表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/24

その7(第11話)New!


 アスラウさんに運動場みたいなところに連れて行かれて「晶術を試しに撃ってみてください」と言われたから、やった! 魔法ですよ魔法! とか興奮して撃ってみたら、なんか、大きな青い光の玉がでて、爆発した。


 何を言っているのかわかんないかもしれないけど、わたしもよく分からない。




 わたしは、爆音でちょっと耳がおかしくなった以外はとくに怪我はしなかったけど、わたしを庇ってくれたアニさんが、爆風で吹き飛ばされて、怪我をしちゃったみたいだった。


 幸い怪我は打撲と擦りむいたくらいで、たいしたことがないみたいで良かったけれど、本当に危なかった。魔法怖い。魔法じゃなくて晶術らしいけど。


 ドラクエとかそういうファンタジーもののゲームとかで、魔法とかスキルとかって、よくあるけれど、そういうのって現実になったらけっこう危ないと思う。


 アメリカとかで銃乱射事件とか、日本でも連続通り魔事件とかが、たまに起こるけれど、それと同じようなことが晶術とかでも起こせるってことになる。


 晶術を使える人がトチ狂って大量殺人事件を起こすとか、そんなことはないのかと、そんなことをアニさんの部屋にお見舞いにいったときに聞いてみたら、


「そうですね。そういうことはたまにはありますけれど、威力の強い晶術を使える人はそれほど多くありませんから、大丈夫ですよ」って教えてくれた。


 たまにはあるのか! なにそれこわい。



 でもまあ、この世界では、晶術を使える人は偉くなれるみたいだから『世の中が嫌になって』みたいな理由で晶術乱射事件とかを起こす人はあんまりいないのかもしれない。



 そんなことをアニさんやメイドさんたちとおしゃべりしていると、突然、髪の毛が逆立つような皮膚がぴりぴりするような、何か熱いものが近くにあるような不思議な感覚がした。

 なんだか、斜め上のほうからそういう刺激を感じたので、そっちを向いてみたけれど、そこには部屋の壁と天井があるばかりで、部屋の中には何もなかった。そっちの方向には窓も無いから、外から日差しが入ってきてるわけでもないし、何だろうと思ってきょろきょろしていると、同じ部屋にいたエマさんが、


「これはたぶんアリエラ様がいらっしゃいましたわね」といった。


「アリエラ様って誰?」とわたしが聞くと、


「アリエラ様というのは、シホ様の家臣で天竜騎士でもある方です。シホ様の家臣の方ですから、シホ様は『様』を付けてアリエラ様をお呼びにならなくても結構ですわ」


 そう教えてくれるとエマさんはわたしを抱き上げて、少し見に行ってみましょうかと言って、アニさんの部屋を出て、マリエさんと三人で一緒に玄関の方に向かった。






 玄関から外に出て、ぴりぴり刺激を感じる空の上のほうに顔を向けると、そこには大きな白い何かがいた。何だろうと思って、よく見てみたらドラゴンだった。


 いやもちろん、いままでの人生16年のなかで、ドラゴンの実物を見たことはないから、本当にその生き物がドラゴンなのかどうかは分からないけれど、見た感じそれはドラゴンぽい生き物だった。


 20階くらいあるビルを横倒しにしたような、大きな白い体に、それに見合うような大きな翼が一対二枚、四本脚がついていて、見たところ毛は生えていない、爬虫類っぽい質感で、これも肉食恐竜みたいな頭の付いた、どっちかというと西洋タイプのドラゴンみたいだった。


 そして、その巨大ドラゴンの背中に人間が乗っているように見えた。


 けれども、大きなビルくらいあるドラゴンとの対比で、乗っている人間は小さく見えるから、なんだか、人間がドラゴンに乗っているというより、豆粒がドラゴンに貼り付いているみたいに見える。


 そして、その巨大ドラゴンの背後に、同じような形をした、今度はもう少し小さい……そう、マイクロバスくらいのドラゴンが2頭、これまたそれぞれ背中に人間を乗せて飛んでいた。


 巨大ドラゴンを先頭にして、その左右斜め後ろに1頭ずつ、小型ドラゴンがくっつくようにして、ちょうど三角形の飛行隊形をとって、空をぐるぐる旋回しながら高度を落としている。


 それは、とても壮大な眺めのようにも見えたけれど、ありふれたファンタジー系のネットゲームのPVを見ているようにも見えた。



 ドラゴン達が高度を落としていくのを横目に眺めながら、エマさんに抱っこされて、マリエさんと3人で、屋敷の敷地内をしばらく歩いて、くねくね道を曲がって、しばらく歩いて、最後に並木道を抜けると、芝生が一面に植わった、だだっ広い運動場のようになっている場所にでて、見るとそこにドラゴン達が着陸していた。


