儀式の扉
魔獣ではないということは、動物だろう。
この世界の動物は、人を襲うことが少ないという。
というのも、存在する動物の大半が小型だからなのだが。
数種類、凶暴な動物も存在するが
そもそもの生息地が違うのだ。
人が住む都市を1として、そこから近場の沿岸部までが2離れている。
つまり、都市二つ分は人の手が入っていないこととなる。
これはウワナーに限ったことではなく、他の各都市も同じようになっている。
勿論、狩りをする人たちもいるが
それでも日帰りで帰れる距離までしか進むことはない。
獲得した獲物を持った状態で、日を跨いで歩くのは大変だ
当然といえば当然だ。
それでも、周囲の自然は豊かなので
そこに住む動物たちも同じように多く生息している。
だが、油断をすれば痛い目にあうのも確かなのだ。
これだけの広さに人の手があまり入っていないのだから
調査したと言っても、確実なものではない。
そこには、未だ見ぬ希少な生き物もいるかもしれない。
この世界は未知にあふれている。
未発見の生き物や、未到達の大自然だって沢山あるだろう。
元の世界にも帰りたい。
だが、この世界を知れば知るほどにやりたいことが増えていく。
余裕はないが、自転車で好きなだけ走り
新しい土地へと向かい、様々な人に合う。
これがどれだけ贅沢なことか。
これからどうなるのかは、ようやく見えてきた神殿での結果で左右される。
だが、今はただ祈るばかりだ。
願わくば、少しでも長くこの世界にいられることを。
神殿の周囲には、桃のような果樹が育てられていた。
周囲に人がいないことを確認し、こっそりといくつかをもぎ取る。
ひとつを食べ、残りはリュックへと詰め込んだ。
うん、美味しい!
桃なのだが、若干のとろみがあり
まるでフルーツヨーグルトを食べているようだ。
口元を袖で拭き、いよいよ神殿の扉を開けた。
「ようこそ、ウワナー神殿へ。 私、ピスキーが御用をお伺いいたします」
か、堅い!!!
「こんにちは、俺は黒澤 透です。 魔法の才の開放をお願いしたいのですが」
「そのお歳で、ああいえ…ではこちらへ。 やり方はわかりますか?」
「ええ、その辺りはぬかりなく! これが必要なんですよね!」
おひねりをリュックから取り出し、手に乗せてみせる。
「ええ、それではあちらのお部屋へ。 ここは、一度入ると儀式が終わるまでは出入りができませんのでご注意を」
なるほど、女神が降臨すると考えれば納得だ。
「ありがとうございます! では、いってきます!」
そう言って、俺は儀式の扉へと入っていった。