第41話 偽物
どーも!お久しぶりですモッチーです!
…眠いのでネメス!
前回のあらすじ!
ギース達の登場により難を逃れたショウタ。
ユウトが立ち向かっていた主催者の元へと到着する。
ユウトもファナもボロボロではあったが、何とか全回復させることに成功。
ファナは奴隷達の加勢へ。回復の時間を稼いでいるユウトの元へとショウタは向かった!
ショウタ「…と、まぁこんなもんかな!」
ファナ「……つまんなーい。」
ショウタ「んなっ…!!!」
サヤカ「捻りも何もありませんね、逆にすごいです」
ショウタ「い、いいだろ!普通こんなもんだろ!」
ファナ&サヤカ「それでは皆さん、どうぞ!」
ショウタ「なんかまるで俺がスベったみたいな」
*****
ショウタ(ぽーーーー)
ショウタは座ったまま、もう見えなくなったファナの方を見つめていた。
頬にはまだ湿った感触が残っている。
ショウタ(今の……やっぱりキスだったのか?でも、なんでこのタイミングで…)
ドクンドクンとうるさい心臓と、火傷しそうなほど熱い頬。
周りの喧騒も聞こえなくなるような高揚か
ゴン!
ショウタ「いたぁっ!?」
と1人だけ別ジャンルの小説へ飛び出していたショウタは現実に戻る。
ショウタ「なんだよ今のは!?」
後頭部のズキズキとした痛みに振り返ると、ユウトの棍が落ちていた。
ユウト「てめぇショウタぁ!!人を相性最悪な戦闘へ押しやっといて何ぼーっとしてやがる!早く来いバカ!」
少し離れたところからユウトが必死で叫んでいる。
主催者の猛攻に四苦八苦しているようだ。
ショウタ「誰がバカだ!もうそのままくたばってろ!」
言い返しつつ立ち上がり、ショウタは走り出す。
ショウタ(と、とりあえず、この事は忘れよう!うん!それが良い!!)
今日もショウタはヘタレだった。
*****
ブン!
主催者「ちっ。」
主催者とユウトの間に、ショウタが剣で割って入ると主催者はわかりやすく舌を打つ。
ショウタ「大丈夫かユウト。ケガはないか?もう心配で心配でショウガナカッタゾー」
ユウト「嘘つけぇ!ぼーっとしてただろうが!」
ヤジを飛ばしながら、ユウトの前へ立つ。
ユウト「…他のみんなは?」
ショウタ「大丈夫だ。誰もピンチじゃない。…ただ、全体的に劣勢なのは間違いない。なにしろこの人数差だからな…」
ユウト「なるほど。んじゃ、あとはこのクソ野郎倒すだけってことか。」
ショウタ「…あぁ。」
ユウトがショウタの肩へ手を置く。
ピカーン!
ショウタの能力でユウトの回復が始まる。
ユウト「そんで、俺はどうしたらいい?コイツの相手はお前に任せた方がいいか?」
主催者の能力は闇魔法。
闇魔法は属性として最強で、ショウタの十字架でなければ、触れるだけでダメージを負ってしまうのだ。
普通に考えれば、ユウトはいても危ないだけなのであるが……。
ショウタ「…いや、悪いけど一緒にいてくれ。」
ユウト「ほぉ…。一応きくが、それはなんでだ?」
回復が終わり、ユウトは手を離す。
ショウタは剣を構えなおしながら
ショウタ「主催者のことだ、まだ何か手を隠してるかもしれない。あくまで俺はこの剣で闇魔法に対抗できるってだけで、純粋な戦闘力は心許ない。……それに恥ずかしい話、1人で戦うのは苦手みたいなんだ」
ショウタは以前の戦いを思い出す。
後ろに仲間がいるという状況になんども助けられ、自身がピンチの時守ってもらい、逆に仲間がピンチだと限界を超えて助けに入ることができた。
1人になると、恐怖や絶望、焦りなどに呑み込まれてしまうこともあった。
それらを思い返しながら、ユウトに告げる。
ショウタ「だから、頼む。一緒にコイツを倒してくれ。」
ユウト「…!へぇ〜、ショウタのことだから『お前なんていらねぇよ!』なり『守りきれないからどっかいけ』って言うとばっかり思ってたぞ」
ユウト(もちろん、んなこと言いやがったら俺がてめぇを倒していたけどな)
ショウタ「…まぁ、俺も成長したってことさ。あと、理由はそれだけじゃないんだ」
ユウト「まぁ元々俺もコイツには借りがあったからな。引く気はなかったし、お前がいると1つ良いことがあるしな」
とお互い指を指し合いながら、
ショウタ&ユウト「「お前を盾にできる」」
