第13話(手土産の真相)
「駆け落ちした二人が埋められたことを使者達は知っていたのかしら」
「館の使用人が伝えたようです。男が背中に大きな太刀傷を負い、もう一人の女性は首をナイフで刺して男性の隣で息絶えていたと」
「それはまた詳しいわね」
「その場にあったナイフを持ち帰ろうとした住民が、使者に奪われたと言っています。それを見て信用したのかもしれませんね。明らかに隣国の意匠だったようですから」
死んだことにしたいのは、駆け落ちした二人。でも、使者が納得したのなら、男は背中に致命傷になりそうな太刀傷を負っていたはず。そんな工作ができるほど動けるものだろうか。女性が怪力で、男を背負って逃げて、工作したとか? ここの世界の女性なら、あり得る。女性も逞しすぎるから。
「駆け落ちした二人は生きてるんでしょうね。ということは、王女が生きてるってことだけど。それが、今陛下のところにいる女性とは考えにくい。どう思う?」
私は誰にともなく尋ねてみた。
「使者達とともに王宮を訪れた女性がホルザーロス卿に後見されている女性であるのは間違いないでしょう。ですが、駆け落ちして逃げた王女と同じとは、確かに思えないですね」
「じゃあ、本物の王女は今なお逃げていて、王宮にいる女性は別の王女ってことに……なるのよね」
「二年前の使者団の中に王女はマレリーニャ王女お一人だけです。他のカルダン・ガウ国の王女が我が国にいるとは考えられません」
さすが事務官ユーロウス、二年も前のことをよくすらすらと思いだせるものだ。実はとても優秀なのかも。
今王女と名乗っているマレリーニャ嬢が偽王女だと仮定する。王女は逃げていると。
こういう考え方は捜査方法として偏りがあるから駄目だってテレビで言ってたような……。無理な事は考えないで次へ行こう。
「二年前、誰かが王女の身代わりを務めたかもしれない? なんて、他国の王様を騙すようなこと、よほどのことがないとやらないわよね」
自分で言っておきながら、それはあり得ないだろうと否定したが、ユーロウスは否定しなかった。
「理由はあります。カルダン・ガウ国の王女は、当初、王宮へ妃として残られるご予定でした。その使者の中に王女がいらっしゃらないなどとなれば、我が国を侮辱することになり使者の意味がありません。王女は結局、体調が悪く国で養生したいとの強い要望で王宮には残られず、代わりにと異国の姫君のナファフィステア妃を……」
ユーロウスは次第に語尾を濁したが。
そんな経緯だったの?
勝手に拾ったものを、王女の代わりに差し出した?
つまらないものですが、という手土産かと思いきや、王女の代わりにとは中々価値が高い物件だったのね、私。だから、どこぞの姫君という肩書がついてるんだ。
いや、そんなことではなく。
カルダン・ガウ、やっぱり気に入らない国。差引はマイナス!
「陛下の前にどうしても王女を出す必要があったけど、さすがに偽物を王宮に送り込むのは危険が過ぎる、ということかしら」
「陛下の前へ偽王女を出すなど許される行為ではありません」
「でも、今回のことがなければそれで問題なく納まっていたのよね。マレリーニャ嬢はどうして王女だと名乗ったのかしら? ホルザーロス家の後見なら、妃や王妃になれたでしょうに」
でも、私が変な事を言いださなければ、ばれなかった。使者の中に彼女がいたなら、私のことも知っていたはず。あの完璧無視した態度はそういうことだった? 私の反応を見ていたとか。確かに、彼女の顔には見覚えなかったけど。
頭を捻って真剣に考えている私を、ユーロウスもカウンゼルも妙な顔で見ていた。
何よ? 何が言いたいのよ?
二人ともわかりあう何かがあるらしいけど、私にはわからない。
その呆れた顔は何なのよ。
私の疑問をはりつけた顔に、しかたがないと言いたげな様子でユーロウスが口を開いた。
「カルダン・ガウ国王女だと言わなければ、王妃候補にも、おそらく妃にすらなれません」
ユーロウスはきつい口調で断言した。
どうして?と思うけれど、カウンゼルもユーロウスの意見に同意しているらしい。わからないのは私だけらしい。
でもわからないものはわからない。
「どうして?」
「陛下は、ナファフィステア妃が王妃になられた後ならば妃を入れてもよいとお考えです。余程の事がない限り妃にはなれないでしょう」
……。
それは、それは。
いつ、そんなことに?
ぱかっと口を開けたままの私は、間抜けだったろうけど。
思考停止の間、沈黙が流れる。
しばらくの後。
「それは、知らなかったわ」
何とか口を動かし私がそう呟くと、そうでしょうね、といった視線がユーロウスとカウンゼルだけでなく、四方八方から寄せられた。
なぜだろう。私以外の全ての人には周知の事実のようで驚きが全くない。驚きよりも、視線が冷たい。
私は今リストラ宣告されているのよ? そんなことわかるわけないじゃない? 陛下なんにも言わないし!
という不満もあったけど。口をつぐんでおくことにした。少し、内容が情けない気がしたから。
私は明後日の方へ視線を流しながら、別の話題を提供することにした。
「カルダン・ガウ国の使者に聞けばわかるんでしょうけど、今更無理よね?」
「そんな事を漏らしはしないでしょう」
「マレリーニャ嬢が偽物である可能性が高そうだけど、それを証明できるものがないわねぇ」
「陛下に詳しく報告いたします。陛下であれば必ずや真相を突き止めてくださるでしょう」
ユーロウスは部屋の隅に控えていた事務官へと指示を出し始めた。
陛下へ報告といっても、何日かかることやら。当然、陛下の指示は待っていられないわけで。
人の上に立った経験ないから、人を使うのは無理だって。そう思うけど、待っているのよね、カウンゼル以下の騎士達が。
騎士達って、そんな役割だったかしら。陛下の指示に従って私を警護するだけだと思うんだけど。
唸ってみてもはじまらない。
「実は住民の誰かが二人を匿っていたんじゃないかと思わない?」
私はそうカウンゼルに話しかけた。
住民達が知っている情報は詳細なのに、肝心な誰がという個所だけがすっぽりと抜け落ちている気がする。
こんな小さな町の地元住民なら、ぱっと見た後ろ姿で、誰というのがわかりはしない? 誰かが噂をはじめたのなら、誰から聞いたという話をたどっていけば、わかるものじゃない?
ここの住民は知っているんじゃないの?
そう思ったのだ。
「もう一度、住民達に彼等のことを詳しく聞いてみることにします。彼等を殺そうとした隣国の者はもういないのですから、ここで隠れ住むより王の庇護を受ける方が得策だと説得できるかもしれません」
そう言ってカウンゼルは部屋を出て行った。
私は騎士ボルグ達と再び掘り起こしている現場へ向かうことにした。今度は、馬車で。




