ヌラリヒョキヌゲネズミモドキの特集(前編)
最近SNSで話題になっている、「いつの間にか家にいたペット」をご存知でしょうか。小さい体にふわふわとした体毛、つぶらな黒い瞳にぴんっと立った耳。ハムスターに似ていますが、全く別の生き物です。笑顔や泣き顔を浮かべたり、飼い主と一緒にお風呂に入ったり、同じ布団で寝たりと、ハムスターにはできないことをやってのけます。しかも、飼っている誰もが「気がついたら我が家にいた」と口を揃えて言うのです。どこからともなく現れる不思議な生き物として、世間の注目を集めています。
この生き物はインターネット上で『ヌラリヒョキヌゲネズミモドキ』と呼ばれ始め、それが正式な名前として定着しました。見た目がハムスター(キヌゲネズミ)にそっくりなことと、家主の許可なく家に忍び込んで当たり前のように生活している様子が妖怪のぬらりひょんを連想させることが由来のようです。少し長いため、『ヌラキモ』という略称で呼ぶのが一般的になっています。
ヌラキモの存在が広く認識されるようになったのは二〇二五年十二月頃。きっかけは、ある女性のSNS投稿でした。
“なんか家にハムスターみたいなのがいるんだけど。テーブルの上で解凍してた鶏胸肉めっちゃ食べてる。ペットショップとかで買ったわけじゃない。何なのこいつ?”
この文章と共に、お肉をむしゃむしゃと食べるヌラキモの動画が大バズり。他のユーザーから「我が家にも、いつからかハムスターっぽいものが住み着いている」など数百件のリプライがついたことで、一躍有名になったのです。
ヌラキモは、そのかわいらしい容姿と人間さながらの豊かな感情表現、人懐っこさから動物好きの間で人気が高騰。鳴かないため集合住宅でも飼いやすいことも人気な理由の一つで、「うちにもヌラキモが来てほしい」と投稿するSNSユーザーが増えています。一人暮らしのお供として、初めてペットを飼う人の第一歩として、ヌラキモ需要が急上昇中なのです。
しかし、ヌラキモはペットショップでは売られていません。どこかに野生で生息し、その一部が人間の生活範囲に入り込んでいるのだと言われています。ヌラキモを飼うには、彼らのほうからやって来てくれるのを待つしかありません。
まだまだ謎が多い、ヌラキモことヌラリヒョキヌゲネズミモドキ。その生態と、実際に飼うことになったらどのような暮らしになるのかを特集します。
ハムスターの仲間のように見えるヌラキモですが、似ているのは見た目だけ。現状判明している生態を比べると、全く異なる生き物だということがわかります。たとえば食性。ハムスターは草食寄りの雑食性ですが、ヌラキモは肉食性です。ハムスターの好物である野菜や穀物などは食べません。また知能が非常に高く、飼い主の言動を理解した上で行動している様子が見受けられます。SNSでは、飼い主の呼びかけに応えて近寄ってきたり、一緒にテレビを見たり、同じダンスを踊ったりする動画が投稿されています。生成AIで作られたフェイク映像ではありません。ヌラキモの知能レベルは、イルカやチンパンジーなどを超えていると言われています。
このようなヌラキモに、生物学者たちも興味津々。多くの学者がその生態を解き明かそうと、日夜研究しています。実際にヌラキモを研究している学者の一人、F大学理学部生物学科教授の杉並三太夫さんに、お話を伺いました。
杉並「私は五十年近く生物学者をやっていますが、ヌラリヒョキヌゲネズミモドキほど興味をそそられる生き物は初めてです。彼らは常識はずれの成長をします。ヌラリヒョキヌゲネズミモドキの幼体は、川の中で暮らす水棲の虫に近いのです。とても小さく、魚の鱗の隙間に棲みつきます。寄生虫と言って差し支えないでしょう。そして宿主から養分を吸い取り、ある程度の大きさまで成長すると、水から陸に出てハムスターのような姿へと進化するようなのです。幼体の間は水の中で過ごし、成体になったら陸で生活するようになる生き物はたくさんいます。しかし、ヌラリヒョキヌゲネズミモドキの成体は哺乳類に近い特徴を持っていて、虫ではありません。成長の過程で寄生虫が哺乳類に変わるなんて、前代未聞です」
幼体は水中で生息する虫のような生物なのに、成体になると陸で暮らす哺乳類のような生物に変身する。このようなヌラキモの成長には前例がなく、杉並教授を始めとする学者たちは驚愕しています。
他に判明していることとして、ヌラキモが突然現れる家には、一つの共通点があるそう。
杉並「先ほど、ヌラリヒョキヌゲネズミモドキの幼体は川の中に生息し、魚の鱗の隙間に寄生すると言いましたよね? ヌラリヒョキヌゲネズミモドキが現れた家では、淡水魚を飼っていたんです。私がコンタクトを取れたご自宅二十三軒に伺ったところ、どの家でも金魚や鯉などを飼っていました。おそらく淡水魚に寄生していたヌラキモが成長し、家の中で成体になったのでしょう。だから、いつの間にか家にいるように感じたのだと思われます」
にわかには信じられない話ですが、杉並教授は「研究を進めるほど、そうとしか考えられなくなる」と付け加えました。
ヌラキモはどのような条件が揃うと成体になるのか、どれくらいの期間で成長するのかなどは、まだわかっていないとのこと。ただ、一般的な住宅に暮らす人々が気づかないうちにヌラキモが家に現れることを考えると、ごくありふれた条件下で、数日あるいは数時間程度で急成長するのではないかと、杉並教授は予想しています。
杉並「いろいろと判明しつつありますが、私の研究はスムーズに進んでいるとは言えません。幼体が成体になると哺乳類のような特徴を持つという情報も、別の学者が解明したことです。ヌラリヒョキヌゲネズミモドキはどの淡水魚にも寄生しているわけではないため、手に入れるのがとても難しくて、私の手元にもいません。すでに飼っている方に譲ってもらおうと思いましたが、『こんなにかわいらしい生き物、いや家族を手放すわけがないだろう。早く帰れこのゴミクズ』と断られてしまいました。より詳細な研究をするべく、私の家にもヌラリヒョキヌゲネズミモドキが現れないかとずっと待っています」
ヌラキモの生態を調べるため、まずは実物を一匹でも手に入れようと、大小さまざまな淡水魚を買い集めているという杉並教授。その数は千匹をゆうに超えており、ご自宅は水族館のようになっているそう。しかし残念ながら、ヌラキモを引き当ててはいません。
今は、実際にヌラキモを飼っている方のほうが生物学者の杉並教授より生態について詳しいかもしれません。そこで、一週間ほど前にヌラキモが家に現れたという鎌口学さん、彩華さん夫妻のご自宅にお邪魔しました。なんと、鎌口家にはヌラキモが二匹もいるそうです。