 つまりそこの芝生は、運動場ではなくて、ドラゴンの着陸スペースだったらしい。



 ドラゴンの背中に乗っていた人達は、もう地面に降り立っていて、わたし達に気付くと芝生を踏んで、こっちに近づいてきた。


 ドラゴンの騎手の人達は近くで見ると女性が3人で、褐色の肌の人が1人と、ごく普通の白い肌の人が2人だった。


 遠目に見たときに、巨大ドラゴンに乗ってた人は、顔とかが茶色っぽく見えたから、多分、褐色の肌の人が巨大ドラゴンの人で、白い肌の2人が小型ドラゴンに乗ってた人だと思う。


 三人とも揃いの服装をしていて、白い乗馬ズボンと、焦げ茶の乗馬ブーツみたいなもの。革製みたいに見える焦げ茶っぽいベストを着て、くすんだ薄緑色というかオリーブ色みたいな色のケープを身に着けて、同じ色で、羽飾りのついた帽子をかぶっていた。


 わたし達の前まで来ると、三人の女の人達のうち、白い肌の人達は、帽子を取って、片膝をついて頭を下げた。けれども褐色の、つまり巨大ドラゴンに乗ってた人は、そのままずんずん近づいてきて、わたしに手を伸ばすと、わたしの耳をふにふにと触った。


 物も言わずに突然耳を触ってくるものだから、びっくりして固まったまま、触られるに任せていたけれど、彼女はそのまま、なんだかキラキラした目で、わたしの耳をふにふにと触り続けた。


 20秒くらいそうされながら、やっぱエルフ耳だとみんな触ってみたくなるんだろうかとか考えていると、褐色の彼女はわたしの耳から手を放して、今度はわたしの額の真ん中にくっついている宝石のかけらみたいなやつを指先でつんつんし始めた。


 アスラウさんの説明によれば、この宝石みたいなやつは、糊とかでくっつけてあるんじゃなくて、額からちゃんと生えてるらしい。


 だから、頭から宝石が生えてる人なんて、めずらしいもんね。触ってみたいよね、とか考えてみたり、いやいや待て待て、これが異世界風の挨拶なのか? とか考えてみたりしながら、黙って触られるままになっていた。



 それでまたしばらく、みんな無言のままに、額をつんつんされていると、跪いてた人の1人が、だれも何もしゃべらないのを不審に思ったのか、ちらっと顔を上げた。


 それで彼女は、褐色の人がわたしの額をつんつんしているのを見ると、


「お、おお、お嬢様、なな何をやってらっしゃるんですか!?」

とかいって、わりと狼狽して叫んだ。


「ん? だってめずらしいじゃない」


 お嬢様って呼ばれた褐色の人は、額つんつんを続けながら、悠然とそう答えた。


 そうか。やっぱり額から宝石が生えているというのは異世界的にもめずらしいのか。


「森族の支配種なんてはじめて見たわあ」

 褐色のお嬢様はのんびりとした口調でそう付け加えた。



 そうすると、跪いているもう1人のほうの女の人が顔をあげて、


「……お嬢様、非常に失礼ですよ」


と、とても小さな声なのにその場にいる全員に聞こえる声というか、鞭のようなというか、氷点下的という感じの声で、ぼそりと言った。


 すると、その瞬間にわたしをつんつんしていた褐色お嬢様の背筋が、ビクゥッ! という感じで跳ねる。


「ん、んんっ、えほ、えほんっ」


 褐色のお嬢様は、狼狽したように動きを止めると、何かをごまかすように咳払いをして、それからわたしの左手をむんずと掴むと、わたしの手の甲にチュウをした。それから、


「えー……何だっけ。……あ、お、お初にお目にかかりましゅ。アリエラ・クライシーラウと申します。お呼びにより参上しました」

噛みながらそう言って跪いた。



「0点……」

 さっき氷点下的、鞭的な声を出した女の人が、今度はエターナルフォースブリザード的な厳しい声で、小さくぼそりと、しかしばっさりと切り捨てた。


 その瞬間また褐色お嬢様の肩がビクゥッ! という感じで跳ねた。



 エターナルフォースブリザード的お姉さんは、失礼いたします、と言うとすっと立った。


「お目通りを頂き、嬉しく存じます。わたくしは、殿下の臣、アリエラ・クライシーラウが臣、トーカ・ダイラーと申します。我が主が失礼を致しました。どうかお許しください」


