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徹頭徹尾真夜中開発

「それで奏水、そろそろ教えてくれてもよいのではないです?」

「ん、なにを?」

「とぼけないでください。この子たちの使用用途ですよ」

「あー、確かに言った方がいいかも」


時刻は二十二時を過ぎ、大洲宮は完全休業の時間帯。

役所は全部閉まってるし巫女候補たちの居住地域でも家の明かりが点いているところは少ない。大体が裕福な家の生まれらしいので、生活習慣がちゃんとしているというか、規則正しい生活を送ることに慣れているというか。


その点は琥珀も同じはずなのだけど、これまでの様子を見ていると案外てっぺんを過ぎても元気に活動できるみたいで不思議だ。基礎体力があるから?


この前も勝手に私のDAW弄って曲作って遊んで夜中まで没頭してたし(私がメンタル死んでいた時のこと)、やっぱり琥珀はハイスペックなのかも。

でもそれは十代のうちの特権で、二十を過ぎると徐々に体力が衰えるという話をプロの作家がしてたし、気を付けさせないとダメだな。まあそれは御前会が終わってからだけど。



で、なんだっけ。

ああ、この照明の使い道か。でも口で説明するのは難しいんだよね。

できれば仮でもいいから実物を見せたいんだよなあ。



「琥珀、その照明って遠隔操作機能はまだ実装されてないんだよね」

「そうですね。今から奏水のシンセサイザーを触って色々計画を練ろうとしていたところです。説明するのにはこの機能がないと不足でしょうか?」

「不足かも。……じゃあ先に口頭で説明するから、完成したら実践ってことで」

「わかりました! では早速説明してくださいね」


およ、琥珀の目がちょっと怖い。

まさか何も説明されずに作業させられてたことを根に持ってる? だとしたらやばいな。琥珀を怒らせたら私はプレッシャーで圧殺されるかもしれない。


じゃあできるだけ想像しやすく簡単に説明すると―


「えっとね、これをこうしてああしてそうして……」

「ふむふむ」

「それをこういう風にこうやって使ってこういう効果を狙って……」

「なるほど」

「で最後にこれをああしてこういう見せ方をして……」


んー、これで伝わってるかな?

なにせ照明技術なんてない世界の人が相手だからな。


まあ琥珀は理解力の鬼だから大丈夫か。


「という感じなんだけど」

「……ふむ、奏水の言いたいことはなんとなく伝わりました」

「おっ、流石琥珀。掴むのが早い」

「確かにそういう使い方となると遠隔操作は必須ですね。照明を点ける機がはっきりしていますし、強弱を付けることも必要でしょう。奏水が言うことには必ず理屈があるというのは知っていましたが、今回もしっかりとそれに則っているとわかって安心です」

「なんかすごい褒められた」


琥珀が天才であることを知っているからこそ、そんな琥珀から褒められるのは嬉しい。

まあ今回はどちらかというと「わけのわからない作業をさせられているのではないと確認できて安心」って感じだけど……


さてじゃあ早速機能追加の作業に入ろうかな。

琥珀はやる気だし、私の機材も設置済みだし。


というわけで取り急ぎ部屋から持ってきたシンセサイザーが今夜の主役だ。

この子は普段人前での演奏に使っているものではなく、サブ機として温存しているのだけど、御前会では満を持して登場させる予定だ。


具体的にはブースの私から見て正面にメインシンセ、左側にこのサブ機を置く。

基本はメイン機を弾くけど照明が必要なタイミングでこの子を触る。右手はメイン機のメロディを弾きつつ、左手で照明を制御する。そんなに複雑なことはしないからね。


「奏水、この子で照明を制御するのですね? 鍵盤に機能を割り当てるとのことでしたが、具体的にどんな種類の制御方法が要るのです?」

「うん、今から説明するね」


ここが肝要だ。しっかり組まないと使い勝手が悪くなる。


まず必要なコマンドは六種類。

サイドスポットライト群とフットライト群の二種に対して、それぞれに「点灯」「光を強くする」「光を弱くする」の三項目が要る。なお弱くする命令を出し続ければ光量がゼロになるので消灯と同じ。


これ以上細かくすると流石に私がパンクする。


ちなみに私がやらねばならない理由はちゃんとある。

まず琥珀は和ギターで両手が埋まってるのでやらせることができないから。

そして御前会は演者以外の補助は禁止なので他に頼ることもできないから。


しかし本来コンサートやライブイベントの照明制御なんていうのは専門職のオペレーターがやることだ。基本的に演者が兼業でやるような仕事ではない。


「ふむ、では六つの鍵盤に割り振りましょう。割り振りたい鍵盤の位置は決まっていますか?」

「じゃあこれはここで、それはここで……」


左手を伸ばしてうまく届く距離の鍵盤で、コマンド種が同じものは白鍵で横に並べておきたい。黒鍵はミスりそうだからやだ。


しかし鍵盤に音以外を割り振るなんて世界初の試みかもしれない。

いや、探せばあるのかもしれないけど。私そんなに詳しくないからね。


シンセの鍵盤に声ネタを割り振るとかは知ってるけど、そもそも音を出すための楽器に照明制御をやらせるなんてクレイジーな話だな。まあこの世界には神力があるからいっか。日本の物理法則は通用しないし常識をかざしても意味はない。


で、天才琥珀さんはこれを実現してくれるのかな?



