるべきかどうかで迷いが生じていた。
「それならわかる」
「えっ?」
「……というか、あいつらが向かう場所なんて一つしかない。――おれの、おれたちの家だ」
「ど、どいうこと? なんでビリーの家に?」
「……あいつらはおれの家を乗っ取ろうとしてやがるんだ。そのためにおれの仲間を捕まえて回ってる」
出会ったばかりで互いの事情を全く知らない二人。
キッドはビリーが負われている事情を知らず、ビリーはキッドが一人の事情を知らないままだということにようやく気付いたのだ。
「――おれは親がいない」
ビリーは徐に事情を説明し始めた。
「……そうなんだ。おれも親はいないよ」
「……そっか。今は珍しくないのかもしれないな」
魔族と人間だけでなく、大国とその他の国という人間同士での争いに加え、あまり知られてはいないが真の勇者などの第三勢力も存在するのだ。争いが絶えないということは犠牲者が出るということでもある。
「今は同じような奴らと一緒に暮らしてる。そこの院長が良い人でさ、おれたちは実の親のように思ってるんだ!」
ビリーの様子からは院長を本当に慕っているのが感じられた。
しかし、話しを進めて行くとその笑顔が曇り始める。
「今から一週間ぐらい前、いきなりさっきの奴らが現れたんだ」
男たちは孤児院にやって来たかと思うと、何もわからない子どもたちを捕らえ始めたという。
「……院長って人はいなかったの?」
「院長は忙しいからさ。出かけたらしばらく戻ってこないんだ」
「……しばらくってどれぐらい?」
「う~ん……たぶん十日ぐらい?」
「そんなに!?」
「まあ、だけどそろそろ帰って来るはずなんだ! そうしたら、あいつらの好きにはさせねえ。ただ、そのためには院長が帰って来るまではおれが捕まるわけにはいかないんだ!」
「ビリー以外はみんな捕まっちゃったの?」
「……間違いないと思う。おれも途中までは守ってたんだけど、どんどん数が減っていったし。それに、一度だけ、あいつらから逃げた後に家に様子を見に戻ったことがあったんだけど、いない奴の方が少なかったからな」
「……そうなんだ、心配だね」
「だけど、お前がいる! キッド、もしかしたらお前ならあいつらに勝てるんじゃねえのか?」
「うう~ん、どうだろう?」
正直なところ勝てるのかどうか言われてもわからないと答えるしかない。
先程倒した相手がリーダーならなんとかなるだろうが、男たちは去り際に「覚えていろよ!」という負け惜しみのようなセリフを吐いていったことからも何か勝算があるように思えてならない。
何よりもキッドには戦闘の経験がないので、自信もなかった。
「なんだよっ、頼むよ! 一緒に戦ってくれよ!」
必死に懇願され、助けたという思いはあっても……動けないそんなジレンマを抱えてしまう。
「そうだ!」
なかなか、承諾を貰えないビリーだが何か思いついたらしく、キッドの手を引いて走り出した。
「うわっ!? び、ビリー? どこに行くの?」
「院長だよ! そろそろ帰って来るんだから、院長と合流すればいいんだ! そうすれば、一緒に戦ってくれるだろ!?」
「えぇ~!?」
別に院長がいたところで戦うかどうかわからないのに、勝手に決まった話に困惑してしまう。もはや訳も分からずに騒動に巻き込まれていくことしか出来ないキッドだった。
「……あ~あ、行っちゃった」
「……どうする? 追いかける?」
「う~ん……とりあえず様子見? 院長って人も気になるしねー」
「んじゃ、オレがちょろっとあの子の家を見て来てやるよ」
「ふふっ、優しいわね。きっといいお父さんになってくれるわ」
「よせよ。照れるじゃねえか……!」
「はいはい。惚気は置いといて、行くならさっさと行ってね」
「……厳しいな」
《ビリー》
「……ゴホッ」
「おい、さっさと歩けこのクソ兄貴!」
「……ゴホゴッホ、まったく。病弱な兄になんて冷たい弟だ」
「てめえが病弱なせいでこっちは迷惑を被ってんだ! 命があるだけ、ありがたいと思え!!」
「……やれやれ。誰に似たのやら」
「おめえじゃねえことは確実だよ!」
「まあ、なんにせよお前の言うことが正しいのならば――」
二人の兄弟が会話を交わす中、元気な少年の声が遠くから聞こえてきた。
『院長~!!』
「……んん? どういうことだ?」
「あの人が院長さん?」
「ああ、間違いねえ!」
「……で、どっち?」
「背の高い方だよ! もう一人の方はなんか嫌な感じするだろ!!」
分かれと怒鳴るビリーに対し、どっちもどっちで怪しいと思ったことは言わない方が良さそうだと年齢の割に空気を読めるキッドであった。
「……いや、どっちも怪しすぎでしょ」
「それは言い過ぎじゃない?」
「だってさ、背の高い方は顔色が怪しいし、絶対に何かをたくらんでる顔だよ? もう一人の方はいかにも悪そうな顔で、でっぷりしてるでしょ?」
「……弟さんの方はともかく、お兄さんの方はどこか悪いだけでしょ?」
「え~そうかな?」
「「そうです!」」
「ぶ~、つまんない!」
「「面白がらない!!」」
「ビリー! ビリーじゃないか!!」
「院長! おかえりなさい!」
「ああ、ただいま。……おや? そっちの子は新しい子かな?」
「違う違う。こいつはさっき会ったばかり。名前はキッド」
「そうだったのか。これは悪かったねキッド君」
「あっ、いえ」
「……ところでキッドどうしてこんなことろにいるんだい?」
「そうだった! 院長、家が大変なんだよ!!」
「……落ち着きなさい。大変なのは知っているから」
「……どういうことですか?」
「ああ、実はこいつは私の弟なんだがね、子どもたちを捕まえたから私に言うことを聞けと言うんだよ」
「「えっ!?」」
それまで無視していた男がとんでもなく悪い奴だったとわかり、ビリーは怒りを隠さずに睨みつけ、キッドはどこか納得したような雰囲気で少し距離を取ってみた。
一方、あっさりと真相を暴露された院長の弟はというと、別に気にした素振りも見せず不機嫌そうに鼻を鳴らすだけだった。
「チッ、予定では今日の段階ではガキどもを全員とっ捕まえているはずなのに役に立たない連中だ!」
「……お前は昔から肝心なところで抜けているんだ。それもこれも自分でやらないからだぞ?」
「うるさい! 説教なんてするんじゃない!!」
被害者と加害者のはずなのに、あくまで兄弟ゲンカの範疇を抜け出せないのは二人の性格ゆえか。どちらもが抜けているからか。
「なんにせよ、あまり子どもたちを不安がらせてはいけないな。さあ、キッド我が家に帰ろうか」
「うんっ!!」
「……とりあえずついて行ってみるか」
「ハハハハッ、飛んで火にいるバカとガキだ! 貴様らの家に付いた時が貴様らの最後だ!!」
「……この人には黙っててもらった方がいいんじゃないかな?」
そんなキッドの呟きなど前を行く二人には全然届いていないのだった。




