2話 後編
【声劇用台本】
【上演時間 各話約15分~20分】
『里中ハルの不思議なジョウキョウ日記』第2話後編
作:伴野久兵衛
■登場人物
里中ハル(サトナカ ハル):田舎から上京してきた純朴な女の子
高津リョウ(タカツ リョウ):何かの理由で、女性の体に入ってしまった引きこもり青年
アズリエル:天界からやってきた天使。チャラい、軽い、そしてウザい
■パート1
ハル 「アズにゃんさんの話は、色んな意味で衝撃的だった。
私に見えてるものとは別に、そんな世界が、そんな事実があるなんて、思ってもいなかった。
そう言えば昨日から、実際その場に居なければ、信じられない様な話ばかり聞いている。
きっと全然関係ないんだろうけど、東京って私の地元とは違って、
色んなコトが起きるんだなぁ…なんて思ったりした。」
リョウ「で、何があったんですか?」
アズ 「うん。 実はさ、ナナミちゃんの魂が、体から抜けてたんだよねぇ」
ハル 「魂が…?」
リョウ「抜けた…?」
アズ 「そう。前の日に俺がかっ飛ばしたホームランあるじゃん?
あん時、場外まで飛んだボールが天界から飛び出してさ。
それが地上まで落ちて、ナナミちゃんの魂を直撃しちゃった・・・みたい?」
リョウ「そんなコト、あるんですか?」
アズ 「前例は無いらしい。でも、可能性としてはあるんだよね。
天界は…まぁ、物理的には違うんだけど、空の上ら辺に存在してる」
ハル 「へぇ…この上にあるんですか…」
アズ 「一応、天界と地上の間には幕みたいなモンがあってさ。
地上からの飛行機やロケットは天界をすり抜けるし、
天界から地上にモノが到達するコトも無いはず・・・なんだよねぇ」
ハル 「えぇっ!飛行機は、すり抜けてるんですかっ!?」
アズ 「そーよー。まぁ、絶対に気づかないけどね」
リョウ「でも、それならどうして?」
アズ 「何か強烈な念を持ったモノ。それと、幕を作るお偉い神様の力が弱まってる時。
この2つが偶然に一致した時、天界からモノが到達する可能性がある…って話らしいなぁ」
リョウ「らしい…って!」
アズ 「だから、前例は無いんだってば。少なくとも記録は残ってなかったの。
つまり想像と可能性でしか、こっちも話せないわけ」
■パート2
ハル 「で、魂が抜けると、どうなるんですか?」
アズ 「あー…えっとね、元々、魂ってのは、肉体が死ぬと自然に抜ける」
リョウ「それは何となく想像付くな…」
アズ 「その抜けた魂を、天界まで持って行くのが、俺らの仕事」
ハル 「でも、ナナミさんは死んでないのに、魂が抜けたんですよね?その場合は?」
アズ 「うーん、そうだね。人間には寿命ってのが設定されてる。
誰々は何歳で、死因は何々ですって感じ。
俺ら魂回収部の天使は、受け持つ何千って人間の寿命が記されたリストを持ってるんだけど」
リョウ「寿命のリスト…」
ハル 「それには、私達も載ってるんですか?」
アズ 「もちろん。ま、寿命を教えるコトは出来ないけどね」
ハル 「なーんだ。あ、でも知らない方が良いのかなぁ」
アズ 「で、ウチラは、その寿命リストに従って、死者の魂を回収する。
けど、回収にも期限があって、死んで7日過ぎると回収出来なくなる」
リョウ「へぇ… あ、そうすると自縛霊に?」
アズ 「そうそう。あれは何かの手違いで、回収出来なかった魂のことだね」
ハル 「ってことは、リストに無い…つまり予定に無い魂が抜けるってコトは…」
アズ 「まぁ、そのぉ、自縛霊まっしぐらってコトになるかな」
ハル 「あの…一旦、抜けちゃった魂を戻す方法ってないんですか?」
アズ 「あるよ。普通に魂を体に押し込めば良い」
ハル 「なんだ、意外と簡単ですね…」
アズ 「ただし、魂が抜けて24時間。それ以上経つと、体は二度と、魂を受け付けなくなる」
ハル 「そうなると…?」
アズ 「いわゆる植物人間ってヤツ。寿命が来るまで魂の無い状態で、肉体だけが生き続ける訳」
リョウ「じゃあさ!そのナナミさんの魂を、その場で肉体に戻せば良かったんじゃないの?
