第1話 戦災孤児対処法
時は21世紀上旬。昨今100年間は歴史上類を見ないほど急激な科学発展を遂げたと言われるだけに、人類史を語る上では避けては通れないほどの変革の時代だっただろう。しかしそれは決して人間だけのものではなかった。
羽の生えた大蛇と言ってしまうと迫力に欠けるだろう。だが龍と言われても、架空の生物だけにイメージができないだろう。だが、今まさにファンタジー小説やアニメで『龍』と呼ばれる『羽の生えた大蛇』が天を駆けていた。しかし決してこの世界は剣と魔法のファンタジー世界ではない。むしろ銃とミサイルと、核兵器により均衡が保たれる生々しい世界である。なのに龍が空を駆けていたのである。
初めてそれが目撃されたのは太平洋・日本近海であった。
あまりに巨大な飛行物体に対し、どこかの国による領空侵犯か、はたまた大型旅客機の緊急事態かと思われた。しかしその正体は巨大な生き物である。
それを聞いた世界は湧いたものだ。なにせファンタジー世界の生き物である。ネット世界を中心に、生物学界までもが湧き立った。その後、世界に混乱が訪れるまでは……
東京都中心部。燃え上がる火の手に、人々は為す術もなく逃げ惑う。車で逃げようとする人たちのせいで道は渋滞し、消防車がたどり着くことない。
空からは龍が火を噴き、人を焼き払う。陸では数か月前に発見されたばかりの大きな虎が暴れまわり、まるで自分の餌かのように人々に食らいつく。政府・自治体の主導によりただちに海路からの緊急避難も行われることにはなったが、民間船舶が妖怪のような巨大蛸に襲われ沈められる事件も発生した。
この後、日本政府は被害も厭わぬ一大反攻作戦を実行。東京都ならびに制空・制海の奪還に成功したものの、それによる民間人の被害は決して少なくなかった。
そしてその他の国も同じような被害に悩まされ、そのたびに各国は後手後手で、加えて勝っても大損害という戦略的敗北を続けていた。
「と、言うのが最近の小学校の授業で教えられているらしい」
「うへぇ。ファンタジー小説を社会科でやるのか。世も末だな」
「ドラゴン退治しているファンタジー世界の勇者様が何を言うか」
さて暇を持て余した結果、何の利益も生まないくだらない話で、時間と言う貴重な資源を消費しているこの2人。自称・ファンタジー世界の勇者様は、近からずも遠からずな自称であったりする。
先から昨今の小学生教育に苦言を呈している少年は猪原聡也。
そしてその正面で話をしている女子は空見加里奈。
一見すれば学生の男女の何気ない会話に見える。もっとも猪原の前に赤黒い『何か』の付いた鉄の棒がなく、空見がきれいな波紋の日本刀を抜いていなければの話だが。
「ところで今日の放課後は?」
「し~らない。昨日、お仕事したばかりだし、今日くらいはゆっくりしたいけどね~」
昨日、ここにいない2名と合わせた全4名にて、沿岸部に現れた『モンスター』を退治してきたところである。撃退によって手当も入ったことだし、お金に困ってもいない。彼女の言う通りお休みしたいところでもある。
「お仕事ねぇ」
彼は立ち上がって部屋の窓から外を眺める。
窓から見えるは広がる海。どこからともなくやってくる人類の敵は、少なくとも内陸が発生地点ではないと言われている。いや、むしろ十中八九『海』からやってきているとされている。それが海中なのか、海上なのか。はたまたどこかの大陸や島なのかは不明であるが。それを撃退するのが彼ら彼女らなのである。
もっとも猪原・空見ともに、その敵により家族を失った『戦災孤児』で、緊急整備された『戦災孤児対処法』によって国家に養われている。という数奇な経歴を除けばいたって普通の少年少女のはずだった。それがなぜその敵と戦っているかと言えば、国家がこの緊急下において衣食住を含めた生活・職を孤児に提供するひとつの条件であった。別にそれが唯一の選択肢ではなかったが、他の選択肢よりも遥かに条件が良く、加えてその敵に家族を殺された『恨み』を持つ孤児たちにとっては、その選択肢は天から降ってきた素晴らしいものでもあったのだ。
「あいつら何なんだろうな」
彼は昨日倒した敵を思い浮かべながら、敵たちがやってくる海を眺める。
「知らない。単純に生物の進化の過程か、はたまた地球外知的生命体か。ファンタジー世界からの使者か。意外と人類を滅亡させにきた、地球の浄化機能だったりして」
「地球が人類を殺しにきたってか。案外、嘘でもなさそうだな」
そう口にしながら手元に置いてあった新聞に視線を落とす。日本は自衛隊による武力行使と同時に、彼ら『新世代』と呼ばれる孤児部隊の人海戦術でモンスター退治を行っている。しかし他国では核兵器を用いたところもあるとのことだ。それを見れば確かに地球が人類を不要とした理由も分からなくもないところだ。
「ほんと……分からないことばかり。もっと生物学者は頑張ってほしいよ」
「早く真実が分かれば、こんな戦い終わるのにね」
最前線で戦う彼らにとってしてみれば、ただただ切実に戦いが終わるその日を望むのみである。




