0話 part2
夏休み前最後の登校日、教室にはどこかうだれた空気が漂っている。
「なぁ、ケイ。今日学校に来る意味あんのかなぁ。毎年この日が憂鬱でたまらん。」
後ろの席に座っている幼稚園からの幼なじみである水津浩介が、机に寝そべりながら声をかけてくる。
「そんなこと言ってもしょうがないよ。明日から夏休みだと思えば些細なことだよ。昼前には帰れるんだし。」
「だから面倒くさいんだろ。この暑い中登校させといてちょっと先生の話きいたら終わりだぜ。そんくらい昨日のうちに済ませといてくれってことだよ。」
「まあ、確かにそれはそうだけだど。どうせ先生たちの都合でしょ。先生たちは夏休みなんてあってもないようなものなんだから。」
「俺たちのために犠牲になってくれる先生方に感謝だな。」
浩介はそういって大袈裟に拝む真似をする。
「それよりも浩介、今年の夏休みの予定は?」
「ああ、今年も特に何も入れてない。ってかお前もわかってるだろ。」
「いや、今年こそは浩介も諦める気になったのかなぁと思ってね。」
浩介には毎年夏休みになると絶対に遊びに誘いにくる女子が一人いるのだが、僕と遊ぶという理由でバッサリと断り続けているのだ。
夏休み中毎日僕と遊ぶから、なんて冗談のような理由で断っているため、この時期になるとその子と廊下ですれ違う度に殺してやろうかという形相で睨まれる。
その子は中学時代からの後輩で今はこの高校の一年生だ。かれこれ四年間誘っては振られを繰り返しており、それでも諦めていない彼女は本当にすごいと思う。そして、いい加減本当に殺されそうなので早くくっついて欲しい。
ただ、浩介が彼女と付き合う事はないだろうとも思う。浩介は何も言わないが、その理由が僕にあるということもわかっているのだ。。
「ということで夏休みはお前の家に行くからよろしく〜」
そうして浩介が夏休みのほとんどを僕の家で過ごすのも毎年のことだ。
「おはよ〜。日直号令〜。」
教室に入ってきた先生が号令を促す。
どこかダルそうな日直の号令で、夏休み前最後の1日が始まった。
今日は終業式しかないため昼前には下校になった。
僕と浩介はどちらとも部活に入っていないためすぐに家に帰ることにする。
「ケイ〜、浩介〜、一緒に帰ろ〜!」
校門に向かって浩介と話しながら歩いていると後ろから声がかかった。
「すず、今日は部活ないの?」
話しかけてきたのはもう一人の幼なじみである森ヶ谷すずだ。ショートカットの髪を跳ねさせながら駆け寄ってきた彼女もまた幼稚園からずっと一緒に進学してきた幼なじみであり、小さい時からいつも僕と浩介、すずの3人でつるんできた仲だ。
「ん〜、今日はオフなんだ〜。だから久しぶりに一緒に帰りたいなーって」
「すずは高校に入ってから部活で忙しいもんなぁ。すずの夏休みは部活でいっぱいか?」
すずが入っている弓道部は全国大会にも進むような強豪であり、練習量はやはり他の部活と比べても多い。すず自身も部内でトップを争うほどの実力を持っており、中学の時まではしょっちゅう三人で遊んだりしていたものの、高校に上がってからはさっぱりになってしまっていた。
「そうだねー、夏の大会があるからね。全国大会につながる大会だし夏休みはほとんど練習かなぁ。あっ、そうだ、いいこと思いついちゃったー」
すずが名案が浮かんだとばかりにニンマリとにやけながら、チラチラとこっちを見てくる。
こういう時の「名案」はすずにとっての「名案」であり、大体は僕と浩介にとっては面倒くさいことであることが多い。僕と浩介はそっと目を合わせ、すずの続きの言葉を待つ。
「二人とも、夏休みはどうせ暇でしょ。私の大会の応援に来ること!いい?そしたら大会終わってから遊んだり、ご飯とか一緒に行けるじゃん!」
思った以上にまともな提案で驚いた。大会の応援くらいならいくらでも行けるし、そもそも自分から浩介に提案しようとも思っていたのだ。浩介と二人してほっとして息をつく。何せこれまでの十年間で「名案」と言って付き合わされたのが、海まで自転車で行くだの、真夜中の一二時に呼び出されて学校の裏山に肝試しに行く、といったものであり、今度はどんな無茶振りを、と思っていたところだったのだ。
「それくらいだったらなんぼでも行ってやるよ。なあ、ケイ」
やはり浩介の声も心なしか弾んでいるように感じる。
「あぁ、いいぞ。日にち教えといてくれよ。」
そう答えるとすずはニンマリと笑顔を浮かべ、言った。
「ん、わかった。それと、夏にあるのは全国大会だから。あっ、ちなみに今年の全国大会は滋賀だよ。よろしくね〜」
・・・・・よろしくね〜、じゃない。どうやら二人して一杯食わされたらしい。




