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急に地球が滅びないかな、と異世界で私は呟いた 〜気絶のフリで乗り切るはずが、私を召喚した令嬢に転生を待たれていた件〜  作者: めるしー


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はじめまして、シルヴィア

 手鏡が、映し出した、真実。


 母は、「あの人」に、命を、奪われた。シルヴィアも——同じ、運命を、たどる。


 その、重い事実は。私の中に、ずっと——澱のように、沈んでいた。


(……このまま、じゃ、だめだ)


 ある夜。私は——静かに、決意していた。


 「あの人」が、誰なのかは、まだわからない。でも——確かに、いる。シルヴィアの母を奪い、シルヴィアを追い詰めた、何か。そして、暗号は、ずっと「気をつけて」と警告していた。


 いつか——その「あの人」と。私は、向き合うことに、なるのかもしれない。


(……そのとき。今のままの、わたしじゃ。きっと、何もできない)


 私には、精霊士の力が、あるらしい。ピピも、フェンも、見える。契約も、できた。でも——その力を。どう使えばいいのか。私は、ほとんど何も知らない。


 手探りで。なんとなく。ここまで、来ただけ。


(……ちゃんと、力を、つけたい)


 シルヴィアが、託そうとした、何か。それに、応えるためにも。この、不穏な世界で、生き延びるためにも。


 でも——誰に、教われば、いいんだろう。精霊士なんて。この世界に、もう——いないのに。


-----


『……教わりたいのか。精霊士の、力を』


 ふいに。フェンが——そう、言った。


「え……。フェン、知ってるの? 精霊士の、力の使い方」


『私が、教えられるのは。精霊としての、関わり方くらいだ。精霊士の、本当の力は——精霊士に、しか、わからない』


(……それは、そうだよね)


 がっかり、しかけた、そのとき。


『——だが。一人。心当たりが、ある』


「え?」


『この手鏡。……ここには、かすかに。“あの女”の——シルヴィアの、気配が、残っている。いや。残っている、というより……繋がっている、のかもしれないな』


(……シルヴィア)


 はっと、して。私は、手鏡を、見つめた。


 銀の、手鏡。覗き込むと、いつも——シルヴィアの顔が、映る。隠れ家で、見つけたとき。私の力と、共鳴した、不思議な鏡。


『お前を、助けてきた、あの”温かい力”。あれは——シルヴィアの、ものだろう。完全には、消えていない。この鏡を、依代にすれば……あるいは。声を、交わせるかも、しれない』


「……でも。シルヴィアの声なんて。わたし、聞いたこと——」


『だから——私が、運ぶのさ』


 フェンが、ふっと、目を、細めた。


『声を、運ぶのは。私の、得意分野でね。か細い、消えかけの声でも。手鏡を、依代にすれば。お前まで、届けてやれる。……まあ。簡単じゃ、ないがね』


(……フェンの、力で。シルヴィアと、話せる……?)


 心臓が——とくん、と、鳴った。


-----


『……いくぞ。手鏡を、両手で。包むように、持て』


 言われた通り。私は、手鏡を、そっと、両手で、包んだ。


『目を、閉じて。……心を、鏡に、向けろ。お前の中の、力を。鏡へと、流し込むように』


 言われるまま。私は、目を、閉じて。意識を——鏡へと、集中させた。


 すると——フェンの、風が。さわり、と。私と、鏡を、包み込む。


 やがて——。


『…………り。……みど……り』


(……っ!)


 聞こえた。


 か細い。途切れ途切れの。でも——確かに。誰かの、声が。


『……あ……。やっと。繋がった……』


 優しくて。少し、儚げな。聞いたことのない——でも、どこか、懐かしい、声。


(……あなたは)


『……はじめまして、かな。それとも——おかえり、なさい、かな』


 声は——くすり、と。笑った。


『わたしは——シルヴィア。あなたが、今、生きている。その身体の——元の、持ち主』


(……シルヴィア!)


 胸が——いっぱいに、なった。


 ずっと。ずっと——会いたかった。私を、この世界に、呼んで。私を、ずっと——陰で、助けてくれていた、人。温かい力の、正体。


 その人と——今。ようやく。


「……シルヴィア。わたし——わたし、ずっと。あなたに、聞きたいことが」


『ふふ。……たくさん、あるよね。ごめんね。こんな形で、しか——話せなくて』


「……どうして。わたしを——この世界に、呼んだの? どうして、わたし、だったの?」


 いちばん、聞きたかったこと。なぜ、私は。ここに、いるのか。なぜ、シルヴィアは——他の誰でもなく。私を、選んだのか。


 でも——シルヴィアの声は。ほんの少し。困った、ように、揺れた。


『……ごめんね。それは——今は。言えないの』


「……言えない?」


『うまく——言葉に、できない、というか。……ううん。違うわね。わたしは、もう。ほとんど、消えかけだから。大事なことを、声に乗せる力は——もう、残っていないの』


(……消えかけ)


『だから——わたしは。いちばん、伝えたかったことは。全部——あの、手帳に、込めたの。暗号にして』


(……あの、暗号!)


