アフターストーリー6 再建
ぼくは異世界で付与魔法と召喚魔法を天秤にかける、コミック版、4巻が発売です。
2日目の午後からの物語、是非、お手にとってみてください。
詳細は活動報告か、こちらに。
http://blog.livedoor.jp/heylyalai/
異世界に漂流してから九日目。
ぼくはアリスとたまきと共に、三人で世界樹の魔法陣から転移して、復興を始めたばかりの町に来ていた。
戦うためではなく、各々の能力を振るうためである。
町、といっても現在は廃墟に近い……というか廃墟そのものだ。
そんな中、アリスは怪我人の治療に、たまきは瓦礫を退けたり崩れかけた家を壊したりする力仕事に、そしてぼくは生活必需品の召喚に。
魔物がいなくなった後の町の復興は前途多難である。
しかしこうしてひとつひとつ、地道に人類の拠点を増やしていかなければ、遠からず世界樹も立ち行かなくなってしまう。
かつて二千人ほどが住んでいたこの町に、ひとまずは五百人を移民させる。
その為には百から二百世帯分の住居が必要で、彼らが暮らすための衣服やベッド、食料なども供給する必要がある。
最終的にはその大半を自給自足してもらうにしても、当座の物資はこちらが供出する必要がある、というわけであった。
ぼくたちとしては、計画に異存がない。
アリスもたまきも、本当は優しい子たちだ。
戦う以外に己の能力を振るえるなら、と積極的に活動を承諾、朝から頑張ってくれていた。
「カズさん! こういうの、とっても楽しいね!」
己の身体より太い丸太を持ち上げ、地平線の彼方にぶん投げながら、たまきが笑う。
この木材は半分焼け焦げて強度的にも使いものにならないと判断されたものだから、まあいいんだけど……。
周囲の人たちがドン引きしているぞ……。
いまのたまきは巨人と力比べしても楽に勝てるような剛力だ。
共に戦ってきたぼくたちとしては、そんな彼女の怪力にちっとも違和感がないんだけど。
「はい、みなさん、こちらの光っているところに集まってくださいね」
アリスは怪我した人を集めて、持続型回復魔法であるヒーリング・サークルを展開した。
これは光る輪の中にいる者たちの傷を癒す魔法である。
続いて、手足が取れてしまった者にキュア・ディフィジットを、欠損部位を失っている者たちにはリヴァイヴを、ひとりずつかけていく。
長い戦いで身体の一部を失った者は多い。
というか、まだ戦える者なら剣を手に戦って、討ち死にするから……。
結果的に、手足を失って戦えなくなった者ばかりが残ってしまうというわけだ。
だからこそ、そういった者たちを治療して、こういった都市の防衛にまわす。
この計画の上層部と簡単に打ち合わせした結果、そういうこととなった。
手足がくっついたり、生えてきたりして健康な状態に戻った者たちが、喜びに涙を流して、アリスを敬うような目で見ている。
聖女、と呼ぶ声も聞こえてくる。
アリスは照れ臭そうに笑いながら、治療を続けていた。
逞しい衛兵がアリスのそばで、不埒者がいないか監視しているから、民の方からアリスに触れようとはしない。
うん、これならふたりの方は大丈夫だろう。
で、ぼくはといえば。
必要なぶんの生活物資を召喚し終えた後、今度は町のはずれでサモン・フォートレスを何度も使うのだった。
町の壁はあちこち破壊されていて、もはやイチからつくり直した方が早いレベルであった。
工事の責任者で、後々はこの町の長となる初老の男との協議の末、もともとの壁の外側にもうひとつ壁を立て直す、ということになったのである。
サモン・フォートレスは砦のパーツを少しずつ召喚する魔法だ。
特定のパーツだけを何度も召喚することが可能である。
これを応用して、砦を囲む頑丈な石壁だけを生み出していく。
本来ならば石と石を組み合わせ、隙間を土で埋めたりコンクリートで補強したりでたいへんに手間がかかるはずの壁が、瞬時に次々と生み出されていくのだ。
壁の高さは六メートルで、大型の魔物を相手にするには心もとないが、獣の侵入を防ぐにはこれで充分、といったところである。
サモン・フォートレスはランク9の魔法だが、いまのぼくのレベルならMPの枯渇を心配する必要はない。
むしろ、壁と壁を等間隔に召喚し、場合によってはランク6のアイアン・ゴーレムなどを使って壁の位置を調整する作業の方が疲れるくらいである。
あと、でこぼこで雑草だらけの地面をならす作業も必要で……。
これにはランク8のグレーター・アース・エレメンタルを使う。
全身が岩でできた武骨な巨人は、地面の土を魔法で自在に操って、丁寧に整地してくれた。
「何とも、たいしたものですな」
工事を見守っていた男たちが、感嘆の声をあげる。
