014 熱してから冷ますと壊れやすい~血祭りヒャッハー
気付いたら主人公の出る幕がまたなくなってました。
《後がない者たち》
「クソクソクソクソォッ!!」
洞窟の中に急拵えで作られた囲いの中で男が一人、悔し紛れに当たり散らしていた。周囲には男と同じようにぶつけようのない苛立ちを隠さない者たちがいて、じっと耐えるように俯いていた。
何を隠そう彼らはガンファーレ王国周辺にいた盗賊、その首領を務めていた者の生き残りで王国の目論見通りに生き残るため散り散りとなった小さな盗賊団は一同に身を寄せ合っていた。
ただし、それもそろそろ限界だと悟りこうして荒れているのであった。
「王国の奴らめっ、小汚い手を使いやがって!」
「……周辺国家が荒れている状況でまさかこんな一手を打ってくるたぁな」
「そこまでしても平民を皆殺しにしてえようだな」
「ふざけんなっ! 何を諦めたようなことを口にしてやがる!?」
まるで他人事のように現状を語る他の首領たちに暴れていた――この中では比較的若輩の首領が怒りの矛先を向ける。
「……別に諦めたつもりはねえ」
「そうだとも。さすがにここまで追い込まれたら詰みって感じではあるがな……」
「まあ、最後に一花咲かせるぐらいの抵抗はしてやらにゃあなるめえ?」
「それがっ、それが諦めてるって言ってんだよ!!」
否定する言葉を返したものの、若い首領には彼らの態度が我慢ならなかった。
元々、盗賊と言っても彼らだってこの国の住民や周辺から逃げてきた流民だった。それが高すぎる税や、横暴な国の態度に憤り、対抗するための手段として盗賊をやっていたのだ。
たしかに手段は手荒で、富める者から奪うというものだったがそれを自分たちで独占するわけではなく貧しい者にも分け与えていたことから王国の目の届かない場所では義賊と呼ぶ者もいた。それを若い首領は誇りに思っていた。
だからこそ、戦えるような歳になった時自分もまた同じように盗賊として活動を始めたのだ。
それなのに、憧れてきたはずの存在は王国の策を――自分たちを滅ぼすための策を受け入れようとしている。いや、受け入れるつもりはないだろうがそれでもその先には死が待っているだけだと決めつけている。
「俺達はまだやれるっ! そのためにこの連合を作ったんじゃねえのかよ!!」
連合と言えば聞こえはいいが、所詮は逃げ延びた負け犬が徒党を組んだだけ。
その証拠に盗賊団の中でも王国に対抗できるだけの力を持っていた者たちは早々に滅ぼされている。ようはここに集まっているということは勇者たちを鍛えるのにちょうど良さそうな小悪党。騎士たちが自分たちで片付ける必要はないと結論付け、見下した者たちに過ぎない。
自分たちの実力は倒された者たちに及ばないと理解しているからこそ、経験を積んだ盗賊たちは覚悟を決めていた。……せめて命を懸けて守るべきものは守ろうと。
「ふはははっ、負け犬にしておくには惜しいほどに吠えるじゃないか」
「誰だっ!?」
「一体、どこから……?」
いつの間にか姿を見せた存在に首領たちは一斉に武器を構える。
「どこからだと? 私は正面から堂々と入って来たぞ?」
首領たちの態度を嘲笑うかのように告げる謎の人物。その背後では言った通りに扉が開き放たれていた。
「……お前は何者だ?」
盗賊として罠や気配には敏感なつもりでいたのに、全く入って来たのに気付かなかった。
それだけでなく、真正面に立ち話をしているのに目の前の人物が男か女か。人間かそうでないかすらも判別が出来ない。得体の知れなさに、武器を持つ手は汗で湿っていた。
「何者かなどどうでもよかろう? ただ、そうだなあえて名乗るならばお前たちに協力する者だ」
「協力、だと?」
「そうだとも。これから死にゆく運命の貴様らに力を貸してやると言っているのだ」
「てめえっ舐めてんのか!!」
「……舐めているのはそっちだろう?」
「「「!?」」」
激昂した首領だったが、一歩踏み出すよりも早く謎の人物によって首に手を添えられていた。手から伝わってくるのは冷たさだけであり、気が変わればすぐにでも自分の命を奪うことが出来るのだと理解させられた。
他の首領たちも瞬きをする間に移動していたことに驚愕し、絶望の表情を浮かべる。
「わかったか? お前たちでは到底、私には勝てないということが。……わかったのなら、話を続けても構わないかね?」
