プロローグ
『もしも』の話をしよう。
淡いセピア色に彩られた、学生時代の夢をあなたが見ているとする。
ホームルーム中なのか、教室には同級生たちの話し声がさざ波のように揺れており、あなたは自分の席でぼんやりと窓の外を眺めている。
時々、前の席の級友が振り返って楽しそうにしゃべりかけてくるが、あなたはどこか上の空──────
なぜなら。
あなたは、今自分が見ている世界が、記憶の中の虚構の世界だと気づいているから。
だが、一方でこの夢の中は居心地がいい。
ここには、本当の現実の面倒な “しがらみ” がない。
楽しかった時間だけが淡いセピア色に包まれながら再生され、余計なことを考える必要がない。
永遠とも数分とも数時間とも感じられるこのセピア色の時の中で、ずっと何も考えずにいられたら─────とも思う。
しかし─────
この状況が “私” ならば、一刻も早く目を覚まさねばならない─────と考える。
私には、この居心地がいい“だけ”の夢の世界から、現実へと戻らねばならない強い理由があるのだ。
だが、もし覚醒を強く念じても、この夢から覚めることができなかったら?
─────冗談じゃない。
私は、何があっても必ず現実世界に帰ろうと行動するだろう。
もしも、今見えている “偽りの” 級友たち全員を殴り倒さないとこの夢から覚めないのであれば、私は迷わずそれを実行する。
あるいは意地の悪い神様がいたとして、私をこういう状況に置いたのがそいつなら、私はそいつを蹴っ飛ばしてでも─────
何としても帰るつもりだ。
そういう強い意志と行動力が、どうやら私の特徴というか─────私を私たらしめる、小難しく言うと『存在意義』なのかもしれない。
さぁ、そろそろ夢の時間は終わりだ。
私には別の場所でやるべきこと、為すべきことがある。
それを終わらせるまでは、夢で惰眠などを貪ってはいられない。
─────目覚めろ!
はやく目覚めるんだ、私ッ!!!
そう強く念じ続けていると、やがて世界全体が急速に歪みはじめ、遠くに見える淡い光に向かって、自分の意識が一気に覚醒に向かっていくのがはっきりとわかった。
よかった、これでようやく──────
あの地獄に戻れる。