自分でやっていて何だけど、ぼくも召喚魔法だけでここまでのことができるとは思っていなかった。
もちろん個々の魔法が便利なのは知っていたけど……。
どう組み合わせれば町づくりに役立てるか、は志木さんと結城先輩が考えてくれたんだよね。
ちなみに結城先輩は、「こういうクラフト系は得意中の得意ですぞ」とノリノリで設計図を引いてくれた。
あの忍者、本当に独特のノリがアレなだけで、ヒトとしての有能さが半端ないんだよなあ。
何か知らないけど「異世界で技術チート! ロマンが溢れる!」とかも叫んでいた。
前向きなのは、たぶんいいことなのだろう。
一度は元の世界に戻ったうえで、再度、こちらに来たぼくたちと違って、結城先輩たちには徹頭徹尾、選択の余地がなかったのだから。
そのうえで、今は戦いのちからだけではなく、文明を復興する作業に必要な能力が求められている。
ぼくの召喚魔法は、特にそのための応用力が高いことが判明していた。
これからも引っ張りだこだろう、とは言われている。
とはいえ、何から何までぼくがやっていたら、とうていこの身が足りないので……。
「最終的には、ぼくしかできないことに専念することになるのかな」
ぼくにしかできないこと、というのは、この場合……。
うん、サモン・フォートレスだろうか。
つくり出した壁の移動は、まあ大人数で頑張ればできないことはないだろうし、整地なんかもそうである。
まだあたりをうろつくはぐれた魔物との戦いも、何なら現地の人たちが相応の犠牲を払えば、何とかなる。
だが、質のいい頑丈な壁、というのは、つくり出すのに非常に時間がかかる。
それを瞬時に生み出せる価値、というものは、当初ぼくたちが想像していたよりはるかにおおきなものがあるのだという。
現代文明に慣れきった身では、そのあたりの感覚がよくわからなかったけど……。
壁に囲まれた中でなければ安心して眠ることができない、という現地の民の言葉を聞けば、なるほどと思ったものである。
魔物でなくとも、狼や猪、熊なんかが侵入してきたら、それだけで脅威だからなあ。
もちろん、現地の民の間でも、そういった動物除けのまじない、みたいなものは伝わっていて……。
でもそれは非常に使いにくくて、ぼくたちがレベルをあげて覚える魔法は、それらとは一線を画す使い勝手であるらしいからね。
だから、ぼくやアリスに限らず、魔法を使える生徒たちは、あっちこっちで求められている。
ただ、召喚魔法をランク9まで上げているのは現状ぼくだけ、なんだよね。
魔王軍と激しくやりあっていた頃は、ぼく以外が召喚魔法を高レベルにする意味がなかったからなあ。
実際のところ、召喚魔法のランク1だけなら、パーティにひとりは欲しい、くらいに需要があるのだ。
特にカラスの偵察とサモン・ウォーターによる水分補給、非常時にはサモン・ブレッドによるパンの召喚と、作戦を継続させる能力が非常に高い。
でもそれ以上に上げるのは躊躇われるというか。
パーティで行動するならランク2とかランク3はあまり需要がなくて……。
限られたスキルポイントを消費するなら、いっそ他にポイントを振ってしまった方がいい、と皆が考えたのも、納得できることなのであった。
ランク6以上になると、騎乗できる使い魔であるグリフォンを呼べたり、召喚サークルを使えるようになったり、一気に便利度が上がるんだけど。
でも結局のところ、そこまでの使い手は、集団にひとりいればいい。
つまり、それがこのぼくであるのだった。
※
お昼ごろになって、あらかた自分の仕事は終わったたまきが、ぼくの方の応援に来た。
「カズさん、何でもいってね! わたし、ちから持ちなんだから!」
「じゃあ、そこの壁をあっちに持っていってくれ。その隣のやつは強度の補強用だから、すぐ隣にくっつけて」
「わかったわ!」
高さ六メートル、横幅も同じくらいの壁を、えいっ、のかけ声ひとつで持ち上げる少女。
周囲で見ていた男たちが、感嘆の声をあげている。
はっはっは、うちのたまきはすごいだろー。
いやガチで、彼女はアイアン・ゴーレムよりパワーがあるんだわ。
限界まで極まった……いや限界すら越えた肉体スキルは、伊達ではない。
なまじ華奢な身体つきはそのままだから、違和感がすごいのはわかるんだけども。
「カズさんカズさん、たいへんだよ!」
でかい壁を持ち上げたまま、よちよちと数歩歩いて、たまきが叫ぶ。
「前が! 見えない!」
「そればっかりは、どうしようもないな……」
「あ、では自分が案内いたしましょう」
町の代表になる男が、自ら誘導を買って出てくれた。
彼の案内で、たまきはぼくがつくり出した壁を横に並べていく。