「奏水、このシンセサイザーも神力で作ったのですよね?」

「そうだよ。何を元にして作ったのかもう忘れたけど」

「奏水は規格外のおばかさんなので仕方ありませんね」

「さらっと罵倒されたんだけど?」

「同じ神力で作っているということは神力の通る経路のようなものがあります。そこをわたしが調べて照明器具との間に新しい通路を作ってあげるのです。こうすると遠隔制御も可能でしょう」

「しれっと私のツッコミを無視したね?」

「では作業を始めますので奏水は邪魔です横にどいてください」

「ひどい……」



琥珀、もう私の扱い方が完璧にわかっちゃったってこと……?

コミュ障引きこもりDTMerを手玉に取りつつ、「言い返すのも面倒くさいや」と思う絶妙なラインの罵倒とあしらい方を繰り出してきてるのはその証拠だよね……


「そういうわけで無茶な依頼を平然と投げてきたおばかな発注者さんはそこで黙って見ていてください。寝たらしばきますよ」

「…………しょ、承知いたしました」


ひぃ……琥珀の鬼度が上がってきた……

初めて会った頃はもっとおしとやかな子だったのに……



だけど、それは別に性格が変わったってことじゃない。

いたって真面目で誠実な琥珀が私の前だけでは茶目っ気を出したり、遠慮ない物言いができるようになったということ。つまり仲良くなったってこと。


実際、私の願望のために真剣に作業をしてくれている姿はとても格好いい。

人は自分のために考えたり動いたりしてくれる人に好感を抱くというけど、今まさに私は琥珀に対してそれを感じている。


琥珀がいったいどんな技術というか理屈を用いて二つの装置を繋げようとしているのかはよくわからない。でも難しそうだっていうのは見てるだけでも感じる。


しかし本当によくわからない。そもそも電力の通り道みたいに神力のそれがあると言われても、実物見たことないし、Wi-Fiみたいに目に見えないやつなのかな?


そんな物体かどうかも不明ななにかを弄ろうとしている琥珀の姿はもう完全にパントマイムかなにかで、見てるとどんどん頭がぼーっとしてくるし、よく考えたら今日は朝から夕方までずーっと音源制作に取り組んでたから疲れてるし、座布団の上で身じろぎひとつしないのも相まってすごく眠くて…………あれ、やば、眠い、もう無理……ね、ねりゅ、意識遠くなって、ぁ、…………







―――







…………


「かなみー」



…………


「かーなーみー!」



…………


「すーっ……起きろぉぉーーっっ!!」

「ひゃいぃぃぃっっ――!?」



はっ!? ね、寝てたっ!?

やばやば寝るなって言われてたのに寝落ちしたぁぁっ!!


え、あ、やば、目の前に琥珀の顔面が、ぇ、あ、ちょっとま



「奏水、わたしが作業している最中に寝ましたね?」

「…………も、申し訳ございませんでしたぁ……」

「人に作業をさせておいて自分は暢気に仮眠とは良いご身分ですね?」

「お、おっしゃる通りでしゅ…………」


え、笑顔の琥珀、しかも完全に怒ってる時の琥珀の満面スマイル……

こ、怖い、やだ死にたくないまだ死にたくないこの曲を完成させるまではぁぁぁ!!



……と思ったら琥珀は案外すっと離れていって。


「まあ今回は許します。遠隔操作は思ったより十倍簡単でした。もう作業が終わりましたのでわたしの負担は大したことありません」

「えっ、もう終わったの? 本当?」

「ええ。嘘だと思うなら自分で試してみてください」


琥珀が私のシンセを指差す。

そこまで言うのなら間違いない。念願の演出もこれで可能になるわけだ!


じゃあ早速試しに行こうかな…………って、あれ、琥珀が立ち塞がってくるんだけど。



「では奏水、今回の作業費としてわたしの言うことを聞いてください」

「…………公序良俗と本人の意思に反しない内容であれば」

「ええ。大丈夫でしょう。では奏水っ、わたしをぎゅーっと抱っこしてください!」

「へっ?」

「さ、功労者にご褒美のぎゅーですよ。早くしてください」


え? そんなんでいいの?

別に琥珀相手ならいくらでも抱き締められるけど。


というわけでやたらと嬉しそうな琥珀を正面から抱き締めてみて―



「はぅ……奏水の腕の中は安心しますね……」

「琥珀が幼児に見えてきたよ」

「なんにせよ肌を触れ合わせることは情緒の面でも良いそうです。あと奏水は良い匂いがしますし、とても安らぎますね。これは毎晩摂取したいほどです」

「別に私は毎晩してもいいけど」


そう言った途端、私の方に顎を乗せていたはずの琥珀が急に向き合ってきて。


「本当です!? 毎晩わたしの部屋まで出張営業に来てくれますか!?」

「うん。琥珀に頼まれて嫌なことはないし、私も琥珀は良い匂いするなって思うし」

「で、では……毎晩寝る前にぎゅっとしてください」

「もちろん」


あれ、琥珀がすごく嬉しそうにしてる。

私にハグされてそんなに喜ぶなんて不思議だなあ。

別に琥珀相手ならスキンシップくらいいくらでもするし、私に不利益なんてないし。


「はぁ……これは幸せです、お仕事の後に奏水に抱き締めてもらって……これは、幸福感がすごいですよ、んふぁ……ね、眠くなってきました、あ、だめ、もう寝ますっ……」

「え、待って待って急に寝ないで」

「すぅ…………」


あ、寝ちゃった……

私の腕の中で立ったまま寝るなんて器用すぎるけど……ど、どうしよう。布団まで運べばいいのかな。でも運ぶとしたら、その、お姫様抱っこ、だよね?


で、でも琥珀を抱っこしてあげるのは……やぶさかじゃない、かもね。

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