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DRAW!  作者: ヒロ
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8/10

第8話

8.


「よぅ。遅かったな」


 勝也が校舎を出ると、門で奈々が待っていた。

 丁度、昨日と逆の構図である。

 少し戸惑ったが、表には出さず、自然な感じで挨拶を返した。


「おぅ。頭大丈夫か?」


「おい、ドタマからそれか。どういう意味だコラ」


「いや、お前昨日コケたろ」


「……普通の意味かよ。言い方考えろっての。まぁ、一応大丈夫だと言っておくわ」


「つーか、お前学校来てたんだな。待ってても全然出て来なかったからよ」


「バーカ。それはあんたが“勝負”する前提で家出たからでしょ? その時間から徒歩じゃ間に合わないから、あたしは十分早く出たのよ」


「はっ!? マジかよ!?」


「ふん、思うところが無いじゃなかったけど、その程度で混乱する程ヤワじゃないし、遅刻するほど不良じゃないのよ。あんたと違ってね」


「ばっ! おめぇあれはだな、登校途中でカワイー同級生に話しかけられてウハウハやってたら遅れたんだよ! どうだ羨ましいだろ?」


「ユイちゃんの事でしょ? 知ってるわよバカ。あ、そうだ」


 と、いかにも何か思いだしたように言う奈々。


「その結ちゃんの事だけどね、あんたに一つ、言っとかなきゃいけない事があんのよ」


「何だよ?」


「ユイちゃんと、あんたのダチの、なんだっけ、新木場?」


「新柴だ」


「そう、その新柴と、グルだったらしいんだよ」


「はぁ!? あいつと、叶野さんが!?」


「……あんた、あの子の事さん付けで呼んでんの? ……まぁいいんだけど」


 あまりにも意外だったらしい。

 思わず本筋じゃない所に突っ込んでしまった奈々だが、すぐに気を取り直す。


「ユイちゃん、あたしの、高校入ってからのダチなんだけどさ、何かあんたとあたしの関係に焦れて、仲を取り持とうとしたらしいのよ。そんで、あんたのダチである新柴と図って、あたしらに同時に恋バナ振ったんだとさ」


「んじゃあ、あの野郎がやたらとそういう話を振ってきてたのは……」


「あの子に、頼まれたからでしょうね」


 そう言われれば確かに、昨日の展開は出来過ぎていた。

 同じ日に、別々の人から、同じ話を訊くなんて、偶然にしては出来過ぎだった。


(あのヤロー……)


 とりあえず明日まず会ったらジャーマンスープレックスからの筋肉バスターの刑だ。

 心の内で決心を固めた勝也は、ふと、奈々の表情に目が行った。


 奈々は門扉に背中を預け、腕組みをしながら、フッと、軽く笑ったのだ。


 まるで何か、ふっ切れたみたいに。

 まるで何かを、諦めようとするかのように。



「全くお節介な話よね? ま、あたしはユイちゃんのそーいうトコが好きなんだけど。でも、あり得ない話よ。あたしが、恋なんて、ね」



「……俺もだよ」


「知ってる。だからあたしらは敵同士なんでしょ?」


「あぁ。俺達は、敵対してしか分かり合えない、最低な関係だ。それが、お望みなんだろ?」


「そうね。前からだったのかもしれないけど、今は特にそんな気分よ」



 会話は止まり、二人は同時に、笑い合う。


 冷たく、

 シニカルに、

 相手を否定するかのように、

 自分を否定するかのように、

 嗤って、

 哂って、

 笑い合う。


「……んじゃ、お前の調子も戻ったようだし、停戦は終了だ。決着付けようぜ」


「いいわ。こないだの続きね」


「いや」


 ここで、勝也は、危うい笑みを見せる。

 退廃的でいて、どこまでも楽しげな、笑み。

 それは勝也が、何かを企んでいる顔だった。

 奈々はその笑顔を見て、一瞬でそうと理解したが、しかし、その先が読めない。


 一体、“何を”企んでいるのか。



「全ての、決着。これまでの十年間、全ての戦いの、決着だ」



「えっ!?」


 唐突な提案に、奈々はさすがに戸惑った。

 勝也はそんな奈々を見て、さらに底意地悪く笑う。


「当然、大きな勝負だから、負けた時のデメリットも過去最大だ。この勝負、互いに自分の“魂”を賭けようじゃねぇか」


「……は?」


 話が壮大になり過ぎて、奈々はアホを見る目つきになった。

 何だこいつ? いきなり中二に逆戻りかよ?

 そんな、一瞬シラけかけた奈々を、勝也は続けざまにけしかける。


「まぁ、お前に“魂”なんて立派なもんが、本当にあればの話だがな」


「……は? 何チョーシこいてんのお前? なめんのもいい加減にしろよ?」


 魂が、無い。

 誰よりも恐いもの知らずで、誰よりも“涙”とは縁遠い。

 誰よりも恐さを欲し、誰よりも涙したいと願っていた。

 そんな子供だった奈々に、この言葉は、残酷な程に的を得た、挑発だった。

 こんな、奈々の心を抉るような台詞も、今までの闘争の中では言わなかった訳ではない。


 しかし、今さら、だ。


 勝也と敵対し続ける事で、怒りや憎しみといった感情から、充分に“人間の感情”を手に入れた今の奈々にそれを言うのは、

 最早、今までの全否定。

 勝也との闘争全ての、全否定とも言えた。

 奈々の声は、がぜん低くなる。


「いいわよ? その魂っての? 賭けてやろうじゃないの」


 自信満々に言った奈々を見て、勝也はまた、シニカルな笑みを浮かべる。


「ふん、軽々しく乗ったな? じゃ、Bコース、アリアリのルールだ。お前を敗北の地に沈めてやんよ」


「あんたこそ、その恥っずかしい条件持ち出した事を後悔さしてやるわよ」


 お互い、殺意を剥き出しにしながら、何も言わず、ただ前を見る。

 やがて二人は、示し合わせたかのように、同時に校門を駆け出した。



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