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急に地球が滅びないかな、と異世界で私は呟いた 〜気絶のフリで乗り切るはずが、私を召喚した令嬢に転生を待たれていた件〜  作者: めるしー


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光のような子

 ちいさく、まるまって。ひとりぼっちで、泣いている——闇。


「……だい、じょうぶ?」


 私は。そっと——手を、伸ばす。


 その、瞬間。


 ぶわっ、と。暗闇が——色を、変えた。


-----


 景色が。流れ込んでくる。


 まるで——舞台の幕が、上がるように。私のまわりで、次々と——場面が、移り変わっていく。


 これは——記憶? それとも——夢?


 声を出しても、私の言葉は——どこにも届かない。私は。ただ——見ている、だけ。観客のように。


-----


 はじまりは。何も、ない——世界。


 ただ、そこに。光と闇が——あった。混じり合い、揺らめく。最初から、そこにあった——二つの、もの。


 やがて。光の中から、ひとつ。闇の中から、ひとつ。


 二つの命が、生まれ落ちる。


 光から生まれたのが——あとの、光の精霊王。闇から生まれたのが——闇の、精霊王。


(……二人は。こうして、生まれたんだ)


-----


『見ろ。お前がいるから——俺が、存在できるんだぞ』


 光の精霊が。闇の精霊に——笑いかける。


 まだ、幼い二人。光はまばゆく、最初から——きらきらと、輝いていた。闇は、その隣で。少し、おどおどとしながら。けれど。兄を見上げる、その目は。きらきらと——憧れに、満ちていた。


(……二人は。こんなにも、仲が、よかった時が——あったんだ)


 胸が。きゅっと——なる。


-----


 時が、流れる。


 やがて——地上に。人間が、生まれた。


 闇の精霊は。夜の中で、安らかに眠る——人間たちを。そっと、見守っていた。


『……かわいい、なぁ』


 夜の闇は、人を休ませる。安らぎを、与える。闇は——それが。誇らしくて。嬉しくて。


-----


 でも。


 時代が移ろい、人間が——知恵を、つけ始めると。


 闇の中に。流れ込んで、くるものが——変わった。


 憎しみ。妬み。裏切り。欲望。戦の、叫び。親が、子を。子が、親を——傷つけ合う、声。


 夜の闇は、人の——いちばん醜い部分を。一身に、引き受ける場所に——なっていった。


-----


『……うっ、ぐ……』


 闇の精霊が。苦しげに——うずくまる。


 流れ込む、負の感情。そのえげつなさに、心が——軋んでいく。日に日に、少しずつ——病んでいく。


 その姿を。私は——見ていることしか、できない。


(……つらい、よね。あなたは。ただ、闇として。生まれただけ、なのに)


-----


『……兄者』


 闇の精霊が。光の精霊に——こぼす。


『人の、負の心が……流れ込んで、くる。苦しいんだ。こんなにも——醜いものを。俺は、受け止め、続けないと——いけないのか』


『……つらいな』


 兄は。ただ、静かに——弟のそばに、寄り添った。否定も、説教も——しない。ただ、その苦しみを。受け止める、ように。


(……なんて、悲しい……)


-----


 そんな、ある夜。


 闇の精霊は——見つけた。


 夜の闇の中。ぽつり、と。真っ白な——光のような、女の子を。


『……綺麗だ。まるで、兄者みたいに——輝いて、見える』


 その子から、目が——離せなくなった。


-----


 不思議な、子だった。


 昼間は、家の中から出てこない。なのに、夜になると。両親と手を繋いで、嬉しそうに——外へ、出てくる。


 闇の精霊は。そっと耳を澄ます。


『あの子は。陽の光を、浴びると……身体を、壊してしまうんです』


 母親の、声。陽の光が——あの子には毒になる。だから——夜にしか、外で遊べない。


-----


(……あ)


 闇の精霊の心が、揺れるのが——わかった。


 昼の、光の中では生きられない。夜の、闇の中でしか——動けない。


 それは——まるで。


『……俺と、同じ、なのか』


 闇でしか生きられない、自分。光のように輝けない、自分。その子に——闇の精霊は。自分を、重ねた。


-----


 それから。


 闇の精霊は。毎晩、その子を見守るようになった。


 精霊だから、触れることも。声をかけることも——できない。ただ、そばにいるだけ。それでも。


 その子が笑うと、嬉しくて。その子が転ぶと、はらはらして。夜の、わずかな時間を。誰よりも——大切に、見守った。


-----


 ある夜。


 その子が、お母さんに——無邪気に、言った。


『わたし、夜が、大好き! 自由に動けるのも——あるけど。それだけじゃ、ないの』


『あら。どうして?』


『だってね。夜になると——だぁれかが。いつも、そばで。わたしに寄り添ってくれてる気が——するの!』


-----


『…………っ』


 闇の精霊が、息をのんだ。


 ばれていた。いや——気づかれていた。触れられない、声も届かない。そんな、自分の存在を。その子は——ちゃんと、感じてくれていた。


『……じ、ん……』


 闇の精霊の、目に。じわり、と——あたたかいものが、滲む。


(……よかった、ね。あなたの、想いは。ちゃんと——届いてたんだよ)


 私まで。涙が——出そうに、なった。


-----


 その夜。


 闇の精霊は、兄のもとへ——飛んでいった。


『兄者! 俺、わかったんだ』


『どうした。ずいぶん、嬉しそうだな』


『人間の、負の感情は——やっぱり苦手だ。でも』


 闇の精霊の声は、今までで——いちばん。明るく、弾んでいた。


-----


『闇は。夜は——誰かにとって、安らぎになれるんだ。俺の存在は、ちゃんと——誰かのそばに、寄り添えるんだって。あの子が——教えて、くれた』


 兄は。その言葉を、聞いて。


 ふっ、と——優しく。微笑んだ。


『……そうか』


 たった、一言。でも——その、まなざしは。どこまでも、あたたかく。弟の心の変化を、心から——喜んでいた。


-----


(……ねえ)


 私は、流れていく景色の中で——思わず、呟いた。


 届かないと、わかって、いても。


(あなたは。こんなにも優しかったんだね。こんなにも——あたたかい心を、持っていたんだね)


 それなのに。


 どうして。あなたは——あんな闇に、なってしまったの?


 景色は。まだ——流れ続ける。次の、場面へと。

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