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029 迫り来る危機~べ、別にデレてなんていないんだからねっ!

「ひぃぃぃ、もうダメだぁああ!!」


 突然この世の終わりが訪れたように悲鳴を上げてカウンターの下に隠れる医者。

 ……誤解されないように言っておくが、別に委員長(私たち)が脅したことが原因ではない。

 たしかに、薬や包帯などを用意している間もずっと小刻みに震えてはいたが、今回の原因は問うt所として鳴り響いた鐘の音だ。激しく、一定のリズムで鳴らしているというよりはただただ力任せに叩いている。叩き方から発信者の焦りが伝わってくるようだった。


「……どうしたの?」


 何かとんでもなくマズイことが起きる予感がする。


「お、終わりだ。とうとう、この町も狙われたんだ! 奴らが来る――魔王軍がっ!!」


「魔王軍!?」


 話の中でしか聞いてなかった存在がこの町を襲おうとしているっていうのか!

 だとしたら、この嫌な予感は……。


「失礼しますっ!!」


「……やっぱり来た」


 想像よりも早くやって来たのはついさっき医者を見捨てて逃げて行った兵士たちだ。

 委員長に怯えていた彼らが真っ当な目的でここに戻ってくるとは思えない。それを証明するように彼らは一様に身形を整えて来ていた。そのうえ、見知らぬ男……おそらく彼らの上司まで引き連れていた。


「やはり、まだここにいらっしゃいましたか……」


 どこか安堵したような声を上げるのは委員長に返り討ちにされた兵士の一人。

 反応を見る限り、報復ではない。ただ、報復よりも厄介な問題を持ち込まれたような気がする。


「……失礼、先程は部下がご迷惑をおかけしたとか」


「……いいえ。大したことではありません」


 委員長は気にするなと返答する。

 たしかに襲われたのは私たちだったが、ケガ具合を見ると加害者は私たちだ。その私たちがまるで上から目線で言うことではない。

 これは暗に私たちには関わるなと遠回しの拒絶を告げていたのだ。


「そういうわけにもいかないのです。実は折り入って頼みたいことがあります」


 物腰は低いが、引く態度は見せない。

 そもそも町の緊急事態にその町を守るべき兵士がこんなところに来るわけがない。そりゃあ、ここは病院だし怪我人が出た時の応援を頼みに来るぐらいはあるだろう。ただし、それはモンスターが襲来した時のように助かる可能性があるばあいだ。

 相手が魔王軍では生き残れる可能性は低いはず。

 それなのに、ここを目指してきたのは目的が病院ではなく委員長だからだ。


「お願いです。町の防衛のために力をお貸し願えませんでしょうか?」


「……よそ者の私に、ですか?」


「……はい」


「俺達が実力不足なのは重々承知しています。身体を鍛えて粋がったところで勝てるのは精々町のチンピラレベル。あなたたちのようにレベルを上げている人たちには手も足も出ません」


 兵士は苦悶の表情を浮かべて痛めつけられた箇所にそっと触れている。

 彼らの表情を変えさせているのは肉体的な痛みからではなく、力不足を嘆く後悔の念だ。委員長に負けたことはどうでもいい、しかしこれから来る襲撃の被害者は自分たちではなく、親しい者たちだ。


「……情けないことに、この町でレベルを上げている者はごく少数です。私を含めても十人弱しかいません」


「隊長!」


「弱気にならないでください! あなたが弱気では、我々はどうすればよいのですか!」


「黙れっ! 今は、どんなことがあろうとも町の人を守ることを優先する必要がある。そのために、彼女たちに助力を乞わねばならん。……くだらん隠し事をしている場合ではないのだ」


「……あんまり期待されても困るんだけど」


「私たちでお力になれるとは、思えませんが……」


「わかっています。何も前線に立って戦ってほしいと頼みたいわけではありません」


「だったら、お力になれることは……」


「ですが!」


 断ろうとしたが、隊長さんは大声で遮った。


「……お願いします。町の民が避難場所に逃げれるように……。そのために力を貸してください!」


「「「お願いします!!」」」



「……来たみたいね」


「ほんっとに委員長はお人よしなんだから!」


 町に近付いてくる土煙は徐々に大きくなっている。

 あれが全部魔王軍の軍勢が上げている土煙だと考えるととんでもない脅威だ。


 結局、委員長は隊長たちの懇願に負けた。

 頭を下げるという行為が一種の脅迫であり、地位や力のある人物がするそれを断るのが難しいとか町の人からのプレッシャーもある中逃げにくいとか色々と理由を考えていた私の予想を裏切り、それはもうあっさりと。


「……しょうがないでしょ? 目の前で困っていたら、放っておけなかったんだから」


 そう言いつつ、どこかバツが悪そうなのは私たちを巻き込むことに申し訳なさがあるからだろう。


「……まあいいよ。ほとんどの人の避難は終わったんでしょ?」


「そのはずよ。あと残っているのは町を守るために残った兵士の人だけのはず……」


「謎だよね~。私に言わせれば人のいない町なんて守る必要があるようには思えないんだけど」


「……愛着や思い出っていうモノあるんでしょ。それに、それはあくまで部外者だからこそ言える言葉よ」


「そりゃそっか」


 地球でも災害や事件で多くの物を失っている。

 特に日本なんかは地震大国として居場所を失った人も多い。別の土地に移っても故郷としての思い出はなくならないし、出来ることなら戻りたいと思うのが人情か。


 違いがあるとすれば、魔王軍という明確に敵対する存在がいること。つまりは、これが戦闘行為によって引き起こされていることだ。

 戦闘行為……言い方をぼかしたが、これは戦争だ。

 それも人類と魔族という種族間の戦争。

 和解しようと思って和解できるものでもなく、終わりの見えない戦い。その一端が目の前で繰り広げられようとしている。

 地球に帰れるかどうかもわからない現状、他人事と言ってられる問題ではない。


「……始まった」


 遠く離れたところから聞こえてくる雄叫びや武器がぶつかる音、それに混じる悲鳴に破壊音。

 これが、本当の戦闘。

 ゲームみたいな世界でも、そこに生きている人はちゃんといて、その人たちにとっては他のものに帰ることなんて出来ない現実。


「ネムネム、ダブタチ……」


「うん、わかってる」


 高い所から見ていた大鳥さんの呼びかけでハッと現実に引き戻される。


「……このままじゃ負けちゃうね」


 元より勝算の低い戦いだ。

 どれだけ激しい戦闘が行われているのか、町がどんどん見る影もなく破壊されている。


「あ~もうっ!!」


 なんだか放っておけない。いや、放っておいちゃいけない気がする。


「関わるつもりなんてなかったのに!」


「ふふっ、結局夢宮さんだってお人よしってことよ」


「さっすがの二人だね~。似た者同士、お似合いだよ」


 なんとでも言いなさい!


「レーム! ドーム!」


 別に叫ぶ必要はないんだけど、ここは気分。

 だって私たちは繋がっているんだから。


『カタ、カタタタッ』


「うわああっ!? あ、アンデットだああああ!!」


「そんなところにいたのっ!?」


 おっどろいた~。

 なんとレームたちは地面を掘って現れた。土に埋もれないようにドームに包まれて現れたと思ったら、ペッと土を吐き出すドーム。一部頭などを荷物のように小脇に抱えていたレーム以外のアンデットたちも陣形を解除すると骨を組み直し始める。

 バラバラになった人体模型が自らの手で組み直されるというのはシュールな光景だ。


「よしっ、行こう!」

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