「……あ、ああ。続けてくれ」
手が離れてからも残る冷たさに未だ手が添えられている感覚を覚えながらも、首があるのを確かめるように大袈裟にコクコクと何度も頷き返す。
「他の者も……構わないようだな。では、話そう。――そもそも、今回の盗賊退治だがこれは茶番だ」
「茶番? どういうことだ?」
「なあに、なんてことはない。ようするにこれは王国が若手の貴族に箔を付けるために君たちを利用しようとしているということさ」
「貴族のガキだと? そんなバカなことをする奴がいたのか……?」
「残念だがね。さて、ここで君たちに頼みたいことがある。私はどうしてもその集団の内、一人を始末したい」
「……人殺しをしろと?」
盗賊なのだ人を襲うことはあるし、襲われて返り討ちにしたことだってある。それでも止むに止まれぬ事情がない限り積極的に人を殺したいなどと思ってはいない彼らは不信感を募らせる。
「いやいや、別にそういうわけじゃないさ。騎士団と戦うフリをしつつ、誘導してほしい。たったそれだけの話だ」
「誘導だと? 一体どこへ?」
「場所を伝えるためには更なる情報の開示が必要になる。先に返答を聞かせてもらいたいね」
乗るか反るか、YesかNoか。
このままいけばどの道、命はないだろう。それがわかっていても素直に頷けないほど目の前の人物は怪しかった。
平民とは知識のない者であり、利用される者。だからこそ、奪うという手段しか取れないことは本来恥じるべきことと今は亡き盗賊が言っていた言葉が蘇る。
「……一つだけ、教えてくれ。あんたの目的は何なんだ?」
「ああ、復讐さ――」
その言葉からは不気味な雰囲気の所為ではなく、背筋がゾッとする何かを感じずにはいられなかった。
「……あれでよかったのか?」
盗賊団のアジトを堂々と出てから、声をかける。
周囲には誰もいない……そう思っていたら、すぐ目の前に小さな人物が姿を現した。
「上出来さ。これで王国の思惑を利用することができる。よくやってくれたね」
現れた少年――真の勇者は思った通りにことが運んでいることをとても喜んでいた。見た目の通り純粋な笑みは欲しかったおもちゃが手に入った子どものようでもある。
「で、ダブタチとは一体どんな力を持っているんだ?」
盗賊たちに始末してほしい貴族の令嬢として名を伝えるように頼まれてはいたが、詳しいことは何も知らない。いつものように碌でもない手段で情報を手に入れたことはわかっているので、任務が完了するまでは精神衛生上の問題で情報を聞かないことにしていた。
知らなければ罪悪感を抱くことはない。
「んっ? ああ、ちょっと今代の本物を誘うのに邪魔になりそうな相手だよ。本人も少し面倒な能力を持っているようだし、ついでに死んでもらっておく方が都合がよかった。たったそれだけの価値しかない人物さ」
「……名が残念な上に、お前に目を付けられるとは可哀想な奴もいたものだ」
名前については本名ではない上に、その名を付けたのはクラスメートなので可哀想と言うのは……本人も別に喜んでいるわけではないが。
「盗賊たちには僕らが力を貸してやるから、騎士に復讐も出来る。騎士たちだって召喚者は数人ぐらい死んでいてもいいって思ってんだから一石二鳥でしょう?」
「さらに本物の大切な人物を襲うことで力を見極めることも出来る。ふふっ、こちらの方が多く得をしているな」
「そりゃあ、苦労してるのは僕たちだからね。それぐらいは役得ということで」
スライムをテイムしていたり、動きも能力も未だに読めないあのユーレイもどきを飼い馴らすにはわかりやす過ぎるほどの恩を売らなければ不可能。
それには命の恩人というのはもってこいのシチュエーションと言えよう。
「騙すわけではないけど、協力してもらいたい立場だから嘘もつくよ。……そんな時に真実を見抜く力を持つ者の存在は邪魔なんだ。悪いけれど、計画のための礎となってくれ」
「笑顔で言うとか本当に小悪魔のような、いや残酷な天使と評するべきかな?」
「ははっ、どっちでもないよ。僕は真の勇者! それだけさ」
世界を平和にしてあげよう。
だから世界はすべてを渡せ。平和のための代償としては安いものだろう? ――ただし、その時には元の世界ではなくなっているかもしれないが。
次はもう少しストーリーを進めます(進められるように頑張ります)




