掲示板
どうしよう……、生きてはいる。
だが、骨折を治す術など持っていないし
仮に治せたとしても、再び襲われるのだろう。
こちらの世界では命が軽い。
なんて思ったりもしたのだが、考えてみて欲しい。
元の世界でも食事はしていた。
血を吸いにきた蚊に、はいどうぞ
なんて腕を差し出したりもしなかった。
それと一緒なのだ、代償の大きさは違えど
そこには確かに同じものがあった。
自分を害そうとしたものは例外なく敵なのである。
自分の手を汚さなかっただけで、命は大切なものだと言い張っていたのだ。
勘違いしないで欲しいのだが、命は大切なものだ。
自分の目に付く範囲の命は大切なものなのだ。
ニュースで流れる殺人事件も他人事、新聞に載る名前にだってそうだ。
ならば、ここで手を汚したところで変わるものは無い筈だ。
罪悪感はある。
できれば殺したくないとも思う。
だが、この世界で生きていかなくてはならないのだ。
ならば、やるしかないだろう。
幸いにも、俺の魔法は直接手で触れるような感触は無い。
一思いに殺しておけば、骨折で痛めつけるようなこともしないでやれたんだけどな。
「ごめんな」
精一杯の謝罪の言葉を呟いて、狼の体を空間で覆い
首のところで切り取った。
体は収納空間へ、頭は地面へゴロリと転がった。
切り離されても少しの間生きていたのか
その瞳は、死して尚もこちらを力強く睨みつけていた。
よし、仕切り直しだ。
暫く夢に見そうな光景だったが、なんとか乗り越えるしかないだろう。
狼の頭を収納し、二つ目の街へと自転車で走った。
街へ入り、暫く走ると広い公園のような場所に出た。
辺りは少し薄暗いのだが
辺りには子供達のはしゃぎ声が、酒場からは大人達の騒ぎ声が聞こえていた。
丁度酒場に入っていく人がいたので、俺も一緒に入り中を見渡す。
天井は高く、カウンターも長い。
テーブルは長い物が三つ置いてあり、そのテーブルの両脇には椅子が沢山並んでいる。
カウンターの方へとコソコソ進み、壁に掛かっている掲示板のようなものを覗いてみた。
『野犬が出没中、街を出るときは注意されたし』
ほう、あの狼かな? ちょっと確認してみよう。
「すみません、あそこの張り紙で見たのですが…。 ここに来る途中に一頭仕留めたのですが、あの張り紙の狼は複数いますか?」
カウンターの向こう側に座っていた男性に聞いてみた。
「ん? ああ、あれか。 あれは一頭だけだな、だが頭が良くて罠にもかかりゃしない。 それでいて身体もでかく、足も速い。 何も持っていないようだが本当に仕留められたのか?」
嫌な言い方だなあ。