31_瓜二つ
「ルナ……か?」
「レイ……よね?」
初めて見た、目の前にいる少女のことを、私は知っている。
初めて会ったはずの少女なのに、“男”の名前が思い浮かんだことが、その一つの証左になるだろうか。
よく見れば見るほど、目の前の少女――レイは、私と瓜二つの姿をしている……そう思った。
慌ててこの平原へと来た先生は、私たちに目を丸くしていた。
私が慌ただしく駆けだしていったからか、先生はここへと来るまでに息切れしていた。
「ルナ、が……二人!?」
先生の声が相手へも聞こえたのだろうか、彼女は私を睨んでいた。
それがきっかけとなったのか、レイは、我を忘れたかのように私の方へ突進してきていた。
あの森で見た、紫色の稲妻を纏って。
「レイ、レイ……よね!?」
私の問いかけに、彼女は言葉の代わりに、拳を返してきた。なんとか避けきるものの、これ以上は、考えていられなかった。
もう……レイと、戦うしかない、そう考えていた。
何が原因とか、最早そういうことではない。ただ、そう思った……そうするしか他にないと、感じていただけだった。
それを自覚したからか、私の身体はどんどんと熱くなっていった。
「Expant:|Jark-O-Lanton《ヤーク-オ-リャントン》!」
これまで、魔術学院で展開したものよりも二回りほど大きい、大きなカボチャのような火球を展開する。
展開した火球は、今までと全く違うと感じていた。自在に動かせるような、そんな気がしていた。
目の前の少女から、稲妻が詠唱もなしに放たれる。試しにと、防御のために火球を動かそうと、思考を巡らせる。
すると稲妻の方向へと火球がぶつかり、火球と稲妻は爆散して対消滅する。
確信はしていないが、彼女が本当にレイならば、私が止めなきゃいけない。
レイも、私の一部だったのだから。
******
あたしは、ルナが駆けだしたのを見て、急いでルナの後を追っていた。
そんなにルナの足が早かったかと、疑問には思ったが、考えている暇はなかった。
追いついた先の平原で見たものに、あたしは唖然としてしまった。
ルナが二人いた……いや、一方は普段から見ていたルナ、もう一方はそれと瓜二つに見えた、金髪の少女だった。
そして、ルナが、彼女自身と瓜二つの金髪の少女のことを、レイと呼んでいたこと、だった。
既に金髪の少女は紫色の稲妻を纏い、ルナもまた、それにつられてか藍色の炎を纏い始めていた。恐らく、思念が呼び水となった魔法……魔力の暴走が起きていると思われる。
突進してくる彼女……“レイ”に対して、ルナは防戦一方になっていた。
レイが雷をルナに向けて撃ち、ルナはひたすらいなす、あるいは『鬼火』を使って抑えていたが、それ以上の手は打てず、攻めあぐねていた。
はっきり言って、見ていてイライラしていた。傍観者ではいられなかったあたしは、二人の間に割って入ろうとする。
「来ないで! ……来ないで、下さい! これは、私の……私とレイの問題だから!」
あたしが動こうとしたのが見えたのだろうか、ルナは大声を出す。
そして、それに呼応するかのように、彼女の作り出した藍色の火球が二つ、あたしの元へやってくる。
邪魔は許さない、ということだろう。あたしは、観念するように、声を絞り出す。
「分かったわよ……その代わり、絶対に、死なないこと! 生きて、二人ともあたしの元に戻ってくること! いいね?」
二人は答えない。あたしにできることは、これだけだった。これ以上、彼女たちにかけられる言葉はなかった。
「……師匠! どうなってるんですか、これは!?」
彼女らが攻防を初めてまだ三〇分も経ってない。だが、マリはカゲトへの報告を終えたのだろうか、この平原に来ていた。
マリは、疲れは見えていたが、肩で息をしているわけではなかった。
「……もう、止めないよ。止められない」
そう口ずさむと、マリは珍しく声を荒げる。
「師匠! どうして止めないのですか!? ルナさんや、あの子は……このままだと死にますよ!?」
「もし、そうなら……それでいいと思うわ。あの時、聞いたでしょう?
彼女は、……小坂瑠奈は死にたかった、と。だから、もし、それで死んだとしても、彼女に後悔はないと思うわ。
……あたしだって、本当は止めたい。けど、ルナが、止めてくれるな……って」
気付けば、彼女の意思を代弁した藍色の火球は、あたしの周りからいなくなっていた。
「師匠……」
マリは、それ以上、答えようとしなかった。
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