第3話(サイドB)
陛下視点です。
今夜マレリーニャ嬢とナファフィステアを会わせた。妃候補として宰相が押している人物である。
マレリーニャ嬢のことは数か月前に訪れた先で供された女としか覚えていない。訪れた先ではいつものことであり、一々覚えてはいない。それが、王女だったのは予想外のことだった。
ホルザーロス卿はこの機会を待っていたのだろう。妃達がいなくなり王宮が落ち着いたこの時期を。
ナファフィステアを王妃にした後であれば他の妃を入れてもよいと側近達には伝えてある。
宰相はナファフィステアが何の後ろ盾も持たないため王妃にしたくはない。王女のマレリーニャ嬢なら妃に、ゆくゆくは王妃になるのにふさわしいと思っているのだ。
他の側近達はナファフィステアが王妃になることに反対していない。
庶民へ流したナファフィステアの話が王都を中心にかなり広まっている。彼女の庶民への人気と知名度は高いと言えるだろう。
最初は細切れの噂話だったが、その逸話を元にした本が出版されてからは、驚異的に広がっているのだ。
遠く故国を離れてやってきた小さな姫君が、王妃の座をめぐる争いに巻き込まれ他の妃を毒殺しようとしていたとあらぬ疑いをかけられた。後ろ盾を持たない異国の姫君が心細く過ごしているところを王が支え、ロマンスが芽生えた、という話である。
名前を変えてはあるが、王とただ一人残った妃という王宮の現状そのままのハッピーエンドであれば、王と妃の実話なのだと錯覚してもおかしくはない。
王都のあちこちで目撃談がまことしやかに囁かれている。本と同様に、変装した王と黒の姫君が庶民の恋人達のように街を仲睦まじく歩いていた、とか。小さな黒の姫君は、鬘こそかぶっているが眉や睫毛や瞳が黒いので遠目でもすぐにわかる、とか。姫君はお菓子の詰まった袋を嬉しそうに抱えていた、など。
ナファフィステアが王都の街を歩いたのは二度。菓子店をさまよった時間は長く、目撃者が多かったのだろう。だが、目撃情報のほとんどは作り話のようだった。
ここまで人気が急上昇すると思っていなかった側近達は、様子をみている段階だ。
急に上がった人気は、噂一つで急落する可能性がある。だが、このまま庶民への人気が安定すれば側近達のほとんどはナファフィステアを王妃に据えることに反対はしないだろう。
強い後ろ盾が必要な状況ではない。むしろ突出した存在は邪魔になりかねない。前妃達の騒動でわかりきっていることだった。
唐突に現れたカルダン・ガウ国の王女。宰相はこれを歓迎しているが、他は不審に思っている者の方が多い。
この王女には問題があった。
隣国カルダン・ガウの王女は、二年ほど前に王宮を訪れている。その時、両国間で王女は我が国の妃候補として王宮へ滞在するという話し合いがついていた。だが、当時の王女は体調を崩したため帰国して養生したいと強硬に主張したのである。
その代わりにと差し出したのが、ナファフィステアである。遠方の国の姫君として。
当時のカルダン・ガウ国といざこざを起こすには我が国も時期が悪く、貿易交渉にて優位に出ることで引き下がった。それはそれで有益な取引になったのだが、王女の輿入れを調整した側近と外交官は体面を潰されかなりの不満を抱いていた。
そんな経緯のある王女なだけに、何を今更と苦々しく思っている者が少なからずいる。そして、後見しているのがホルザーロス卿であるという事も側近達が眉を顰める元となっていた。
ホルザーロスといえば数代前の王族が建てた貴族家であり、羽振りがよい。そして、彼は少女好きとして知られていた。
使者と共に王宮を訪れたとき、王女は十四歳。彼女が体調を崩し国へ帰る途中で事故にあい、たまたま通りかかったホルザーロス卿と知り合い領地で傷を癒していたという。二年もの間帰国することなく。
ホルザーロス卿が利用するために王女を事故に合わせたのか、王女が卿に溺れたのかなど様々な憶測を呼ぶのも無理はない。
宰相はあくまで隣国の王女という肩書きを高く評価しており、他の点は握り潰せると思っている。どの国の王族も血族を残すのに苦労している為、王女を他国へ嫁すのは極まれだ。宰相はこの機会を逃したくないのだろう。
一方、側近達はそう軽くは受け止めてはいない。一度は王の元へくることを拒んでおきながら今になって王妃を望む王女に対し、よい印象など抱きようがない。いまだ内情が落ち着かないカルダン・ガウ国との結びつきには旨みが少ないという点も大きい。王が妃にと望んでいるならまだしも、積極的に宰相の案に乗る要素がないのだ。
そういう状況で、宰相の彼女をぜひ妃に加えようという話は、他の側近から賛同を得られず、まずは隣国の意向を確認してからとなった。
そして、マレリーニャ嬢はしばらく下宮へ滞在するよう手配されたのだった。
次も陛下視点続です。




