第12話(おまじない)
その夜、騎士カウンゼルが周辺の町で聞き込んだ内容の説明を受けた。
この町の前までは、使者一行の中に王女とみられる身分の高い女性の存在が確認された。十四~五歳の小柄な少女であったらしい。 そこまでは使者一行の進行速度も普通だったようだ。
その後、一行はこの町に三日間滞在している。駆け落ち騒ぎのせいだろうと住民達は思っているらしい。
三日後には出立したが、隣町で泊っている。その時には、身分の高い女性はベールを被った小さな女性だけだったという。
「ベールをかぶってたのは私だから。駆け落ちで消えたのは、実は王女様だったということ?」
「そのようです」
「王女が駆け落ちしたら、普通、殺さない、よね?」
ここの常識がわからないので、一応、カウンゼルに確認してみる。
「もちろんです。王族の女性を殺すなど、考えられません」
そりゃそうだ。
私の常識とかけ離れてなくてよかった。
王女が駆け落ちしたから、使者達はあわてて私をそれっぽく仕立てて旅程を遅らせていたのか。そうして国からの指示を待っていたのかもしれない。
でも、それなら王女はどうして?
駆け落ちじゃなくて、王女に懸想した騎士が王女を道連れに無理心中とか。いやいや、そんなばかな。
うだうだと悩んでいる私にカウンゼルが発言した。
「墓を掘り起こして確認しましょう」
「ええぇっ」
二年たっているから、今頃は骨になっているとは思うけど。ほ、ほ、掘り起こす?
確かめるにはいい方法かもしれないけど。
死者様、怒らないでねぇ。
なんまんだぶなんまんだぶとか適当な言葉を口走りながら手をこすり合わせた。
宗教は信仰してないけど、やっぱりこういうのは気になるから。
「何をなさっておられるのです?」
「おまじないです」
怪訝な顔で問いかける騎士カウンゼルに、侍女リリアが即答した。
さすがリリア。見事な対応だった。
「では早速」
「ち、ち、ちょっと待って。まさか今から掘り起こすつもり? 夜なのに」
「早い方がいいでしょう」
「いや、夜は止めておきましょう」
「なぜです?」
「ほら、いろいろ眠っているでしょう?」
「眠って?」
夜に墓掘りって怖すぎる。例え他の人がするんだとしても。
ここの世界の人達は、亡骸には思い入れがないというか、祟られるとか思わない。石が積んであるのは動物達やうっかり住民がそこを掘らないよう目印であるらしい。
いろいろと習慣は違うよね、土地が違えば。
「朝の方が見落とさないから、明るくなってからにしましょう。ね?」
にっこりと笑顔でカウンゼルに伝えると、彼も承諾してくれた。
ふうっ。どちらにしても、死者を掘り起こすことには違いないけれど、とりあえず夜は回避できたらしい。
夜が更け、続きは明日にした。
そして、一人になれば、頭に浮かぶのは湖のこと。考えまいとすれば王女と墓掘りが思い浮かぶ。幽霊は駄目。それを振り払おうとすれば、もう帰る場所はないのだとの思いが息を詰まらせる。暗闇がじわじわと私を押し潰すように。
そうして、その夜は眠りについたのは明け方になってからだった。
もちろん翌朝はすっかり寝坊してしまった。別に朝早起きする必要はないのだけど、生活のリズムは大事よ、うん。
遅い朝食時間中、カウンゼルから消化に悪い話題を提供された。朝の話題には少しもふさわしくなかった。私が報告を許可したんだけれども。
「現在のところ土と複数の動物の骨以外発見されておりません。人が立てるほどの深さまで掘り進める予定ですが、人骨が発見される可能性は少ないとのことです」
目の前の食事がひどく不味く感じられる。少しだけ口をつけたものの、とりあえず皿を脇へ押しやった。侍女リリアがその意をくんでくれるはず。
報告を聞くこの状況。他人を使う立場というやつで、なんて面倒なことになっているのかと思う。
カウンゼルとユーロウスが私の意見を待っているのを感じる。私は指示する立場ではないはず。この状況はおかしいと思うけれど、解決が先だと自分に言い聞かせ疑問には蓋をする。
自分が考えなければいけない状況は都合がよくもあった。今は。
「可能性が少ないとはどういうこと? 掘った形跡がないの?」
「そうです。今掘っている場所はそれまでの個所とは手応えが違うそうです」
掘る手応えが違うということは、かなり堅いということか。木の根も邪魔しているのかもしれないし。二年前に掘った形跡がないと推測しているのだろう。
「では、亡骸を埋めたというのは嘘だった、と。それとも、誰かが掘り返して遺体を他の場所へ移したのかしら。高貴な身分の人だし。住民が埋めたという話だったけど、誰がというのはわかっているの?」
「いいえ。皆、誰某がそう言っていたというばかりで、最初に誰が言い始めたことなのかは突き止められておりません」
「亡骸が埋められたのはいつ?」
「使者達の滞在二日目朝です。薄い霧の中、作業している者を見たそうです」
また、誰かが、誰かを、ね。
滞在二日目の朝。私はその前の晩にはこの館に運び込まれている。私が初めて目を覚ました日、外ではそんなことになっていたのか。
私は部屋に閉じ込められていたから全く外の様子はわからない。あの時のことを必死で思い出そうとしたけど、何せ二年も前のこと。新しい情報など思い浮かぶはずもなかった。




