握手
「きっ、キサマー! 何をした!」
流石にバレるか、まさかこんな形でバラすはめになるとは。
ここで教えたところで俺に不都合は無いと信じたい。
だが、そのまま手の内を話すのも面白くない。
殺しに来てるんだから、このままおちょくれるだけおちょくってやろう。
「あれれ~? 大層な甲冑を身につけてるのにそんなことも解らないんでちゅか~? プークスクス」
「あああああああああああああ!!!!!!!!」
発狂してる…、だが残念!
甲冑さんがどんなに頑張ろうとも、固定された空間はびくともせず
怒りに身を任せて剣を振り続ける甲冑さんは、あっというまにバテはじめた。
「あら~? もうお終いなんです?」
重い甲冑を身につけて動くのだから疲れるのは当然だ。
既に剣を横に置いて座り込んでしまった甲冑さんだが
それでもこちらを睨み付けることはやめないようだ。
甲冑さん相手に、変顔で遊んでいると
先程の甲冑さんに指示を出していた人がこちらに向かってきた。
「おい、何をしている! 報告が遅いと思えばこんなところで座り込んで!」
やーい、怒られてやんの
「まったくですよ、急に首を差し出せなんて言うんですから! 世の中も物騒になったものです!」
「なっ! それはキサマが!」
自分の行動を棚に上げて、責任を甲冑さんになすりつける。
「そんな事をしていたのか? 周辺の調査をしてこいと言ったはずだが、一般人を斬ろうとしていたと。 なるほどな」
「ちがっ! それはコイツが!!」
「あーあ! 干し肉を齧って寝転んでるだけの人間を斬り殺すなんて、なんて恐ろしい甲冑さんなんでしょう!」
若干かぶせ気味に言うと、偉い方の甲冑さんがこちらを向いた。
「この度はご迷惑をおかけしました、謝罪程度で済ましていい内容では無いのですが…」
「いえいえ、こちらも煽る様な真似をしてしまったので。 謝罪云々は無しにしましょう、お互い傷は無いのですから」
「そう言って貰えると助かります、こいつの性根は叩き直しておきます。」
あら、かわいそうに。
「そうですね、少なくとも直ぐに人を殺そうとしない程度にはお願いします!」
甲冑さんがブルブルと震えているが、俺は何も見ていない。
見ていないのだ!
「ご挨拶が遅れました。 私は中央騎士隊、分隊長のアローネと申します! そして、こちらの馬鹿者は、部下のスンリです」
「いえ、こちらこそ。 俺は、黒澤 透です」
アローネさんが手を差し出してきたが、俺はそれを断り
握手の文化もあるのか、などと考えていた。