私の知識が役に立つ?そして、大事な人との別れ。
森の魔女との共同生活にも馴れてきた結奈は、少しずつ村の人達の健康に携わるようになってきた。
魔女の森から北へ入った所に、アミーラ村がある小さな村には医者はいない。
昔からマジョリッタの世話に成っている。だから結奈にも、村の人達は親切に接してくれている。
結奈は今日も、篭に一杯のジャムと薬草をいれて村に来ていた。
「こんにちは!マーシラ。おじいさんの腰の具合は?痛みは取れたかなあ?」
「結奈。待っていたよ。おじいさんの腰良くなったようで、もう畑仕事をしに行っているの。」
「良かった。でもね、痛みが取れたと言っても、またぶり返す事もあるから無理しないように、助けて上げてね。カシスジャムを作ってきたからパンに塗って食べてね。」
「結奈、ありがとう!結奈のこのジャム最高に美味しいよ!」
「これは、おじいさんに夜寝るときにお湯で薄めて飲ませてあげてね。体が温まるから寝付きも良くなるし。体が楽になるからね。」
「うん!この頃おじいさん、体が軽く成ったようだって、喜んでいたよ」
「これは、マーシラに、手が荒れているでしょう。水仕事大変だよね。クリーム。食べ物じゃないから口にいれては駄目よ。寝る時に手に付けて寝ると少しは手のひび割れも痛まないから、試してみてね。」
「結奈、どうもありがとう。私で出来る事があれば結奈いってね。」
「うん。マーシラ。ありがとう。じゃあ!またね、何かあったら知らせてね。」
結奈はマーシラの家を出て川の辺にきた。ジョンに声を掛ける。
「ジョン!風車の具合はどう?巧く麦を曳くことができている?」
「今日は!結奈こいつは最高さ。俺たちにとってこんな道具を作ってくれてありがとう。村長も喜んでいたさ。」
「私が作った訳ではないわ。村の皆の力よ。私は少しアイデアを出しただけよ。少しは村の助けになれば私も嬉しいわ。」
そうなのだ。私はマジョリッタに相談した、何か私の出来る事はないかとそうしたら彼女は、お前の元の知識をこの村の為に使い、それが皆の為になるのだと。
私は恐れていた、余り私の世界の知識を使う事で、この世界に影響を起こしてしまうことを。彼女は知識とは使う者が悪い心なら悪事。良い心を持ってすればこの国とっては、幸せな事なのだと。お前の能力は我と共にある、そして我の能力も結奈お前の中にある。
覚えておくのだ。お前には予知する能力があるのは、なにも悪事ばかりではない。
回避する為に、神はお前をこの世界に使わしたのだ。
良いと思ったら迷わず進め、今迄のお前は後悔ばかりしてきた。
自分は出来なかった無力だと。遣ろうとしなかっただけだ。
今、お前は変わりつつある、やれば出来る存在だと、自分自身に言い聞かせるのだ。
お前が変われば、この世も良い方向に変化するだろう。
結奈は、マジョリッタに言われても最初は半信半疑だった。
でも少しずつ変わってきた。自分が遣ることで、周りも手助けしてくれる。
結奈は、小さな感謝の気持ちも、自分の力となり喜びに繋がる事が、楽しくて仕方がない。
村に、一つしかない川を幾つもの水路を作り、農作業を、効率よく作物が収穫出来るようにして、労働時間を短縮させその分、山羊。羊。鶏などの家畜の世話も出来るようにした。
村の収入も、少しずつだが増えてきた。若者も、村の外へ出稼ぎしないでも村で食べていけたら、それこそ人口も増えて発展するだろう。
結奈の知識は確実に村に浸透し始めた。
周りの村でも話題になり、是非とも我が村にもと争いが始まりそうだ。
私は、代表の村長達に相談した。村の中で統率力があり、信望の厚い者を数名ずつ選抜して貰い、塾を開いた。
自分の村の地形を地図にすること。其れによって、水路を何処に作ればいいのか。
その村の特産を作ること。同じ事をしても良い結果は得られない。
村同士の、足の引っ張り合いになる。違う特産があれば、それぞれの代表が売りに行くことで、人件費とそれに架かる費用が、少なければそれだけ利益も増える。
私の話に、最初は怪訝そうに聞いていた人が、徐々に眼を輝かせて話を聞いている。
終りには、質問まで飛び出す始末だ。
何処の国の人でも、明るい未来を描けば、困難な事も乗り越えられるのだ。
私もその中の一人だ。
グリーンマイン国の、北にあるこの森も冬の訪れが迫っている。