『あれを——あなたが。自分の手で、解き明かしたとき。きっと——すべてが、わかる。わたしが、どうして、あなたを呼んだのか。何を——託したいのか。……だから。ごめんね。今は、まだ。わたしの口からは——言えないの』


(……そう、だったんだ)


 暗号は——ただの、警告じゃ、なかった。


 あれは——シルヴィアが。最後の力で、遺した。私への——いちばん、大切な、メッセージ。彼女が、声に乗せられなくなった、想いの——すべて。


(……だから。「託したい」って)


 胸が——熱く、なった。


『でも——大丈夫。少しずつ、ね。今、わたしが、伝えられること。それは——ちゃんと、教えてあげる』


 優しい、声だった。


 自分のことより。私のことを——気遣ってくれる。ああ——この人は。本当に。優しい人なんだ。エマや、ユリウスが、言っていた、通りの。


『……あなた。力の、使い方を。知りたいんでしょう?』


「……うん。聞こえてたの?」


『なんとなく、ね。あなたの、思っていること。少しだけ——伝わってくるの。同じ、身体を——分け合っているからかな』


(……そっか)


『それなら——教えてあげられる。精霊士の、力の、使い方。……わたしも、昔。お母様から、教わったの』


(……お母様、から)


 その言葉に。私は——息を、のんだ。


 シルヴィアの母も——精霊士、だった。そして、その母から、シルヴィアは、力を、教わった。


 母から、娘へ。受け継がれた——力。


 そして今。シルヴィアから——私へ。


(……お母様のこと。聞いても、いいのかな)


 手鏡が、映した、真実が——よぎる。母は、「あの人」に。命を——奪われた。


 でも——その話に、触れようとした、瞬間。


『……お母様の、ことは』


 シルヴィアの声が。すっと——細く、なった。


『……それも。ごめんね。今は——話せないの。それも、きっと。あの、暗号の——いちばん、奥に。あるから』


(……っ。やっぱり)


 精霊士だったこと。力を教わったこと。そこまでは——話せる。でも。その先——母の最期に関わることは。やはり、暗号の領域、なのだ。


 シルヴィアは——本当に、大切なことは。全部。あの、暗号に、託している。


(……わかった。無理には、聞かない)


 焦らなくて、いい。一つずつ。暗号を、解いて。私が、自分の手で——たどり着けば、いいのだから。


『さあ。始めましょう。……わたしの、知っていることを。全部——あなたに、託すから』


-----


 そこから——不思議な、修行が、始まった。


 手鏡を、通して。フェンが、運んでくれる、シルヴィアの声。それを、頼りに。私は——精霊士の、力と。少しずつ、向き合っていった。


『精霊士の力はね。“視る”だけじゃ、ないの。世界に、満ちている——気の流れを。感じて。寄り添って。そっと、お願いする。精霊たちは、命令する相手じゃ、ない。お願いを、聞いてくれる——友達なの』


(……友達)


 その言葉が——すとん、と。胸に、落ちた。


 私が、ピピや、フェンと。自然と築いてきた、関係。それは——間違っていなかった。命令でも、契約でもなく。友達。シルヴィアの教えと、私のやり方は。同じ方向を、向いていた。


『あなたは——もう。半分、できているわ。ピピや、フェンと。ちゃんと、心を、通わせている。だから——あとは。その力を。もっと、深く。もっと、広く』


 シルヴィアの、導きで。私は——意識を、研ぎ澄ませた。


 今まで、ピピに、頼っていた「気配を読む」感覚。それを——自分自身で。掴もうと、する。


 最初は、何も——感じなかった。でも。何度も。何度も。試すうちに。


(……あ)


 ふと——感じた。


 部屋の空気の、かすかな流れ。フェンの、風の気配。窓の外の——木々の、ざわめき。そこに宿る、小さな命の——気配。


 今まで、ぼんやりと、しか、感じられなかった、世界が。少しだけ——くっきりと。輪郭を、持って、立ち上がる。


『……そう。上手よ。それが——精霊士の、目。世界の、本当の姿を、視る——力』


(……すごい)


 まだ——ほんの、入り口。でも。確かに——私は。一歩、踏み出した。


-----


『……ふう。今日は——ここまで、ね』


 シルヴィアの声が。少し——疲れた、ように、揺れた。


『ごめんね。やっぱり——長くは、保たない、みたい』


「……ううん。十分だよ。ありがとう、シルヴィア」


『こちらこそ。……ねえ。みどり』


(……あ)


 シルヴィアは——初めて。私を。「みどり」と、呼んだ。


『あなたが——来てくれて。よかった。本当に。……ありがとう』


 その声は——心から。嬉しそうで。そして、どこか——泣きそうな、響きを、していた。


(……シルヴィア)


『また、ね。少しずつ。一緒に——強く、なりましょう』


 そう言って——シルヴィアの、気配は。すうっと、薄れて、いった。


 手鏡は——また。ただ、静かに。私の顔を、映す、だけに、戻る。


『……ふん。なんとか、繋げたな』


 フェンが。気だるげに——けれど、どこか、満足げに、言った。


「……ありがとう、フェン。あなたの、おかげ」


『礼は——いらないさ。……まあ。強いて言うなら』


 フェンは、ちらり、と。私を、見て。


『……今度。あれを、また、作ってくれ。あの——稲荷、とかいう』


(……ふふ。やっぱり、それか)


「うん。いくらでも、作るよ」


 私は——笑った。


 手鏡を、胸に、抱いて。窓の外の、二つの月を、見上げる。


 シルヴィアと、繋がれた。母から、受け継がれた、力を——私も、受け継ぎ始めた。


 まだ、ほんの、一歩。でも——確かな、一歩。


(……一緒に、強くなろう。シルヴィア)


 心の中で、そっと、誓って。


 私は——明日からの、修行に。静かに、思いを、馳せた。

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