[古城にて]
魔人側の話です
短いです
ちょっと、こういう話も挟んでみたいかな、と思って書きました
少し後にもう1話上げる予定です
開け放たれた窓からは、今にも雪が降り出しそうな、曇り空が覗いていた。厚く垂れ込めた雲に覆われて、空は暗い。開放された窓からも、十分な光が差し込まず、部屋は薄暗かった。
光は差し込まないが、寒気は流れ込む。流れ込む寒気に、古びた石造りの部屋も、部屋の中央に置かれた、石造りのテーブルも冷え切っている。しかし、部屋に集う者達は、寒さが気にならないようだった。
「ラグゾールの死体と、壊された操りの魔道具は、10月27日にアスターから運び出されます。シリンには11月4日頃に到着予定のようです。」
「壊された操りの魔道具の状態は、調べられたか?直せそうか?」
「現物を見ないと確答出来ませんが、焼かれたり砕かれたりしたのではなく、いくつかに切断されている状態です。修復可能と考えています。」
「ラグゾールの死体の状態は?」
「胴体部が二カ所、大きく切り裂かれ、片腕と両足も切断されています。頭の右上部も焼けただれていました。特に腹部の傷が大きく、背骨を含めた体の3分の2まで、切断されています。」
幾人かの口から、動揺を含んだうめき声が漏れた。
「再生の魔道具を使うしかなさそうですな。」
「そう何度も使える物ではないが、ラグゾールの能力は必要だからな。」
「戦闘経験は少なかったですが、ラグゾールは弱くはなかったはず。そこまでひどくやられているとは、思いませんでした。」
「防御がうまかったからな。不意打ちでやられたのか?」
「不意打ちではありません。アスターの町の上空で、1対1でやり合ったようです。」
「ラグゾールらしくない、派手な行動ですね。」
「操りの魔道具を壊されて、頭に血が上ったのだろう。いずれにせよ、操っていた人間が、正気を取り戻してしまえば、計画の続行は無理だ。邪魔者を素早く片付けて、身を隠すつもりが、相手の実力が予想を上回っていた、というところか。」
「ラグゾールを倒した者は、やはり見つからないのか?」
「戦闘中はマスクを被っていました。慎重な人間のようです。戦闘後に治療院に姿を現しましたが、それ以後の消息はつかめません。」
「怪我をしていたのか?」
「怪我人の治療を手伝ったらしいです。」
「ラグゾールと戦った後にか?余裕だな。重力魔法と治療魔法の使い手か?」
「氷の固まりを飛ばして、攻撃していたようです。直径3メートルくらいの、でかいのも飛ばしたとか。あとは霧と炎も出したようです。」
「氷か。相当やっかいな相手らしいな。その魔力だと、加護持ちだろうな。」
「おそらくな。しかし、ラグゾールはなぜ、そんな相手と戦ったのだ。危険を冒して戦う理由がわからん。」
「初めのうちは、ラグゾールが優勢に見えたようです。相手は飛ぶのがうまくなかったということでした。飛ぶのが下手な振りをして、油断させる狙いだったのかも知れません。その後しばらくは、互角の戦いが続きましたが、ラグゾールが距離を開けようとすると、連続して強力な攻撃を繰り出して、逃げる時間を与えなかったようです。」
「まるで、ラグゾールが遊ばれていたように、聞こえますね。」
「時間を掛けて、我々の力量を探ろうとしていたのだろうな。」
「30年目以上の、戦闘の得意な者なら、負けるとは思えませんが。」
「いや。そいつもまだ、全力を見せていないかも知れん。」
「襲撃の手配はどうなっている?手は足りているのか?」
「申し訳ありません。ドルドランザ様。襲撃に使えそうな人間は、10人ほどしか集められませんでした。南部方面では、もっぱらラグゾールの操った人間を使っていましたから。」
「かまわん。ネビラビスロリ。俺も含め、誰も想定していなかった事態だ。こちらから誰か向かわせよう。万が一、ラグゾールを倒した者が、同行していたりするとやっかいだ。2人向かわせるか。ヌッソゼロス、おまえが行け。ただし、おまえは戦うなよ。」
「わかりました。ラグゾールの死体と、操りの魔道具の回収を優先して、すぐに引き上げます。」
「それで良い。もう一人は、レリドラズロを向かわせよう。戦闘にも慣れているし、慎重な性格だ。」
「レリドラズロですか。なるほど、引き際も心得ており、逃げ足も速いですな。」
「我ら1人1人の力は、人間をはるかに上回るとはいえ、数が少ない。しかも、戦闘に特化したものが多く、隠密の探索や策謀の才を持つものはさらに少ない。今はまだ、密かに準備を進めるべき時。ラグゾールの死体と、操りの魔道具は、なんとしても回収する必要がある。頼んだぞ、ヌッソゼロス。」
「承知しました。」
「シリン近くまで飛ぶとなると、それなりに消耗するだろう。万全の状態で臨めるように、荒廃地の境界まで、誰かに送らせよう。」
「ありがとうございます。」
「南部方面での計画の進行は、5年は遅れそうだな。なんとかなりそうなのはベロームくらいか?」
「ベロームでは、操りの魔道具の影響が切れた者を、殺すか監禁して、大きな襤褸は出さずに済ませましたが、早急に手を入れる必要があります。後はシリン近郊の小さな拠点があるくらいです。アスター、エドリン、ニーサ、ダースは1からやり直すいかないでしょう。」
「ネビラビスロリに行ってもらう必要があるが、しばらくここを離れても問題ないか?偽勇者はどうなっている?」
「安定してきています。もう少し調教すれば、使えるようになると思います。今なら1月くらい離れても、問題ないでしょう。」
「それは重畳。しばらくおまえに、負担を掛けることになると思うが、よろしく頼む。」
「魔王様の御来臨に備えることは、我が喜び。負担となど思いませんわ。」
話し合いは、その後も続いた。何人かは部屋を去り、与えられた任に赴いた。新たに部屋に入る者も居た。
窓の外では、いつしか、雪がちらつき始めていた。