木々は葉を落とし雪に備えている。
動物達もそれぞれ冬ごもりに備えて、木の実を巣の中へ運んでいる。
私も、冬支度の為に薬草の管理と、ジャム作りに忙しく働いていた。
私は、村の人達に薬を届けに来ていた。雪道を、村まで行くのは重労働なので、最近は、私が来ている。私は、この世界の冬を、まだ経験してないので解らないが。男性でも森の中の雪道は、難儀なので滅多に森には、行かないのだと。
村の人も皆心配して、冬の間だけでも、村で暮らしたらどうかと心配してくれるのだが、私は、そんな村の人達の、親切な言葉を嬉しく思うのだが、マジョリッタを、一人で置いて自分だけ村に行く気がしないのだ。
何故か、マジョリッタが、自分の居ない時に、何処かに消えてしまうような、感覚になるのだ。
そんな、ある日、珍しいお客が、マジョリッタの所へ訪れていた。
「ただいま!マジョリッタ!村の人も喜んでいましたよ。宜しく伝えて下さいと・・・・・ロナルドさん!どうしたのですか?」
「結奈!元気そうで何よりだ。逢いたかったよ!生き生きとして益々綺麗になったね。」
「ロナルドさんは、変わりませんね。相変わらずお世辞が上手ですね」
「結奈!その言葉は酷いよ。僕は好きな人には本当の事しか言わないよ」
「まあ。二人とも此処へ来て、お茶でも飲みな。結奈!ロナルド坊やにクッキーでも出しておやり。」
「そうですね!お子様ですからね!」
「二人とも酷い言い方ですね。結婚適齢期の男を前にして、それはないですよ。」
「まあ。此処まで無駄話をしにきたのでは無いだろう?」
「はい。結奈さんを迎えにきました。半年後との約束。」
「ロナルド!何勝手なこと言っているのよ!私は何処へも行かないわよ。」
「結奈!いいかい。私はお前を半年預かると約束した。
そして結奈お前は我が思っていた以上に良く働いてくれた。
我の生あるうちに結奈に出会えて良かった。我にはもう教える事は無い。
これからは結奈が良いと思った事をするのだ。それは天に通じる道だから。
我はもう行かなければならない。
結奈これは別れではない、我は、そなたの中で生きておる。
そなたの悲しみは我の物、喜びもしかり。我は幸せ者よ。出会ったのが結奈だからだ。
ロナルドと一緒に行くのだ。もし疲れたら此処に戻るのもいいだろう。
この場所は、いつでも結奈を迎えてくれる。この場所は結奈の故郷なのだからな。」
「私、此処にいたい!マジョリッタの側に居させて!お願いです師匠!」
結奈の眼から、涙が溢れ出した。滲む眼の前から、マジョリッタの姿が煙のように薄く消えていった。酷いよ。こんな風に私の前から居なくなるなんて、この世界で初めての安らいだ生活だった。
(ううん。違う私が今までの人生で初めて人に認められ、喜びを感じられた時間。
マジョリッタから貰ったもの。そうだ私が泣けば私の中の彼女も泣いているはず。笑って居なくては駄目よね。師匠、今までありがとう!)
その夜はロナルドと二人で、マジョリッタの思い出を語り合った。
私が、涙を流してめそめそしていたらきっと師匠は嫌がるはず、これから自分がすべき事をしなくては、師匠に笑われる。
明菜は、薬草の用意をして、今ある在庫で、どれだけの薬が出来るか解らないが、村の人が困らないように、出来るだけ作ろうと思って動き出した。ロナルドも、起き出して結奈を手伝い。此処を離れる準備をする。二日目に在庫室は空になった。
これを、村長の所に預かって貰いお願いしておこう。
雪が随分積もった三日目の朝。ロナルドと二人で住み慣れた家から外に踏み出した。
村に寄ると、村の人達がそれぞれの家から出てきてくれた。
「結奈様!この村は貴女の故郷です。我が家が在ると思って、いつでも帰って来て下さい。私たちは結奈様のお帰りを待っていますから!」
「みなさん!余所者の私を、暖かく迎えてくれて本当に感謝しています。私は此処でみなさんに出会えて良かった。ありがとう!また必ず帰ってきます。それまではみなさんもどうぞお元気で!・・・・・」
後は何も言えなくなった・・・・涙があふれて言葉に成らないからだ。
そんな彼女を村の一人一人が結奈を抱きしめていた。
僕は思った、わずか半年暮らした村の人達に、これほどまで慕われている彼女を、僕は尊敬していた。僕は、結奈を馬ソリに乗せて、取り敢えず屋敷に戻る事にした。