クロジク
屋台はできた。
おでんもできた。
次は、屋台を出す場所だ。
現在の所持金は銀貨三枚。
随分と、心許なくなってしまった。
思えば、のんびり街を歩いたこともなかったな。
よし、今日は街を歩いて周ろう。
ぶらぶらと街を歩いていると、マーケットに近付くにつれて賑やかになってくる。
この街はこの大陸で一番大きく、王宮を中心に東西南北に計四つのマーケットが有る。
マーケットの近くには、宿があり酒場があり
そして、露店が並んでいるのだ。
水飴と、串焼きは定番だな。
アクセサリーの販売や、新鮮な野菜・家畜まで販売している。
節操ないな…。
しかし、加工食品の販売店舗が極端に少ない。
見た限り香辛料の方は、予想外に豊富なようだが
調理方法に難がある以上、あまり活かせているとは思えない。
煮込み料理はあるみたいなので、おでんはミスチョイスだったかも…。
まあいい、仕込んでしまった物だけでも売っておかないとな。
様々な露店を周って、丁度良さそうな場所を見つけたので屋台を設置した。
「お兄さん、いつの間に出来たんだい? 朝には何もなかったはずだけど…」
隣で指輪を売っているお姉さんが声をかけてきた。
「便利な道具がありまして、こうやって楽が出来るのですよ。 あ、よろしければお一ついかがですか? お代はいりませんので」
そう言って、紙皿に出汁の染みただいこんを乗せて割り箸と一緒に渡した。
「いい香りだね…、これは食べ物でいいのよね? この棒は何かしら?」
あ、箸を渡しても使えないのか…。
急ぎリュックに手を入れてフォークを購入、あちらで見慣れた透明のプラスチックフォークだ。
「ああ、すみません。 俺の故郷の物なんです。 よかったらこちらで食べてみてください」
袋を破り、一本だけ取り出してお姉さんに手渡した。
「ありがとう! 頂くわね」
だいこんは軽く力を入れるだけで、切り分けることが出来るほどによく煮込まれている。
一口大に切り分けられただいこんからは、驚くくらいに出汁が溢れている。
「あっふ…。 あ、美味しい!」
最初は熱そうにハフハフしていたが、出汁の味が追いかけて来たのだろう。
お姉さんは、凄く美味しそうにだいこんを食べてくれた。
「ありがとう! すっごく美味しかったわ!」
「いえいえ、これから横で商売するんです。 仲良くしましょう」
握手を交わして正面を向くと、既に十人くらいの人が並んでいた。
「にーちゃん! 早く売ってくれ! 匂いだけでも我慢の限界だ!」
よかった、これで問題なく売れることだろう。
移動屋台クロジク、本日開業だ!