ショウタ「なっ!?」
ユウト「はぁっ!?」
ショウタ「お前人がせっかく頼ってるのに、そんなこと考えてやがったのか!?信じられねぇ!」
ユウト「手を貸してやるつってんのにそんなこと思ってやがったのか!?ありえねぇ!」
敵は目の前にいるというのに、共闘する相手と怒鳴りあう。
主催者「……くっくっくっ。はっは、あーはっはっはっはっは!」
ショウタ「なんだ…?」
ユウト「耳障りだな」
そんな2人を眺めていた主催者は、突然笑い出す。
主催者「はっはっ…ふぅ。いやなに、もう私を倒せる気でいるお前たちの能天気ぶりに笑いがこみ上げてきてな。しかも2人ぽっちで倒すなどと抜かしやがって。」
ショウタとユウトは怪訝な顔をする。
ショウタ「はぁ?なに言ってんだよ。お前にとっちゃ一番辛いシチュエーションだろうが。」
ユウト「人質にできるようなヒロインもいない。ショウタには闇魔法が効かず、闇以外なら俺がねじ伏せれる。…逆に頭おかしいのはお前の方じゃないのか?」
主催者「…まぁそうだな。運動能力が皆無な私にとって、ショウタ一人でも脅威だ。それに+aで闇に少なからず耐性のあるユウトがいる。絶体絶命とはまさにこのことを言うのだろう!」
主催者は余裕の笑みを絶やさない。
主催者「だがまぁ……“お前たち2人だけが来た”という時点で私の勝ちなのだよ。」
ユウト「なに…?」
ブン……
ショウタ「あ、あれ…?なんだ、視界が歪んで……」
突然、ショウタ、ユウト、主催者を円の中に入れた、魔法陣が現れる。
主催者「このシチュエーションを予想して、最後の切り札として作っておいたのだが……まさかここまで綺麗にハマるとはな!」
ユウト「くそ!転移魔法か!…あいつ、こんな大袈裟な魔法まで準備してたのか!」
ショウタ「転移魔法…?まさか、俺たちをどこか遠いところへ!」
ユウト「いや違うだろう。それならコイツが魔法陣の中に居る意味がない。…おおよそ、コイツにとって都合が良い場所へ飛ばされるのか…あるいは、」
プツッ
闘技場から3人が消えた。
*****
一面の紫だった。
上も下もあったものではない。ひたすら、紫、紫、紫。
闇魔法の色に近い色の世界がそこには広がっていた。
ショウタ「ここ…は…?」
主催者「ようこそ!ここが私の最後の切り札!封鎖結界だ!」
ユウト「封鎖結界…?って確か、現実世界との干渉を一切絶った結界…?」
主催者「そうだ!よく知っているな。あまりこの結界を使うものはおらんのだがな。」
*****
封鎖結界
特別なアイテムや長い詠唱。特異な能力でしか発動できない結界。
製作者の意図に合わせて世界を変える力。
製作者が気絶するか結界を解かない限り壊れない。
外部から強引に壊すこともできなくはない
*****
ショウタ「なぁ十字架。この結界、どんな効果があるかわかる?」
ユウトと主催者の会話を尻目に、十字架へ尋ねる。
十字架「いやぁ、わかんないです。一応私が動けるということは、武器などに制限をつける類の結界ではないみたいですね。てっきり、私を封じるのかと思ったんですけど。」
ショウタ「そうか。まぁ確かに、普通なら俺の剣封じたほうが良いだろうな」
十字架「はい。だから主催者の意図も読めません。」
ショウタ「役立たずな十字k」
メリィ…
ショウタの腹が10センチ凹んだ。
苦しみながらも、またユウトの方へと向き直る。
ユウト「で?こんな悪趣味な結界作って何がしたいんだ?」
主催者「ふん…わざわざ言うまでもない…。見せてやろう!」
パチン
ショウタ「こ、これは……?」
主催者が指を鳴らした瞬間、なにやら黒くてモヤモヤしたものが、ショウタとユウトそれぞれの目の前に現れる。
ユウト「…は、またお得意のニセモノかよ。」
それらは次第に形作られていき、目の前にいる人物とそっくりになる。
ショウタ「俺…たち……。」
目の前に現れたのは、ショウタとユウトだった。
ユウト「ホントに芸がないやつだな。ショウタ、こんなのサッサと消しちまえよ。」
ユウトは呆れたように肩をすくめ、ショウタを促す。
ショウタ「あ、あぁそうだな。下がっててくれ。」
ショウタは前に出ると、剣を構え、一呼吸で斬りはらった!