こうして俺の魂が入ってるってコトは、まだ24時間は経ってなかったんだろ?」
ハル 「あ!そうですよ!それが一番簡単な方法じゃないですか!?」
アズ 「それがさぁ…出来なかったんだよ…」
ハル 「え…?」
リョウ「何で!?」
アズ 「ナナミちゃんの魂は、砕けてたのよ。砕けて、飛び散ってたわけ」
ハル 「えっ、そんな…」
アズ 「魂にヒビが入るってコトは、時々ある。
それが原因で性格が歪んじゃったり、可笑しな行動に走るヤツもいる。
そんで…それを治す方法も、天界にはある。
けどな、飛び散った魂は、少なくとも集めないと、体に戻せないでしょ?」
ハル 「それは、そうですよね…」
アズ 「飛び散った範囲は、ココからおよそ半径30キロ。
あの時、残された時間でかき集めるには、いくら何でも範囲が広すぎた…」
ハル 「あぁ…」
リョウ「ちょっと待ってくれよ!
だからって何で俺の魂が、ナナミさんの肉体に入らなきゃならないんだよ!?」
ハル 「あっ!そうですよ!リョウさんは何も関係無いじゃないですか!?」
アズ 「リョウくん・・・君には思い当たる節があるだろうから、言わなくても分かると思ったんだけどなぁ…」
ハル 「え…?」
アズ 「ホントは・・・分かってるだろ?」
リョウ「……」
ハル 「リョウさんに、何が…」
アズ 「リョウくん。3月28日の午前4時半頃。君は何を、してた?」
リョウ「……」
アズ 「話を、変えよっか…」
ハル 「えっ?」
アズ 「ハルちゃん。さっき、寿命のリストと、魂の回収の話をしたでしょ?」
ハル 「はい」
アズ 「実はリストと違うタイミングで死亡して、それでもキチンと魂が回収されるパターンがある」
ハル 「え?ちゃんと発見されて、回収してもらえるんですか?」
アズ 「うん。ただし、リストに載ってないから、いつ死ぬかは正確に分からない。
要は・・・非常に面倒なパターンだけどね」
ハル 「そのパターンってのは?」
アズ 「…自殺」
ハル 「えっ…あっ、え?」
アズ 「自殺願望を持ってる人間は、寿命とは別にリストがある。
名前と、だいたいの予測日が載ってるリスト」
ハル 「はい…」
アズ 「自殺担当の天使は、1人で数人の自殺志願者だけを担当する。
つまりは徹底的に監視するわけだ」
ハル 「寿命を縮めて、その、いきなり死んじゃうからですか?」
アズ 「そう。何としても死後7日以内に、魂を回収しなきゃいけないからね」
ハル 「自縛霊を作らないためですよね?」
アズ 「やっぱりハルちゃんは賢いねぇ。じゃあ、これ言ったら、全部分かるだろうな…」
ハル 「あ…もしかして…?」
アズ 「その通り。俺は、魂回収部、自殺担当課の天使。それで、高津リョウは…」
リョウ「自殺志願者だよっ!!」
ハル 「…あっ…」
■パート3
リョウ「そうだよ!3月28日の明け方、俺は…自殺しようと思って!
それで…部屋で首吊ったよ!」
ハル 「リョウさん…」
リョウ「もう嫌だったんだよ!何もかも嫌で、俺の人生に価値なんかねーなって!
生きてても良いコトなんかねーし!
俺の人生、俺のモンだから最後に1つくらい俺の好きにさせろよ!って思ったんだよっ!」
アズ 「だそうで。
まぁ、別にリョウくんが自殺しようと思った理由は、この話と関係ないから先に進めるよ?」
リョウ「はっ!?」
ハル 「まぁ、そうですけど・・・」
アズ 「俺はね、別に自殺したいんなら、すれば良いと思うんだ。
その面倒を見ることで、ご飯食べてる訳だし?」
ハル 「アズにゃんさん・・・」
アズ 「ただね、生きてるコトが辛いからって、自殺はするもんじゃない。
それは辛いことを排除できれば、自殺しないでも生きていける訳でしょ?」
ハル 「あ、なるほど・・・」
アズ 「リョウくん、君は別に死にたかった訳じゃない。
ただ・・・自分が夢見た自分の姿になれなかっただけ。そうだよね?」
リョウ「・・・くっ!おい、てめぇ!!偉そうなこと言ってくれたけどな!
