0話 part3
そうして始まった夏休みだったが、すずは夏休みのほとんどが部活で埋まっており、浩介と僕は家でのんびりと過ごした。たまにすずの部活がない日は、遊びに行こうとするすずを押さえつけ、三人で宿題をする。
僕と浩介は時間がたっぷりあるためさっさと宿題を終わらせても良かったのだが、すずが一人では宿題を絶対にしないことはこれまでの付き合いからも目に見えており、すずの時間が空いた時に三人でやることにしたのだ。
夏休みが3分の2ほど過ぎた頃には、すずは大会まで残り一週間ほどになっており、練習も大詰めだったのだろう、僕の家に来ることはほとんどなくなっていた。
一方僕と浩介は相変わらずゲームをしたり、漫画を読んだりとのんびりと夏休みを消化していったのだった。
その日は8月下旬にもかかわらず、誰もが口を揃えて外に出たくないというような猛暑日だった。だが今日だけはいつものようにのんびりと家にこもっているわけにもいかない。
夏休みの間ずっと使っていなかった目覚まし時計のベルの音で目を覚まし、いそいそと着替える。朝食をとり、昨日のうちに買っておいた花を持って玄関を出ると浩介とすずがすでに玄関前で待っていた。二人とも僕と目線を合わせるだけで話しかけようとはしない。
そのまま無言で連れ立って電車の駅へ向かう。電車の座席に座ってからも会話はなく、浩介とすずは僕の両隣にそっと寄り添うように座っていた。
四つ目の駅でおり、駅の裏手にある山を登っていく。すぐに見えてくる霊園の一角にあるのは両親の墓だ。
僕の両親は六年前の今日、自分がまだ小学生の時に交通事故で二人揃って死んでしまった。その頃すでに仲が良かった浩介とすずはその時以降毎年、この日になると何も言わず墓参りに付き添ってくれている。
三人で花を添え、手を合わせていると自然と心が落ち着いてくる。
親という唯一無二の存在が突然消えてしまった時は呆然としたし、二度と会えないとわかった時は悲しみにくれ泣きじゃくった。
今でも、もし父さんが、母さんが生きていたら、と考えることはある。でもそれで悲観的になることはなく、それはすずと浩介がずっと隣で支えてくれたからだと思う。
すずは大会直前にもかかわらず部活を休んで付き合ってくれているし、浩介が夏休みのほとんどを僕の家で過ごしているのも一人の僕が寂しい思いをしないようにと慮ってのことだろう。二人にはとても助けられているし、感謝しても仕切れないと思っている。
そんな二人がそばにいてくれるから、両親に自慢するような気持ちで、僕にはこんなに素敵な友人がいるんだと胸を張って墓参りに来ることができているのだと思う。
「そろそろ行くか、ケイ」
隣で手を合わせていた浩介が声をかけてくる。
「うん、そうだね。」一つ頷いて顔を上げる。
墓参りの後は駅前の喫茶店で夕方まで過ごすのが毎年の恒例になっている。特に話すことがあるわけではない。墓参りの後はなんとなく三人の時間をゆっくりと過ごしたいと感じるのだ。隣のすずに声をかけ、三人で言葉を交わしながら墓前を後にする。
そこには、来るときに感じた重くのしかかるような空気はなく、三人の間はふわふわとした暖かい空気で満たされていた。