バシッ!
ショウタ「な……!?」
だが、ショウタの剣は偽ユウトによって受け止められる。
偽ユウト「………」
偽ユウトはそのまま、剣の側面を掴んだ!
ショウタ「まっず…!」
ぐん!
ショウタ「っ…!?」
恐ろしい馬鹿力で引っ張られ、ショウタの身体が浮く。
ショウタ「が、あぁぁぁぁぁ!!!!」
ショウタ(ふ…ざけんな…!こいつ…どんだけ力あるんだよ…!?)
*****
〜ユウトside〜
偽ユウトにショウタが振り回される。
ユウト「ショウタ!?」
ユウト(なんで消えない?ショウタの十字架に触れればこんなやつら……って考えてる場合じゃねぇ!)
ユウトが偽ユウトへと突撃する!
ガッ!
ユウト「…!!…なんだ、邪魔する気かよ。」
偽ショウタ「………」
割って入った偽ショウタも、なにも言わない。
ユウト(ショウタは大丈夫か…?いや、あいつもただのバカじゃないからな、きっとなんとかするだろう…。それより、)
ユウト「まぁちょうどいい。2人揃うと面倒くさそうだからな…先に倒させてもらう!」
偽ショウタ「………!!」
ユウトと偽ショウタが肉薄する!
*****
〜ショウタside〜
ガン!ガン!ガン!ズザザザー!
ショウタ「ぐ!がぁ!う…あぁぁぁぁ!!」
あんな小柄な身体のどこに力があるのか。ショウタは為す術なく引きずり回される。
ショウタ(まずい…この剣を取られたら主催者に対抗できない!…痛っ!……でも、このまま握り続けてたら先に俺が参っちまう…!!)
偽ユウト「………」
疲れなど知らないと、偽ユウトはひたすらに振り回す。
ショウタ(も…う……意識…が…)
十字架「ショウタ!!!」
ヒュン。
十字架はショウタの危機を救うため、元のネックレスへと自身を変形させた。
偽ユウト「!?」
よって、偽ユウトが握っていた部分が消失し、支点のなくなったショウタはそのまま地面を転がる。
ショウタ「えっ!?…と、と、と!!」
転がりながらではあるが、咄嗟に受身を取りつつ、偽ユウトから距離を取るショウタ。
ショウタ(サンキュ、十字架。お前が助けてくれなかったらどうなってたか…)
十字架(いえいえ。そんなことよりショウタ。これからどうするんですか?)
偽ユウトはその場で黙ったまま動かない。
ふと偽ユウトの後方を見ると、ユウトと偽ショウタがなにやら戦闘を始めている。
ショウタ「そう…だな。とりあえず、今俺がすることは……」
*****
〜ユウトside〜
まぁ概ね予想通りだった。
偽ショウタはユウトの攻撃をなんなく受け止めると、およそショウタでは出せない力でパンチを繰り出す。
ユウト「ふっ…!!」
それを右肘と右膝で挟み込むように受け止めるユウト。
ユウト「そら舌噛むなよ!」
右足を地面に着地させ、反動で左足で蹴り上げる。
ゴン!
偽ショウタの顔があがる。
顎へクリーンヒットしたわけだが、偽ショウタは2.3歩よろめき首を振ると、すぐにまた突っ込んできた。
ユウト「ちっ!」
ユウト(なるほどね…。)
ユウトは応戦しながらも、思考を巡らす。
ユウト(どうやらこいつら、本物より2〜3倍は強いらしい。今のところは筋力と耐久力しかわからないが、この様子だと“能力”の方も強そうだな…)
繰り出される拳を一つ一つ丁寧に受け止め、あるいは避けながら、的確にカウンターを決めていく。
ユウト(まぁぶっちゃけてしまえば、単純な戦闘スキルなら俺の方がショウタより上なわけで。回復とかチーム戦としてはあまり変わらないけど、タイマンならいくらパワーが高かろうが…)
ゴキィッ
偽ショウタの腕が変な方向へ曲がる
ユウト(負けない!)