「は、はあ」


「寛大なお言葉をありがとうございます。わたくしの隣におりますのが、同じくアリエラ・クライシーラウが臣、ノリーカ・ニジョルと申します」


 そう言うと、今度はそのノリーカさんの隣で跪いていた女の人で、さっき狼狽して叫んでた人が、失礼いたします、と言って立ち上がって、


「お目通りを頂き、ありがとうございます。ノリーカ・ニジョルと申します」


と言った。


 どう答えていいのか分からなかったから、とりあえず「こんにちは」と言っておいた。




 そしたら背後から、


「おお、来られたか」

という声がして、身をよじって横を見るとアスラウさんがいた。







 アスラウさんが、まあとりあえず中へと言ったので、みんなでぞろぞろと移動して屋敷のなかに戻って、応接間に入って皆で椅子に座った。


 マリエさんが紅茶を淹れてくれて、何かタルトみたいなお菓子を持ってきてくれて、みんなに行き渡ると、アスラウさんが話し出した。


「さて……ここにおります彼女はシホ様の臣であります、アリエラという者です」


 そう言って、褐色のほうの女の人を手で示した。そのアリエラさんは、さっそくタルトにかじりついていたところで、名前を呼ばれたので、タルトを慌てて皿に戻そうとして、ぶほっ、とか言ってむせていた。


 アスラウさんはその様子を見て、やれやれという顔をして、


「まあ、この通りのものですから、気楽にお付き合いをできるかと思います」と言った。


 アリエラさんは、褐色の髪と肌と瞳で、とってもグラマーな、コーラーの瓶みたいな体型をした女の人だった。顔を見た感じは大学生くらいのお姉さんに見えるけれど、なんか動きが子供みたいでおもしろいので、もっと年下な感じにも見えた。


「それで、こちらとこちらは、シホ様の臣であるアリエラの臣でノリーカとトーカという者ですな。シホ様の家臣の家臣ということになりますから、シホ様からすれば、陪臣にあたるわけですな」


 アスラウさんは一度言葉を切ると、わたしの方にさらに身を乗り出して言った。


「この3人を、わたしが呼んで、来てもらったわけですが、それはもちろんシホ様へのご挨拶をするということも、その来てもらった理由でもありますけれども、もっとも大きな理由は、このアリエラが天竜騎士であるということです。つまりシホ様が天竜にお乗りになる際の指導をしてもらうために呼んだのです」






 アスラウさんの話が済んで、また屋敷から歩いて(といってもわたしは抱っこで運ばれているだけなんだけれども。今度はマリエさんが抱っこして運んでくれた)さっきの芝生のところに戻った。


「教えるっていっても、戦争するんでないんだったら、そんなに教えることなんてないんだけどねー。でもまあ、とりあえず騎竜を呼んでみようか?」


とアリエラさんがのんびり言うと、



「言葉づかい!」

とトーカさんが小声で厳しく叱りつけた。そいでまたビクゥッとアリエラさんの肩が跳ねる。


「別に普通に話してくださってかまいませんよ?」わたしがそう言うと「あ、そう?」とアリエラさんが嬉しそうに答える。


「駄目です! そんなことでは示しがつきません!」

トーカさんがすぐにかみつく。


「大丈夫だよぅ。でるとこでたらちゃんとするって」


「お嬢様はそんなに器用な人じゃないでしょう! 絶対ぼろがでるに決まってるんです!」



とかなんとか言っているアリエラさんとトーカさんの会話を聞き流しながら、天竜を呼んでみる。


今朝読んだ良ちゃんの手紙によれば、ただ念じればいいらしいみたいに書いてあったので念じてみる。



(ラスタス来い。ラスタス来い。ラスタス来い)


 そうすると、またピリピリするような、熱いものを近づけられたような、髪の毛が逆立つような感触がして、しばらく待つと、よく晴れた青い空にひとつ、ぽつりと染みのようなものが見えた。


 染みはみるみる大きくなる。同時にぴりぴりした感触も強くなる。

 そのうち染みの色がわかるようになってきて、それは若草色をしていた。アリエラさんのドラゴンよりは少し小さい。爬虫類っぽいカタチで、一対二枚の翼。


 ラスタスはわたしの近くまでくると、その上空を、わたしたちを掠めるんじゃないかというほど低く通り過ぎて、


「■■■■■■■■■■■■■■!!」


 わたしのおなかの皮が震えるくらいの雄叫びをあげ、それからもう一度旋回してもどってきて、それからわたしの前の芝生に到着した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