第11話 人の敵は人
即席の連合班5人により3体を討伐。急襲を受けて対応していた別動隊2人も1体を討伐したとのことで、2班7人で計4体の討伐に成功する大勲功。意気揚々と先ほどの会場へと戻ってきたのだが……
「なに、これ……」
そこには政治家のボディガード数人が倒れていた。空見がその中の1人を起こしてみるも、地面には血だまり、そして彼女の手はまだ生暖かい血で汚れる。
「まだいる?」
「いえ。それは考え難いでしょう」
警戒する猪原に対し、先ほどの高い声での甘い言葉はどこへやら。平安が真面目な低めの声で答える。
「新生物は基本的に大柄で獰猛。付近の静けさから言って不自然ですし、大型生物が暴れた様子はない」
「ただの事故にしては、被害者に統一性がありすぎるな」
さらに籠谷が事故説を否定する。この場所には政治家およびその関係者以外に、一般市民がいたはずである。彼らに被害がでているわけではなく、死傷者はすべてボディガードのみ。特定の相手を狙っている。つまり人為的。
「まずい」
「ですね」
その可能性がよぎった瞬間、猪原および平安が駆けだす。このタイミングにおいて人為的に命を狙われる可能性のある相手といえば1人である。
それがどこにいるかは分からない。ただただ直感のみを信じ、強いて言うなれば先ほどまでの戦闘地域にはいない。その反対側だろうという予測をもって駆ける。
「どこだ。いったい」
あたりを見回しながら走っていると、かすかな銃声が聞こえる。それに気付いた猪原、平安、加えて後ろを追随していた空見らは一旦停止。今度は銃声のした方へと走り出す。音の大きさからしてそれほど近くではないと思われていたが、思いのほか現場は近かった。
森の中、木にもたれかかるように男――先ほどまで声高々に演説していた政治家・山門字が座り込んでいた。だが彼に既に生気はない。まるで先ほどのボディガードのよう。その前には拳銃を手にした男が1人。
「貴様、いったい何をした⁉」
猪原が一歩前に出て威圧すると、男は振り返りながら拳銃の引き金を引く。こちらも威嚇するような位置に向けて撃っているようだが、偶然にも平安への直撃コース。だが猪原が差し出した鉄の棒に銃弾は弾かれる。
「さすが新世代か。銃弾ほどの小さく速いものを弾くとは……それに後ろの子も大したものだ。仮に彼が弾かずとも避けていただろう」
猪原は男を警戒しながらも後ろの平安を確認。彼女は受け身を取ったようで、低い姿勢のまま男を凝視している。
「空見、殺るか?」
「どうする?」
日本刀コンビは腰の刀に手をかける。猪原も鉄棒を手に臨戦態勢。後ろをついてきた12班の他の班員2名も戦闘準備。武器を置いてきた平安と新谷の2人は、任せるとばかりにわずかに後ろに引く。
「もう一度聞く。いったい何をした?」
「何かしたのはこの男だろう?」
男は政治家を一瞥。
「何が言いたい?」
「やはり知らないか。この国の闇に」
男は拳銃を猪原らに向けて牽制しながら言葉を続ける。
「日本。第二次大戦の大きな傷。そして過ちを背負い、最低限の武力しか持たず、平和憲法と共に世界平和を願う国。武力による国際紛争の解決を望まず、ありとあらゆる問題を言葉により平和的に解決を行おうとする……素晴らしい国だ。だが、理想的すぎると思わんか?」
「政治の話は政治家にしてくれ」
「いやいや。君たちだからこそ分かるのではないかな? 100の言葉よりも1の武力が、時に効果を持つことを」
「……何が言いたい?」
無慈悲な力を振るう新生物に対して、実際に対抗する手段を持つのは新世代や自衛隊などの
『武力』である。その点では当事者としてよく分かることではあるのだが……
「つまり――」
猪原の問いに男が答えようとした直後である。
銃声が辺りに響いた。
だが男の手にした銃ではない。
「くっ……」
その男は銃を地面に落とし胸を押さえて倒れこんだ。