偽ショウタ「っ!!!」
たまらず後ろへ下がる偽ショウタ。
ユウトの方も、深追いはせず、呼吸を整える。
ユウト(とはいえ、強いのは間違いない。一瞬でも受け止めきれなければ、致命傷を負うのは必至だ。)
と、自分へ注意を促す。
ユウト(けれど…これなら負けない。ショウタがどのくらい保つかわからんが、とりあえずコイツを倒して、早く助太刀に……)
現在ユウトは実に冷静である。
現状をしっかりと把握しているし、見落としてるものもない。
だが……
ユウト(こんなにも背筋が寒いのはなんでなんだ…?)
例えようのない嫌な予感が、頭から離れない。
*****
〜ショウタside〜
ショウタは息を整えると、偽ユウト…ではなく主催者へと駆け出す!
十字架(ショウタ!?良いんですかそれで!?)
ショウタ「あぁ!見た限り、ユウトは偽の俺に負けてない。奴が勝つのも時間の問題だろ。…癪だけど。だったら、主催者が偽ショウタへ助太刀に行く可能性がある!…だから、それを防ぐために」
ブン……
そんなことではなかった。
ズドン!!!
十字架が言っていたのは、
ショウタ「が…は………て、めぇ……」
十字架「ショウタぁ!」
反応できない速さで突っ込んできた偽ユウトにより、ショウタは十数メートル吹き飛ばされる。
身体のところどころは痺れ、申し訳程度の防具も、砕けている。
ショウタ「ててて………しくったな…。」
大前提が間違っていた。
ショウタ(主催者を…なんていう、その前に。)
“これ”を相手にして、よそ見をするなど自殺行為だったのだ。
ショウタ「コイツをどうにかしなくちゃいけないってことだな……。」
偽ユウト「………」
様々な色の雷を纏う、偽物が立ち塞がる。
*****
主催者「ふふ、ふふふ、ふはははは!」
今現在巻き起こる戦闘を、安全圏から眺め、主催者は高笑いする。
主催者「計画通り。ふっふっふ、ここまで順調だと逆に不安になるなぁ!ユウトは偽ショウタに接戦で、ショウタは偽ユウトに為す術もない!戦闘スタイル、戦略が本人と全く違わず、能力だけが上がっているのだ!当然だろう!!」
落ち着いて対処しつつも、冷や汗をかくユウトと、
必死で食らいつきつつ、歯噛みするショウタを交互に見てから。
主催者「さて…“私も参戦しようか”」
王手をかける。
*****
〜ユウトside〜
ブワッ!
全身が総毛立つ。鳥肌なんてものではない。ここにきて、嫌な予感が的中したようだ。
ユウト(主催者が動いた!)
どうやら主催者はユウトへ狙いを定めたらしい。
まがまがしいオーラを出しながら、まっすぐにこちらへ向かってくる。
ユウト「ち…こんだけ強い偽物を出してんだ、動けないんじゃないかって淡い期待をしていたが、甘かったみたいだな。」
チラリとショウタを見ると、正に満身創痍という言葉がぴったりだった。
ユウト「…まぁそうなるよなぁ…。まだ立ち向かってるだけでも僥倖なんだけど……!」
スタッ。
災厄が舞い降りる。
主催者「さて、私のショーはいかがだったかな、ムッシュユウト。」
偽ショウタを嗜めながら、尋ねる主催者。
ユウト「けっ。サイコーにつまんねぇよクソッタレが。こんな偽物で俺たちが倒せるとでも思ってんのか。」
対してユウトは全く動じず、主催者をギロリと睨みつける。
主催者「あぁ思うとも。事実、ショウタは手が出ず、貴様も手を焼いているではないか。ここに私が入れば間違いなく詰みだ。」
主催者は油断も慢心もしていない。
冷静に現実を分析し、確実に息の根を止める。
ユウト(………ショウタ…!!!)
*****
〜ショウタside〜
偽ユウトの手が白く光った。
ズバチィ!