残念なことに、俺はもう死んだんだろ?今更そんなこと言われたって手遅れなんだよっ!」
アズ 「・・・・・・。何を怒ってるか知らないけど、リョウくんは死んでないよ」
ハル 「えっ?」
リョウ「はぁ!?」
アズ 「3月29日の夕方、豊島ナナミの携帯から高津リョウへ着信があった。
リョウくん、君が掛けたんだよね?」
リョウ「あぁ、それが?」
アズ 「その時、高津リョウは電話に出たろ?」
ハル 「あっ!そうか、確かに!」
リョウ「はっ?それが何だって…」
ハル 「だから!肉体が死んじゃったら、魂はどうやっても戻らないんですよ!
抜けちゃったんじゃなくて、死んじゃったなら!」
アズ 「正解!ハルちゃん賢すぎて、お嫁さんにしちゃいたい!」
ハル 「全力で遠慮しときます」
アズ 「死んだ肉体に魂は宿らない。これは鉄則。
つまり、まだ高津リョウの肉体は死んでないってこと」
リョウ「はぁ?じゃあ、何で俺の魂はココにあるんだよ?」
アズ 「それは・・・俺がぶっこ抜いたから?」
リョウ「ぶっこ抜いた!?」
ハル 「出来るんだ・・・そんなコト」
リョウ「えっ?じゃあ、俺の肉体は何で動いてんだよ!?」
ハル 「もしかして、また他の人の魂?」
アズ 「いや、アレは通称『ダミープラグ』っていう作り物の魂だね」
リョウ「ダミープラグ!?」
ハル 「何ですか、それは!?」
アズ 「3月29日の朝、俺が電話を受けたのは、リョウくんの部屋だった」
リョウ「いたのかよ、あの時」
アズ 「俺らにとって、姿を消すくらいのコトは楽勝だから」
ハル 「で?」
アズ 「さっきも話したけど、ナナミちゃんの体には、一時的とは言え、
24時間以内に魂を入れる必要があった。だから俺は・・・」
リョウ「俺の魂を引っこ抜いて、ナナミさんの体に入れた?」
アズ 「その通り。で、リョウくんの体には、天界で開発中のダミープラグを入れた・・・」
ハル 「あのぉ・・・それならナナミさんの体に、ダミープラグを入れたら良かったんじゃないですか?」
アズ 「そう出来たら、良かったんだけどねぇ」
リョウ「出来ない理由があったのかよ?」
アズ 「ダミープラグには、男性用と女性用がある。
あの時俺が持ってたのは、男性用のTEMGAってタイプだった」
ハル 「TEMGA・・・?」
リョウ「サイテーなネーミングだな・・・」
アズ 「それにダミープラグ自体、まだ実験開発中なんだ。
開発チームのトーマスやアルベルトのオッサンの話だと、3ヶ月使えるかどうかってトコらしい」
ハル 「微妙な数字・・・ですね」
アズ 「そんな危険なモンを、寿命まで60年以上残す、豊島ナナミには使えないだろ?」
リョウ「俺になら使えたってのかよ?」
アズ 「状況判断として、間違った選択では無かったと思ってる」
ハル 「ってコトは、ナナミさんの魂が集められたら・・・」
アズ 「うん。リョウくんの魂は肉体に戻る。
まぁ、自殺するかどうかは、それからゆっくり考えたら良いんじゃない?