その後ろから、アース・エレメンタルが土をいじる魔法を使って適宜、壁と壁の間にある隙間を埋める。
もっとしっかりした壁にするなら、外側に穴を掘ってそこに水を流して水堀をつくったりもするべきなんだろう。
でも、それはさすがに手間がかかりすぎる、ということで断念する。
予定では、今日中に町の外周をサモン・フォートレスの壁で囲ってしまうことになっているのだから。
いやこの計画自体がだいぶ無茶だとは思うのだけれど。
大陸中、あちこち同時に再植民する以上、ひとつひとつの町に手間をかけてはいられないのである。
魔物さえ出なくなれば、人類の生存圏はこの程度の壁で確保できる。
で、魔物の根絶は同時進行で別の部隊が進めることになっていて……。
そっちはそっちで、遠征に索敵、追跡と地道で危険な作業なのであった。
生徒ならば偵察スキルの持ち主か、あるいは現地民の中でも熟練の偵察兵がいなければ上手くいかないのだという。
現状、生徒の偵察スキル持ちで一番ランクが高いのは志木さんなんだよなあ。
彼女は常に世界樹で指揮をとっているから、出撃は現実的じゃない。
そのかわりに、忍者夫妻を始めとした高等部の人たちがあちこちで汗を流しているという話である。
「カズさーん! わたし、とっても楽しいよ!」
またひとつ壁を設置したたまきが、駆け寄ってくる。
「戦わなくても、みんなが褒めてくれる。これからは、ずっとこういうお仕事をしたいね」
「そうなるのが、理想なんだけどな……」
「うん、まだまだ時間がかかるよね。それはわかるよ。でも、そうなったらいいね」
たまきは、えへらと笑う。
ぼくは知っている。
彼女は、別に戦いが好きなわけじゃないのだと。
ただ、戦うことでしか生き残れなかった。
次々と襲ってくるオークを倒しているうちに、仲間たちの中でも圧倒的なちからを手に入れていた。
そのちからでもって、仲間たちを守るために、いっそう戦いに身を投じるしかなかった。
それが、最初の六日間だ。
今はまだ、その延長線上だけど。
これから先、いつかきっと、そうじゃない日が来るはずだと……そう信じるからこそ、今、ぼくたちはこうして頑張れている。
「よーし、それじゃどんどん運んじゃうよーっ」
と腕まくりするたまきだったが……。
耳障りな笛の音が鳴り響き、工事をしていた男たちが慌てて仕事を止め、町の中心部に駆けだした。
魔物の出現を知らせる警報である。
「カズさん! 南側です! ヘルハウンドを中心とした魔物の群れです!」
アリスが槍を手に駆けてくる。
ぼくはアリスとたまきのふたりにウィングを使った。
彼女たちの背に白い翼が現れ、ふたりはそれを羽ばたかせて宙に舞い上がる。
ぼく自身は、ランク6のサモン・グリフォンを使用して巨大な鷲を召喚、これにまたがって彼女たちを追う。
上空からだと、黒い犬が口から火を吐きながら町に迫ってくる様子がよく見えた。
配下は、狼の魔物とおぼしき奴らが五体。
たぶん、そう強くはないから、アリスかたまきのどちらか片方だけでも楽勝だろう。
はたして、ふたりの少女は。
翼を畳んで急降下、空から一直線に敵を襲撃する。
アリスの槍の刺突がヘルハウンドの胴体を貫き、たまきは斧のひと振りで二体の狼の首を刎ねた。
残った魔物は身を転じて逃げだそうとするが――。
「逃げるなあっ」
「逃がしませんっ」
アリスとたまきが、それぞれ翼をはためかせて追いかけ、あっという間に全滅させてみせる。
ぼくが手出しする暇もない、鮮やかな手際であった。
町の人たちが、おそるおそるやってくる。
消え去っていく魔物の姿を見て歓声を上げる。
この人たちは、決戦のときも世界樹の守りについていた――というか戦いに投入されなかったくらいのちからしかない人たちだから、こうして魔物を始末するぼくたちの姿を見たのは初めてなのだろう。
その目には驚きと、そして畏怖の様子があった。
「念のため、周囲を捜索させるよ」
だけど、彼らがぼくたちを恐れようと、それは関係がない。
むしろトラブルが起こらなくていい、くらいに考えるべきだと、志木さんにはいわれている。
まあね、アリスもたまきも、実際に戦う様子を見ていなければ、可愛い女の子でしかないからね。
ぼくはサモン・レイヴンで二十体ほどのカラスを呼び出し、まわりに他の魔物がいないか、偵察させた。
正直、ここを攻めてくるような魔物がまだいたことの方が驚きなのだけれど……。
念には念を入れたほうがいいだろう。
「それじゃ、ぼくたちは作業に戻ろう」
アリスとたまきに声をかけ、町に戻る。
心なしか、町の人々はぼくたちを遠巻きにして、直接声をかけてくることもなくなった気がするけど……。
それは仕方がないことだと、諦めることにする。
町の復興が続いた。