ショウタ「がぁっ…!?」
と思ったら次の瞬間には、身体が感電している。
十字架「ショウタ!電撃です!偽ユウトは電気を使っています!!」
ショウタ「わ、わかってる!…わかってるけど……!」
今度は、偽ユウトの反対の手が光る
ショウタ「ってしまっ…!」
ズバチィ!!
ショウタ「くぅ……!」
またクリーンヒットする。
ショウタ(反応できねぇ…!?どうすりゃ良いってんだ!?)
また偽ユウトの手がショウタへと狙いを定め……
ショウタ「っ!う、うおおおおおおお!!!」
弧を描くように、偽ユウトへと突撃する!
ショウタ(電撃を見てから避けることはできない!だからもう接近するしかない!接近さえすれば俺の攻撃も届く!)
ズバン!ズバン!
避けるというより、偽ユウトが外しているという表現が正しく、2発、3発と電撃をくぐり抜けていくショウタ。
十字架を左手に握り、ガードを命じて、右手を固く握りしめる。
ショウタ「くらええええええ!」
そのまま右ストレートを繰り出した!
ガン!
偽ユウトの顔面にクリーンヒットする。
ぐらりと身体がよろけた。
ショウタ(イケる!)
攻撃が効かないのではと心配していたが、どうやら効くようだ。
ユウトは反撃とばかりに右足を繰り出すが、十字架によって阻まれる。
ここぞとばかりに追撃しようとして
ドテッ
ショウタ「あ…れ……?」
転けた。
ユウトを目前にし、渾身の右ストレートを決め、追撃しようとしたのに、転けた。
ショウタ(こんなところで転けるかフツー!?)
咄嗟に転がって距離を離しつつもう一度立ち上がろうとして…
転けた。
ショウタ「…は……?」
十字架「ショウタぁ!」
視界が歪んでいる。頭がガンガンしている。
脚に力が入らない。いったい何が、俺の身体にいったい何が、
ショウタ(いや……俺にいったい“なにをした”?)
ばたりと、
今度こそショウタは完全に地面に倒れる。
偽ユウト「…………」
偽ユウトがしょうもないものを見るような目でこちらを見下す。
ショウタ(十字架……いま、なにが起こって…?)
十字架(お、落ち着いて聞いてください、ショウタ。その…カウンターを食らいました。)
カウンター?
そんなはずはない。だって十字架にガードを頼んでおいたし、よしんばそれをすり抜けて来たのなら自分だって反応したはずだ。
十字架(違うんです、ショウタ。その…同時に3箇所から攻撃が来たんです)
ショウタ(3箇所!?)
耳を疑う。
そんな動きは見受けられなかったはずだ。
十字架(偽ユウトはわざとパンチを食らいました。そして、ショウタが追撃してきたところに電撃を浴びせました。…後ろから。首の後ろの頸髄に一発、両足に2発、さっき外した電撃が“戻ってきた”ようです…。すいません、気づきませんでした…。)
ショウタは倒れたまま、無理やり辺りを見渡すと、青い電気の網のようなものが、空間に張られていたことに気づく。
ショウタ(なんじゃそりゃ…。目にも留まらぬ速さで撃ち出された電撃を、よしんば避けたとしても後ろから戻ってきて、当の本人は俺より力強くて、十字架がガードできるのは本人からの物理攻撃だけ。)
偽ユウトが近づいてくる。
ショウタ(笑えてくるぜ…。チクショウ、身体が動かねぇ……)
*****
〜ユウトside〜
主催者による闇魔法が迫る。
偽ショウタに手を焼いているユウトは避けようがない。
そんな中、何を思ったのかユウトはショウタの方をチラリと盗み見る。
偽ユウトによる死がもたらされようとしていた。
ユウト「ーーーや……」
主催者「…なに?」
ユウト「やめろクソヤローーーーーーーー!!!」
後先なんて知らない、限界なんてクソ食らえだ。
アイツが、負けるなんてこと、あっちゃならない!
ユウトの決死の雷撃が、ショウタと偽ユウトを割って入りーーーー
*****
〜ショウタside〜
偽ユウトにより繰り出される電気を帯びた拳。
身体は言うことをきかず、十字架は既にユウトの蹴りと背後からの雷撃を防いでいる。
これが詰み。
情けないことに、ひょんなことで異世界に来た1人の少年は、口だけ達者で何もできずにーーー
「やめろクソヤローーーーーーーー!!!」
ズバチィ!!!
