第10話 敵にアタック、味方にアタック
「せぇ~のっ」
大剣を肩に担いで待ち受けていた平安は、突っ込んできたヤモリにタイミングを合わせて剣を振り下ろす。機動力に欠ける彼女ゆえの待ちの一撃は、確実に相手の頭を捉えて大きなダメージを与える。しかし相手の中枢を切ったわけではないだけに、わずかにできた隙から立ち上がったヤモリが平安に襲い掛かる。攻撃したばかりの彼女にその攻撃を防ぐ手立てはない。だからこそ、
「よっと」
それを防ぐのが猪原の役目である。巷では孫悟空の『如意棒』と呼ばれているとか噂されている鉄の棒。それでもって敵の攻撃から平安を守る。そしてさらに隙を見てその棒で相手の目を突こうとするが、いかんせん距離が足らない。
「チッ。やっぱ難しいか」
相手の目を潰せば、視覚を奪えるし間違いなく怯む。中枢を潰さない限りはその圧倒的回復力で復活してしまうだろうが、それまでに十分に勝ちは拾えるのではなかろうか。だが相手だって無抵抗にやられてくれるわけではない。
「敵さん、簡単には命を狩らせてくれないって」
「だと思いますよ。私たちのだって、簡単にあげられるほど安い物ではありませんから」
防御特化の猪原、攻撃特化の平安。班が違うことからそうたびたび連携作戦をすることもなかった。むしろこれだけ密にタッグを組んだのは今日が初めてだ。しかし意外にも2人の呼吸が合う。
「それもそうだ。だけどその高い物をここは自分に預けてほしいものだね」
「えぇ。私は思いっきり攻めるので、お預けします」
その一言を置き土産に平安が一気に敵へと突っ込む。その突出した動きに敵のヤモリは待ち構えようとしたが、もう1人の存在を忘れている。タイミングよく戦場に銃声がこだまする。宙を走る一閃がヤモリの頭に刺さり鮮血が飛び散ると、敵はその音がした方向を見てしまう。その瞬間に平安が構えた大剣をまた振り下ろす。意識を逸らされた敵はその一撃を回避できず見事に直撃。バランスを崩して倒れこむ。
「よくやった。新谷。いまだ、飛び乗れっ」
猪原は敵に飛び乗りつつ、先ほど狙い損ねた目を潰しにかかる。
さらに平安も乗り込み大剣で攻撃を加える。基本的に中枢を潰す方法は切ることである。平安の大剣はどちらかというと猪原と同じく打撃を与える武器だが、一方で剣らしく切ることもできる。細かいコントロールは効かないが……
猪原は着実に敵の急所を狙って棒を突き刺し、平安も何度も何度も大剣での切断を行う。ヤモリの血が飛び交い、完全に生臭い返り血にまみれる2人であるが、揃って高揚しているのか一切気にしない。
と、その時だった。
平安の手に確実な手ごたえ。コントロールを気にせず手当たり次第与えた攻撃のひとつが、偶然に『そこ』を抜いた。跳ね上がるように頭を上げた猪原は地面に振り落とされたが、その頭は大きな声と共に力なく倒れこんだ。
「……終わったか」
安堵のため息を漏らす猪原。しかしすぐに思い出したように振り返る。
「あっ、籠谷と空見は?」
「お待たせぇぇぇ……あれ? 終わってる?」
空見、現着。こちらは片付いた様子。そして、
「あぁぁぁぁ~」
低空を飛んでいた籠谷。鳥と共に近くに不時着。こちらもまた片付いたようである。
「はぁ。私たちは中枢を切るだけだったのに、新たに来たはずのそっちが早かったかぁ」
なんとか2頭を倒し終えた日本刀コンビだが、空見は少し落ち込み気味。ゼロから倒したはずの他メンバーの討伐の方が早かったのである。
「ま、こっちは三人ぐるみだったからな」
猪原は謙虚に数の差だと言っておく。確かに籠谷・空見は1対1で戦っていた一方で、こちらは3対1での攻撃であった。その点の差は確かにあったのだが……
「どうでしょうか。私と猪原さんの相性の差かもしれません……空見さん。猪原さんを貰えませんか? あれだけ守ってもらえると戦いやすいです」
「なんとっ⁉」
空見は驚きである。新谷ほどではないが奥ゆかしい平安から、猪原を寄越せとの要求である。
「いやいや。ウチの組、枠ねぇし」
そこにやってきた籠谷は鳥の羽まみれ。
籠谷のいう枠とは、4人1組で構成されるのが戦闘グループの基本形であるだけに、既に4人いるウチには猪原を入れる余裕はないという意味である。もっともその猪原自身も、
「ありがたい申し出だけど、自分もこっちの組に愛着あるからね。ここはお断りしとくよ」
「……残念です」
平安、しょんぼり気味である。




