21_展開:狐火
2025.9.8 一部表現等修正・追加しました。
「Expant:FucksFlam!」
屋外の練習場。私は炎属性の基本的な展開魔術『狐火』を展開しようと呪文を唱える。
すると出てきたのは青白く光を放つ、いくつかの小さな炎の玉だった。一応、成功しているのだろうか。
ここまでは自力で出来ていたが、これが成功なのかは、先生に確認して貰う必要があると思っていた。
「最初の……基礎を独学でやったにしては、上出来よ。でも」
「先を見据えれば、まだまだ、ということですか?」
「そうね。でも『狐火』はこれが最初で、これが本来の限度。これ以上は、火力の出し方を覚える必要があるわね」
「……ということは、また?」
「お勉強、だね。といっても、座学じゃ分かりづらいから、ここで教えるけど」
唐突に、先生は課外講義の始まりを告げる。
「基本的に、展開魔術の集約と、増幅、拡散の三つの術式は、感覚で覚える必要があるから、残念ながら教本では覚えにくい。
だから、普段の座学授業では、ほとんどの教官が教えていない」
「……結局、何をすればいいんですか?」
「そうせっつかないの。記号府は覚えてるかい?
……さっきルナが発した『Expant』は魔術を展開するための記号符だけど、それを一つに集約する為の記号符は?」
とっさに言おうとするが、先生に指で口を塞がれる。
「分かってるなら、大丈夫よ。『Agregat』ね。
そして、それを増幅させる為の記号符が『Versterk』ね。といっても、増幅と言えば、魔力を増幅することだけじゃないけど」
そう言われて、首をかしげる。
まだ理論はしっかりと理解できていないなあ、勉強かあ……なんて考えていたが、よく考えれば、そもそもそんな記述があったかなと考えてしまう。
「増幅は、魔力を増幅する、あるいは魔素を増幅させる……このどちらかを選ぶ。魔素を増幅させる方法はかなり難しいし、初等の教本ではまず書いていない筈だ。
だから魔術の基礎としては、魔素の集約、そして魔力の増幅という形で段々と大きくしていくんだけどね。
魔力という言葉も厳密には一義的じゃなくて、マナポイント(ManaPoint)というものとマギクパヴ(MagicPow)の二種類に割れる。今回の場合は、マギクパヴの方だね。
ちゃんとした語訳をすれば、魔術持続力とでも称すべきものだけど、あまりあたしに賛同してくれる人がいないからね。
魔力がガス欠にならないなんて、持続力がある以上はあり得ないのに……」
先生は段々と語りが熱くなるが、若干冷めたような声色に変わっていく。
「……とりあえず、やってみればいいですか?」
「おっとごめん。そうね……一度集約と増幅してから、再び展開してみれば、その効果が分かるはずだから」
「Agregat:Ether・And・Versterk:Mana.Expant:FucksFlam!」
先生の指示に従うまま、魔術詠唱をしてみる。
すると、それまで展開していたものと比べて一回り以上大きな火球が展開される。そのまま展開していると、先生の目の色が段々と変わってくる。
「……凄いな、ルナは。一回目ですぐにコツをつかんだのか、一回の集約だけでこれだけの大きさになるなんて。一回消して、もう一回出してみて」
先生から言われた通りに、一度展開を解除して、もう一度展開してみるが、火球の大きさは先程と変わらず、藍色に輝いていた。
「……やはり、か。これは学長先生以外には見せられないな」
「なんでですか?」
「普通、展開魔術の大きさは、一度展開する大きさを変えても解除したら戻る筈なんだ。でも、あたしの場合は戻らなかった。
……そして、今回のルナの場合もね。これは特異な現象だとされているからね。
じゃあ今度は、今の火球を出したままもう一回、同じものを展開してみよっか」
今出している『狐火』の火球をもう一度展開……?
全く理解のできないまま、先生の言に従って、とりあえずやってみることにする。
すると、二回分の展開はどちらの魔力が足りないのかは分からないが、一瞬小さい火球が展開して、大小両方ともの火球がすぐに消えてしまう。
「……ダメか。まだ、足りない、ね。仕方ないね」
「まだ……? できるようになるんですか?」
「いずれは……できるようになると思うわ。魔力は、使うようになればなるほど伸びるものとされているからね。
とりあえず、次の実践授業から、ルナも参加しようか」
「いいんですか?」
「そんなもの、担当教官の許可が出れば問題ないわよ。それに、実践授業は聴講をしているだけじゃ無駄だしね」
そんな感じで、明日からは先生の実践授業にも直接参加することになった。
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