偽ユウト「!?」
ショウタ「なっ…!」
怒号と同時に偽ユウトを吹き飛ばす雷撃。
たまらず、偽ユウトは後退する。
ショウタ(これはユウトの雷撃!…はっ、なんだアイツ…もう偽の俺を倒したっていうのか!?悔しいが、凄すぎるぞ!)
確かな勝機が見えたショウタは、なんとか立ち上がろうとして…
……………………………………………………。
それは、ただ黒かった。
ショウタ「ユウ…ト……?」
なんてことはない。殺されようとしている友達を助けただけ。
人を助ける余裕があるかとか、まずは自分の身が安全だとか、自分すら守れないくらいの限界とか、
ショウタ「ユウトっ!!!」
黒石ユウトは、その程度で止まる人間ではなかったはずではないか。
黒石ユウトは倒れる。
主催者の一撃に、あろうことかよそ見をし、ありったけの力を込めて他人を助けたのだ。
主催者「…ふん。馬鹿な奴だ。」
そんな行為は愚行でしかない。
もし今の力を使って主催者から逃げ切っていれば、そのあとで作戦はいくらでも考えれるし、ショウタも今ので死ぬとは限らない。
まず、生き残ってから、それから他人だの作戦だの考えるべきなのだ。
それなのに、ユウトはそれをしなかった。
ショウタ「…を…助け……馬鹿やろう…!!!!」
言葉にならない。
偽ユウトは主催者達の元へ走り、偽ショウタはひたすらショウタとユウトの様子を監視している。
主催者「自分を見捨てて他人を助けようだの愚の骨頂!」
ガッ
主催者「たった1発助けるために命を捨てたというのか、貴様は!」
ガッ
もはや動かなくなったユウトを、蹴りつける主催者。
ショウタ「やめろ……。」
主催者「貴様が生き延びて、それから案を考えたほうがまだ勝算がある!どうせショウタはこの中で1番弱い!戦力を考えても命を捨てて助ける価値があるものでもなかろうに!」
ガッ
ショウタ「やめろ……!」
主催者「……ん?はっ、なんだまだ息があるのか!存外しぶといのだなぁ貴様は!」
ガッ!
ユウトは微かだが、息をしていた。
だが、意識があるかもわからない。
ただ蹴られる度に身体を揺らす。
ショウタ「やめろっつってんだろ!てめぇぇぇぇぇ!!!!!!」
激昂して駆けだした!
右手には十字架。早くも剣に変身させ、ユウトを倒した犯人の首を斬ろうと獣のように走る。
偽ユウトはいち早く反応し、主催者の前へ立ちふさがる。
偽ショウタは、未だユウトとショウタをただ見ている。
主催者「っ!ーーーー。……はは、ははははは!残念だったな、お前一人ではもはや何もできまい!疾く失せろ!」
一瞬ひるんだ主催者だったが、揺らがない優位に顔を歪め、手下に命令を下す。
ショウタ「うおおぉぉぉぁぁああ!!!」
偽ユウトなど意に返さず突っ込む。
剣を右から力任せに振り下ろし、左手は固く握られている。
剣を受け止めようが殴るし、避けられようが殴る。
弾かれようが反動で回転して殴る気で、ショウタは全身を衝撃に備える。
…だが
ゴッ
ショウタ「っあ?」
黒いもので躓かされた。
偽ユウトから発せられたもののようで、それは黒い雷だった。
ズドン!
ショウタ「…か…ぁぁ」
悲鳴も出ない。
前のめりに倒れるショウタへ、身体の小ささを生かし潜り込んで、痛烈なアッパーをぶち込む偽ユウト。
ショウタ「ぁ…ぁ……」
起き上がれない。
怒りで痛みも苦しみも麻痺してるハズなのに、身体の大事な部分が壊れてるのか、立ち上がることができない。
偽ユウトはそんなショウタの後頭部を掴み、体を離すと、
バキッ!
