パラケルスス編①
誤字・脱字などあるかと思いますが、何卒優しくお願いします。
「ダリアン! これ片づけてちょうだい!!」
「やだ」
赤毛の三つ編みお下げの女の子が叱られている。彼女はダリアン。いたずら好きで、いつも部屋の中をめちゃくちゃにしては怒られている。今回ももう部屋を滅茶苦茶にしないと約束したばかりなのに、すぐまた同じことをして母親に叱られている。
「お父さんが知ったら、ただじゃ済まないわよ!」
「しーらない」
母親の言葉も通っていないのか、どこか上の空でやり過ごしている。そこに現れたのは父親トッドだった。彼はダリアンが約束を破ったことを責め立てる。遊んでいたことを叱っているのではなく約束を破ったことを叱っている。しかしダリアンは上の空。そこへ妹のノスタルジアが巨大なケーキのような泥団子を持って家に入ってきた。彼女と妹は一歳違いの十二歳と十一歳だが、妹は姉と比べて活発で、よく姉に騙されている。
「おねえちゃん、見て!! うるとらスーパー泥ックスケーキ出来た!!」
家の中に巨大な泥団子を持ち込んで、両親が怒らないわけがなかった。
「あなた丁度いいところに来たわね」(ダリアン)
「え?」
彼女はなぜ怒られているのかさえ理解できず、二人揃って家を追い出されてしまった。これは姉の策略である。姉は妹に両親が家を片づけている間に、こっそり向かうべき場所を見つけていたと話した。妹はそれを聞いて顔を明るくする。
「いこう!!」
姉が自分を騙していたことなどすぐに忘れ、その子どもだけの冒険への好奇心に支配された。目的地は丘の上の無人の館であり、戦争で使われた砦をそのまま館に改修したいわく付きの場所である。二人は陽が沈みかけるなか、街の秘密の出入口を利用して、こっそりと街の外の草原へと出た。
館へは二時間程掛かった。この時点で二人は帰る気など更々ない。館で寝泊まりしようと浅い算段を立てている。館へはそれ程疲労せず到着できた。ダリアンは魔術を用いることができ、それを利用して二人の体を軽くしていたのだ。敷地の四隅に塔を備える館に気配はなく、砦の壁の錆びついた鉄柵がまず二人を出迎える。内部は非常に臭う腐敗臭が漂っていた。
「くっさいわね~、こっちから行きましょう」
腐敗臭から離れるように進むと、一つの良い部屋を見つける。
「ここ、なかなかいいわね」
彼女はもう一つの目的を持っており、それは秘密基地を作ることだった。そこに相応しく家具が揃っており、掃除をすればすぐに完成するような理想的な間取りだ。
「はい、水(水の球から注いだコップをノスタルジアに渡す)」
彼女らは魔術で創ったコップ一杯の水を飲み、館の探索に出る。
臭う厨房の側を抜け、塔に繋がる巨大な木扉を開ける。内部はひんやりとしており、月明かりも差し込まない程漆黒が飲み込んでいた。
「ちょっと待って、明かり出すわ」
ダリアンは魔術で明かりを出し、周囲に散乱した書類を発見する。
「『抗免疫薬』……」
塔内部には研究で使うような木机が置かれており、無人という割には新しめの不自然な状態だった。
「何かあった?」(ダリアン)
「なんもない」
二人は何か面白いものがないかと懸命に探索した。目的の半分は達成したが、彼女らはその成果では満足しなかった(ノスタルジアはほとんどついてきているだけ)。すると塔の隅に異形の怪物を発見する。頭は牛だが体は人間で、しかし闇に溶け込むような漆黒の肌を持った牛頭の怪物だった。
「牛の獣人なんていたかしら?」
眠っているようだったが、ノスタルジアが足で小突いて起こしてしまう。
牛頭の怪物は唸って目覚め、二人の異物の存在に疑問を持つ。「誰だ」と低い声で尋ねられたダリアンは、これが新種の獣人ではないかと大はしゃぎした。
「あなた牛の獣人ね!?」
「『牛の獣人』? 私はノビーだ」
牛頭の獣人かと尋ねられ、異形は何をいわれているのかわからない素振りを取る。酷く人間臭く、自分のことを「ノビー」と名乗った。
「む、何と……これは……(角を掴むように顔を撫で回す)」
自分の手で頭を摩ると、彼女をいっていたことを理解し、なぜ自分がそのような状況にあるのか分析し出す。
「君、誰にも話さないと誓えるか?」
「誓う」(ダリアン)
彼は誰にも喋らないようにと念を押し、彼女らに自分の境遇を語った。
「私は牛の獣人ではなく、異形を研究している研究者だ」
「異形って過去に人間が戦ってたっていう、あれ?」
「そうだ。私はそのうちケイラスと呼ばれる牛に似た異形を調査していたのだが、その際に誤って二度細胞を注入してしまってな、今に至る」
実験の際に誤って二度細胞を注入したところ、頭痛がし、そのまま体が燃えるような感覚に襲われながら意識を失って、現在に至るという。
「自業自得じゃん」(ノスタルジア)
「言うな」
自業自得だと妹に貶されるが、次は君たちの番だと彼女らの秘密を探ろうとする。
「さあ、次は君たちの番だ」
彼女らは好奇心の赴くままにこの館を訪れた厄介者であり、その事実はノビーにとって酷く不都合なものだった。
「私はあなたみたいな面白いものを見にきたのよ!! 大変満足よ」
「ではこのまま帰ってくれるか?」
「え、何で?」
「まさかここに居座る気でもなかろう」
「バリバリそのつもりだったけど」
「勘弁してくれ……」
彼は自分の体を調査をしなくてはならないのに、彼女を追い返そうとすれば街に言い触らすと脅され、研究を共にせざるを得なくなってしまったのだ。しかし彼は機転が利いた。助手という立場を取って彼女らを支配下に置こうと画策したのだ。
「え、助手!? 助手ってあの怪しい実験とか違○な素材取ったりするやつでしょ!? なるなる!」
「(姉を怪訝な目で見るノスタルジア)」
まんまと引っかかった彼女らは、助手という響きのいい言葉に惑わされ、ノビーの為に利用されることになる。




