表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
急に地球が滅びないかな、と異世界で私は呟いた 〜気絶のフリで乗り切るはずが、私を召喚した令嬢に転生を待たれていた件〜  作者: めるしー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/101

背中を預けて

『さあ——始めよう、か。この、世界の。終わりの——幕を』


 その言葉と、同時。


 玉座の闇が、ぶわりと膨れ上がった。広間中の黒い靄が、意思を持つ触手のように。私たちへと——襲いかかってくる。


 一本、二本——いや、数え切れない。無数の黒い腕が、四方八方から。私たちを絡め取ろうと——伸びてくる。


「——っ、来るぞ! 散れ!」


 ユリウスが、叫びながら。剣を、振るう。


-----


 鋭い斬撃が、迫りくる闇を——薙ぎ払う。はず、だった。


 でも。


 ずるり、と。


 剣は、闇を——すり抜けた。手応えが、まるでない。まるで、煙を斬っているみたいに。闇は平然と、再び——形を、取り戻す。


「——なっ!?」


 ユリウスの顔が、驚愕に歪む。


 もう一度。今度は、袈裟懸けに振り下ろす。けれど、結果は——同じ。刃は、闇の体を。ただ——通り過ぎる、だけ。


-----


「くっ……効か、ない、のか……っ」


 何度、斬っても。同じだった。剣は、闇を通り抜けるばかり。


 その間にも。闇の腕は、ユリウスの足に。腕に絡みつき、じわじわと——その動きを、奪っていく。


「ぐ……っ」


 まずい。このままじゃ——ユリウスが、呑まれる。


 私が、駆け寄ろうと——した、そのとき。


『……っ、たく。仕方、ない、な』


 聞き慣れた声が、した。やれやれ、と言わんばかりの——けだるげな、声。


-----


 ふわり、と。


 私の傍らで、フェンの姿が——変わる。小さな狐の姿から、すらりと背の高い——人間の、青年へ。


 金色の髪。吊り上がった、切れ長の目。人を食ったような——涼やかな、笑み。


「——っ、お前は……!?」


 ユリウスが、目を見開いた。その顔に——はっきりと、見覚えが。あるようだった。


-----


 ああ、そっか。ユリウスには、フェンの人間の姿が。前に、町で会ったときの——あの「金髪の青年」に。見えるんだ。


『やあ、おぼっちゃん。久しぶり、だな』


 フェンが。にやり、と笑う。あの、煽るような——態度で。


「な、なぜ……君が、ここに……」


「まぁ——そういう、事だ」


 フェンは。ひらり、と肩をすくめる。


-----


「つべこべ、言ってる——暇は、ないぞ。協力、しな。おぼっちゃん」


「……っ」


 ユリウスが、一瞬。何か言いたげに口を開きかけて。けれど——今は、それどころじゃないと悟ったのか。ぐっと、言葉を——飲み込んだ。


 その、次の瞬間。


 ふわり、と。


 ユリウスの身体が、淡い風に——包まれた。剣の刃にも、透き通った風が——まとわりつく。


-----


「これで——お前の、剣も。あの闇に、届くようになる」


 フェンが。ユリウスの隣に、並び立つ。


「それと。この闇の中じゃ、お前の目は——当てにならない。だから——俺が、目になる。俺の動きに、合わせろ」


「……っ、わかった」


 ユリウスが、短く答える。気まずい相手のはずなのに、彼は——余計なことを、何も言わなかった。今は、そんな場合じゃない。誠実な彼は、そう——冷静に、判断したのだろう。


-----


 来る。


 再び、闇が。うねりながら——襲いかかってくる。


「右だ!」


 フェンの、鋭い声。ユリウスが、考えるより早く——身を、ひるがえす。


 その剣が、風をまとって——闇を、薙いだ。


 今度は——すり抜け、ない。


 ぎゃっ、と。耳障りな悲鳴をあげて、闇の触手が。風に裂かれて——霧散する。


-----


「……っ、斬れた!」


「当たり前だ。俺の風だぞ」


 フェンが。得意げに鼻を鳴らす。


「次、左。二つ——来る。下がりながら、薙げ」


「——ああ!」


 ユリウスの動きが、さっきとは別人のように——冴えていく。フェンの、的確な指示。風をまとった、剣閃。二人の息が、少しずつ——合っていく。


「上だ! 跳べ!」


 ユリウスが、床を蹴る。宙で身をひねり、振り下ろした刃が——頭上から迫った闇を、両断する。


「……っ、君の指示は。正確、だな」


「ふん。当然だろ。俺の目は、節穴のおぼっちゃんとは——わけが違う」


「一言、多い」


 軽口を叩き合いながらも、二人の剣と風は。一糸の乱れもなく——噛み合っていた。


-----


(……すごい)


 あんなに、いがみ合っていたのに。いざとなれば——ちゃんと、背中を預け合える。


 闇の触手を、次々と斬り払いながら。ユリウスとフェンが、玉座へと——道を、切り開いていく。


 でも——その玉座の、上で。


 闇の精霊王は。まだ、ゆったりと微笑んだまま。微動だに、していなかった。


-----


『ほう。なかなか——やる、ではないか』


 愉しげに、闇の精霊王が呟く。


『だが——これは。ほんの、戯れにすぎん。本当の絶望は——これから、だ』


 その、声と、ともに。


 広間の闇が、さらに——濃く。深く。蠢き、はじめる。


 戦いは。まだ——始まった、ばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