蹴り飛ばした。
ショウタ「うがっ!」
無様に地面を滑る。
自らの弱さに吐き気がする。目の前であんな事が怒ったのに、何もできない。
激昂しようが突撃しようが、戦力差は埋まらない。
そんな当たり前のことが、今はとにかく許せなかった。
ショウタ「ち…くしょう……こん…のやろう……!!」
ショウタは歯を食いしばって立ち上がろうとする。
十字架(ショウタ…!まだ無理です、今は倒れておきましょう!…油断させて、体力の回復を待って、それから…)
十字架の声も元気がない。絶望的な状況だとわかっているのだろう。
ショウタ「だめ…だ。それじゃあ、アイツがやられちまう……。」
まだ息をしているであろうユウトを見る。
ショウタ「アイツに…貸しを作ったままだと……あとで、何させられるか、わかんねぇ……!!」
自身を奮い立たせるためか、十字架を安心させるためか、ショウタはそんな軽口を叩く。
主催者「ふん…2人、そろいもそろって死に損なうとはな!…見苦しいにもほどがある。おい偽ユウト、トドメをさせ。」
偽ユウトを無言で頷くと、一気に間合いをつめる。
ショウタはこれ以上ないほど十字架を強く握りしめ、
ショウタ「てめぇらなんかに…俺たちは……!!!」
ズバン!
2人が接触するまえに攻撃が当たる。
偽ユウトの白い雷撃。あまりに速すぎて、反応することができない。
ショウタ「うぐ……!ファナ…も、サヤカ…も、待ってるんだ…!」
ズバン!ズバン!
続いて2撃。
左右に放たれた白い雷撃は、青い雷網に沿って、ショウタへとぶち当たる。
ショウタ「くぅぅ……!!!マリナさん…も、ユウトの帰り、を…待ってる……!!」
もう立っていることが不思議なくらいボロボロの死に体で、ついに接触する。
ッドン!
ショウタの拳は避けられ、十字架の奇襲は見切られ、ショウタは回し蹴りを食らう。
ショウタ「がぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
主催者達の目の前、ユウトのすぐそばへと、吹き飛ばされる。
ショウタ「く…そ……ユウト…まってろよ……今、こいつらを倒して……」
偽ユウトは小出しでは倒せぬと、おもいっきり助走をつけ、跳ぶ。
ショウタ「お前を…治して……主催者、ぶっ倒…し、」
それはもう弾道だ。放たれれば最期、死に体のショウタでは避けれないし、防げない。
仮に避けたところで、ユウトへと当たるよう角度は調整してある。
ショウタ「てめぇらなんかに…ユウトはやらせない…!俺も、お前らなんかに…負けない!!」
ショウタは十字架を構え、衝撃に備える構えを取る。
徹底抗戦する気だ。
偽ユウトはギリ…と歯を食いしばったあと、雷撃を推進力に、特攻する!
ーーーーーー勝負は一瞬だった。
その程度の守りで偽ユウトの一撃を止められるはずもなく、庇ったはずのユウトすら巻き込んで……
バタッ。と
仁王立ちの主人公は、倒れた。
*****
主催者「…ふは、ふはは、ふははははは!!ついにやったぞ…!ついにだ!!あの忌々しい不穏分子どもついに殺した!!これで奴隷達を黙らせれる…!」
主催者は拳を握りしめ歓喜に打ち震える。
偽ユウトは振り向きもせず一直線に主催者の元へと戻る。
主催者「…さて、まずはどうしてくれようか…?ファナとサヤカがこれを知ったらどう思うか…?くくっ…あぁそういえば、なんか常に余裕があったマリナとかいう無関係な女も居たなぁ!私の闇魔法に対抗できる唯一の存在を失い……最愛の人も無くし……くっくっくっ、どんな表情を見せてくれるのだろうなぁ…!!」
偽ユウトが到着する。
偽ショウタは未だに、ショウタとユウトを監視していた。
ショウタ「………ぁ……」
ユウト「……っつ………」
偽ショウタは2人がまだ生きていることに気がつく。
主催者「…あん?……なんだまだ殺していないのか。自分の顔を殴るのは気がひけるってか?…ふん、あいつらを倒せばお前らは本物になれる。さっさと殺して吸収し……そうだ。そうだそうだ!いい事を思いついた!!こいつらを本物とヤツらに思い込ませればいい!私は負けて反省したフリをして!敵にも甘いヤツらの事だ、ショウタ達の言うことならとコロッと騙されるに違いない!!」
