スポットライト
目の前で。ちいさな闇が——泣いている。
生まれたばかりの、ような。まだ、何も知らないような。それなのに——深い、深い悲しみだけを、抱えて。
私は。そっと——その、そばに。膝を、つく。
「……もう、大丈夫だよ」
手を、伸ばす。
「あなたの、ことは——知ってる。あなたが、本当は。どんなに——優しかったか。あの子を、どんなに——大切に、想ってたか」
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闇が。びくり、と——震えた。
『……うる、さい』
くぐもった——声。
『何も……知らない、くせに。何も……っ』
「知ってるよ。さっき——全部、見たもの。あなたの、生まれた、ところから。あの子と、出会って。……あの子が、いなくなる、ところまで」
『——うるさいっ!!』
闇が。ぐわっ、と——膨れ上がる。
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『もう、嫌だ。もう——何も。考えたく、ない』
闇は。ぐずぐずと崩れて、また。小さく、まるまる。
『裏切られて。奪われて。それでも、耐えろって——いうのか。もう、たくさんだ。このまま——闇の、ままでいい』
「待って。あなたは——」
『君も』
ぎろり、と。闇が——私を、見た。
『君も。諦めて——闇に、溶けて、いけばいい。そうすれば。何も、感じなくて——済む。楽に、なれる』
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私は。それでも——言葉を、探した。
大丈夫。あなたは、一人じゃない。あの子は、あなたに、感謝してた。あなたの、優しさは、消えてない——。
いろんな、言葉を。かけた。寄り添おうと——した。
でも。
どれも。闇には——届かなかった。
『……無駄だ』
闇は。もう。私の方を——見ようとも、しない。
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永遠のように——長い、時間が、流れた、気がした。
言葉が、尽きる。差し伸べた、手も。行き場を、失って。
私は。とうとう——黙り込んだ。
しん、と。
何もない暗闇に、私と闇だけが。ぽつん、と——取り残されている。
(……このまま。私も。闇に、呑まれちゃうのかな)
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ふっと。力が——抜けそうに、なる。
怖い。心細い。このまま——溶けて、消えて、しまいそう。
(……でも)
もし。本当に——ここで、終わるなら。
(……せめて。最後に。何か——残したい)
誰にも、届かなくても。意味が、なくても。それでも——私に、できること。たった、一つだけ。
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私は。ゆっくりと——顔を、上げた。
「……ねえ」
返事は——ない。それでも、いい。
「あなたが。この闇の中で——永遠に、いるって、いうなら」
息を、吸う。
「最後に。せめて——私の、お芝居を。見て、いって」
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「地球で——わたしが、演じるはずだった。私の——舞台」
誰も、いない——客席。幕も、照明も、ない——舞台。
それでも。
私は。すっと——背筋を、伸ばした。三年間、舞台の上で生きてきた。この身体が、覚えている。
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その、ときだった。
ふわり、と。
私の指から、指輪が。抜け出すように——宙に、浮かぶ。
そして。
ぽぅっ、と。やわらかな——光を、放ち、はじめた。
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まるで。私の、想いに——応えるように。
その光は。すうっと降りてきて、暗闇の中。私だけを——円く、照らし出す。
スポット、ライトの——ように。
(……うん)
これで、いい。
暗闇は——客席。光の輪は——舞台。たった一人の観客のために、私の——最後の公演が。
今——幕を、開ける。




