蜂蜜
俺は今、宿で考え事をしている。
違う区の露店通りへの出店についてだ。
また一から集客することにはなるが、新規の獲得を考えるのならば
違う区への出店も、長期的に見ればプラスになるだろう。
そうと決まれば、明日の出店で移動の報告をした後
翌々日から、一時的に東区から撤退しよう。
そして、販売するものも変えるつもりだ。
次は北区に向かう予定なのだが
こちらは貴族街と呼ばれる、富裕層が多く集まる区域となっている。
なので単価が高めの香水や、ガラス製の食器などをメインに売っていこう。
朝を迎えて目が覚めた。
よし、今日の仕事も頑張るぞ!
今日はあまり暑くないので、アイスの販売ではない。
では何か?
祭りの定番といってもいい、チョコバナナと水飴だ。
水飴は、しっかりとミルクせんべいで挟んである。
「やあ、少年。 今日も変わったものを売っているね、それも美味しいものなのかい?」
美味しい物に貪欲になってきたな…。
「マーシャさん、おはようございます。 良かったら食べてみてください」
まだ準備中ではあるが、キッチンカーで移動しているおかげで
お客さんの並びが昨日よりも早くなっている。
「ああ、そうだ。 マーシャさん、貴族が普段食べている甘い物ってどんなものがありますか?」
今後に活用するために、王族であるマーシャさんに聞いてみた。
「蜂蜜を紅茶に溶かすくらいかな? 他にはあんまり聞いたことないけど…」
砂糖がないってことか?
「砂糖って聞いたことありますか?」
「砂糖…、聞いたことないかな。 それよりも、これ美味しいね。 昨日のアイスクリームもだけど、引き出しが多いよね」
それは元の世界のおかげです。
しかし、砂糖がないとは…。
「あ、マーシャさん。 その水飴にも、チョコバナナにも砂糖は使われてますよ。 昨日のアイスにもね」
「成る程、この甘さがそうなのかな」
「全部じゃないですけどね。 ところで、これらは貴族街でも売れますかね?」
「その問題なら心配ないだろう。 今だってほら、貴族の使用人が並んでいるじゃないか」
マーシャさんが顔を向けた方を見ると、確かに身形のいい人が数人並んでいる。
「それならよかったです。 明日からは貴族街に行ってみようかと思っていまして…」
「ふむ、貴族街か。 しかし、孤児達はどうするんだい?」
「露店は暗くなる前に引き上げる予定なので、宿に取りに来てもらおうかと思っています」
「そうか。 もしも彼らが迷っていたら宿に行くように言ってあげるよ。 それと、明日の出品を予定している品を見せてもらえないかい? 私の方から、貴族街の方に噂を流しておくからさ」
本当に有難い。
「ええ、では。 こちらの香水と、食器をメインに売ろうと思っています。 あくまで明日は、ですけどね。 明後日は食べ物を考えています。 香水も、同じものを何度も販売する予定はありません」
「うん、甘くて良い香りだ。 これは何の香りだい?」
「それはですね…。 正確に言うと種類は違うんですが、ピークの香りです」
「ピーク? 初めて聞くが…、果物かい?」
「ええ。 中央には既に生えていませんが、女神様が大好きな果実ですよ」
「ほう、これは間違いなく売れるよ。 在庫は多く確保しておいた方が良い。 明日は荒れるぞ…」
何それ怖い!!