これからの算段を考えつつ、主催者は偽物達を連れ、ショウタ達の元へ行く。
シューーン。
主催者「あん?」
主催者は怪訝な顔をする。
十字架がショウタに触れていることを利用して、かつての戦闘で使用した、丸い球体へ変型し、ショウタとユウトを包み込む。
持ち主であるショウタの指示がまず上位の命令であるが、それの補佐や、ショウタの指示が無い場合は十字架自身も変型することができる。
主催者「なんだ、健気にも主を守るっていうのか!?」
主催者は、ニヤニヤと道具の無駄な抵抗を嘲笑う。
十字架「…これ以上、貴方達の好きにはさせません。この球体は闇魔法は勿論、筋肉がどれだけ強かろうが雷撃が凄まじかろうが、絶対に通しません…!!!」
確固たる意志を持って、主催者達を拒む。
主催者「無駄なことを…。オイ、現実を見せてやれ。」
と、そこまでただ見ているだけだった偽ショウタが、球体へと触れる。
シューーン…。
十字架「…なっ………」
あっけなく、変形が解ける。
まるで、自分の意志で解いたように。
十字架「バカ…な………」
主催者「なにをバカなことがある?言ったであろう、こいつらは完璧な偽物だと。本物より能力値が優れていること以外全て同じだと!!…ならば、使える道具も同じであると、何故気付かない!?貴様がしたことはなぁ…無駄骨だったということだ!……それに、これからは偽ショウタの元で働いてもらう。」
十字架「…そんなことをするくらいなら、潔く自爆するまでです。」
苦々しげに吐き捨てる十字架。
主催者「ふん、生憎だがそれはさせん。偽ショウタには常に『自殺するな』と指示をさせ続けるし、偽ショウタが触らなければ貴様は動くこともできん。……いやぁ、よかったなぁ十字架よ。武器の分際だから、主を殺されてもまた有意義に使ってもらえるではないか!」
十字架「…こんの………!!!」
はっはっは、と高らかに笑う主催者と、悔しげにつぶやく十字架。
と、弾かれたように主催者は真顔となり。
主催者「なにをしている。さっさと始末しろ。屍体など残さなくて良い。」
殺害命令を下す。
偽ユウトがそれを聞き入れ、動こうとしてーーー
ーーー偽ショウタが止めた。
偽ショウタは偽ユウトになにやら変なジェスチャーをする。
偽ユウトはなにか唖然としたあと、やれやれと肩をすくめる。
主催者「なにをしているのだ、サッサとしろ!」
話が成立したのか、偽ショウタがショウタ達へと近づく。
左手には十字架が握られている。
主催者「…ふん、美味しいところは自分が持っていきたいという腹か。…それとも、あぁ!なるほど!十字架の手で奴らを殺すわけだな!!偽ショウタも粋なことを考える!」
偽ユウトが主催者の元へ戻ってくる。
主催者「おい、お前の相棒はとんだクズだな!美味しいところだけ奪って、しかもあんなムゴイやり方をすすんでしたがるとはなぁ!……性格も本体と同じはずだから……なんだ!ショウタのやつ、本当は性格がひん曲がっていたのか!これはいい!この事もファナ達に伝えるとするか!」
主催者は心から楽しそうに笑い、偽ユウトを一瞥する。
偽ユウトはまたしてもやれやれと肩をすくめ、主催者の話に賛同する。
主催者「ふ……はは!貴様らもとんだクズだったわけか!これは傑作だ!」
愉快だと顔を歪ませつつ、主催者は元の世界とのゲートを作る。
主催者「ま、万が一生きてても大丈夫なように、この封鎖結界は永久に閉じておくか!…万が一生きていようが知らん。この世界は空腹などないからな、永久に死ねない身体を恨みながら生き続けるがいい!この何もない世界で!1人でなぁ!!」
そんな主催者の後ろにいた偽ユウトは、本当に楽しそうに笑ったあとーーーーーー
ーーーーーー雷撃を込めた拳を振り上げたーーーーー
to be continued
はい、まだ次の話書き終えてないんですけどね、衝動に任せて投稿しちゃいました。
…いやぁ、色々リアルのこと書こうと思ったんですがねぇ、猛烈に眠いんですよ今わたし。
また近々投稿するつもりですので、その時はテンション高くいきたいと思います。
読んでくれてありがとうございます!
また次回もよろしくですっ!