少なくとも、ナナミちゃんの体に入ってるうちは、自殺なんてしてくれんなよ?」
ハル 「それは、私がさせませんっ!」
アズ 「おう!ハルちゃん、頼んだぞ!」
■パート4
アズ 「ってコトで、説明は終わりなんだけど。何かご質問は?」
リョウ「まだ理解も出来てないから、そこまで行かないんだけど…」
ハル 「私もです」
アズ 「じゃあ、おいおいってコトで良いよ。
俺もカケラ集めしなきゃいけないから、当分こっちいるし」
リョウ「時々は様子見に来るのかよ?」
アズ 「様子見に来る?何、言ってんの?悪いけど、今日からこの部屋にお邪魔させてもらうよ」
リョウ「はぁぁぁぁ!?」
ハル 「やったぁ!!」
リョウ「おいっ!ハルちゃん!」
ハル 「だって、アズにゃんさん、面白そうじゃないですか!」
アズ 「だろー?俺と居たら、毎日ハッピハッピハッピーよ☆」
リョウ「ウザいの間違いだろーが!!ネカフェとか、ウィークリーマンションとか泊まれよ!」
アズ 「そんなコト言われてもなぁ・・・今回は俺の不手際だし、経費とか全然出ないのよ。
『有給じゃなくて、出張扱いにしてやっただけ有り難いと思え!』とか言われたくらいだもん・・・」
リョウ「知るか!自業自得ってヤツだろ?」
アズ 「えー!リョウくん意地悪だなぁ?」
ハル 「冷たいですねぇ?」
リョウ「冷たくなんかねーよ!こいつと一緒に寝てたら、夜這いかけてきそうだし…」
アズ 「あ、その点は平気平気!俺の好みはナナミちゃんよりハルちゃんだから。
リョウくんが泊めてくれないんだったら、ハルちゃんの部屋に泊めてもらおっかなー」
ハル 「えー!アズにゃんさん、エッチなコトとかしませんかー?」
アズ 「しなーい!しなーい!ぜーったいしない!」
ハル 「なら、良いかなぁ…」
アズ 「ホント?なら、お礼に洗濯当番やります!」
リョウ「あぁぁぁぁ!!もう泊まれよ!この部屋、好きなだけ泊まれば良い!!」
アズ 「いやぁ、さすがリョウくん。優しいなぁ~」
ハル 「リョウさん、優しいですねぇ!私もお泊りに来ようかなぁ」
リョウ「来なくて良いからっ!それじゃ、なんの意味もねーしっ!」
ハル 「え・・・私だけ仲間外れですか・・・?」
リョウ「いや・・・そんなコトは。
あっ、そうだ。たまになら、構わない・・・んじゃないかな?」
アズ 「俺の顔色伺わずに、ハッキリ決めたら?」
リョウ「じゃあ、その、たまに・・・と言うことで」
ハル 「やったあぁぁぁぁ!!」
アズ 「まぁ、そうだね。泊まったら夜更かしになりそうだし。
ハルちゃんも学校始まったら、毎日忙しくなるでしょ?」
ハル 「ですよねぇ」
アズ 「それにリョウくんも、バイトしなきゃいけないもんな?」
リョウ「はっ?バイト!?」
アズ 「そりゃそうよ。ナナミちゃんに体を戻すまで、何ヶ月も掛かるのに。
その間、ナナミちゃんの貯金、食いつぶすつもり?」
ハル 「でも、ナナミさんの人間関係とか、リョウさん分からないですよ?」
アズ 「それなら、新しいバイト探したら良いじゃん!」
リョウ「そんな勝手なことしちゃって良いのかよ?」
アズ 「大丈夫大丈夫。毎日リョウくんの記憶は、バックアップ録るコトになってるから。
ちゃんとナナミちゃんに戻すときに、引継ぎされるから問題ない」
リョウ「記憶の引継ぎ・・・?」
アズ 「あっ、リョウくんのエロい妄想は、ちゃんと消してから戻すから。 心配しないで良いよー」
リョウ「お気遣い・・・感謝します」
ハル 「私もバイト探すし、リョウさん一緒に探しましょうねー」
アズ 「おうおう。なんか甘酸っぱい青春の匂いがするのぉ」
リョウ「だまれ、おっさん!!」
ハル 「こうして私とリョウさんとアズにゃんさん、3人での不思議な新しい生活が始まった。
それにしても、リョウさんが自殺志願者だったなんて、意外だった。
まだ2日しか一緒にいないけど、とてもそんな感じの人には見えないのに…
でもまぁ、自分の内面なんて、誰しも見えないように繕って生きてるもんか。
私だって、人には見せれない部分って持ってるし。
取り合えず今は、このジョウキョウを、思いっ切り楽しむことにしよう」
第2話後編 了




