振り返ってつながって
生まれ育った場所を離れ、遠く他の土地へと移り住むのは、どれほど気苦労が多いだろう。
長い間、転生の間にいた私だけど、いつの間にか、ラトレ村が『第二の故郷』のように感じられた。
でも、この生活を通して、一番、再発見したのは、大切な人たちと過ごす、時間の温かさな気がする。
まだまだ、知らないことも知りたいこともある。
それでも、少なくとも『この場所が好き』と言える場所を見つけられた。
村のぬくもりも、緑豊かな風景も、穏やかな風も。
この景色を彩るぜんぶが、当たり前に感じられるようになったから。
「ルージュ王国への招待状と近況ね……」
広場のベンチに腰かけた私は、王様から届いた手紙を開く。
星を司る大精霊と聖女による、定期的な王国への訪問。
それが、枯れ果てたルージュ王国を救う唯一の手だと考えられているのだろう。
実際に、私たちがルージュ王国に出向いたことで、枯れた大地に緑が芽生え始めていた。
「次期跡継ぎは難航している。やっぱり、世継ぎ争いは起きてしまう可能性は高いみたいね……」
手紙に綴られているのは、あの歓迎会の後、起きた出来事の数々だ。
私は一度、深呼吸をして、ゆっくりと目を通す。
王様は、今回の騒ぎの原因が、ジルハルト殿下たちが起こした暴挙にあるとして、ジルハルト殿下並びに宮廷魔道具師さんたちを元凶と定め、事件を収めたそうだ。
ジルハルト殿下たちは今後、重い厳罰を課せられることになるだろう。
そして新たな国、アウリ聖王国の建国セレモニーの模様は、『人間と精霊さんたちが共生する理想郷の誕生』と、美談として噂されるようになったのだと、王様からの手紙で知ることになった。
そんな中、現存の宮廷魔道具師さんたちが捕縛されたことで、『新たな宮廷魔道具師さんたち』が選ばれたそうだ。
厳しい試験と厳重な審査によって選ばれたのは、平民中心で構成された宮廷魔道具師さんたちだ。
「平民出身の者ばかりで固めた、宮廷魔道具師?」
「目障りだわ! 平民には分不相応よ!」
一部の貴族の魔道具師さんたちは、不平を訴えていたけれど。
現存の宮廷魔道具師さんたちと新たな宮廷魔道具師さんたちの違いは数え切れない。
王城で目の当たりにした、彼らの仕事ぷりには感銘を受けるばかりだ。
そんな中、サフランくんが何気なく修理した村の農具や魔導具が、あまりに高性能すぎて、王家に長く仕える、優秀な老魔道具師さんの目に留まってしまったらしい。
喉から手が出るほど欲しがっていたが、サフランくんはこのまま、ラトレ村に残る決意をした。
それでも狂喜乱舞して、サフランくんを王族に迎え入れたいと願っている派閥がある。
そのせいで、サフランくんも、私たちと一緒に定期的にルージュ王国の王城に行くことになってしまった。
ジルハルト殿下が廃嫡され、空席となった王太子の座。
他の貴族たちが当然、『至高の魔道具師の血筋』を放っておくはずがない。
だが、それが結果的にサフランくんの平穏を壊す引き金になるかもしれないのだ。
それでも、私の決意は揺るがなかった。
「たとえ、世継ぎ争いが起きても、私がすることは変わらない!」
私は改めて、自分のやるべきことを反芻する。
「私は、ラトレ村のみんなのために全力を尽くすだけだから! みんなと一緒に生きていきたい! みんなを守りたいの!」
ぐっと使命感に火をつける。
決意を新たに、こぶしを握っていると場違いな声が響いた。
「もしかして、あなたが星を司る大精霊、アウリス・クロエ?」
「あなたは……」
村を豊かにすればするほど、その噂は遠くへ広がる。
新たにラトレ村に来訪した『その人』を見て、私は絶句した。
「あたしは天才錬金術師、アウリス・アーシング。よろしくね!」
「アウリス……!」
私たちの関係を、『初めて出会った人』以外に表すことができるのなら。
……意外とそこには、当たり前の答えがあるのかもしれない。
女神様の凡ミスで、私の存在は分裂してしまった。
それが原因で、世界中に散り散りになってしまった、11人の私たち。
でも、いつか巡り会える日が来る。
逃れられない運命の歯車が回り始めたから。
私は胸をよぎるすべての感情へ、目を細め、思い馳せる。
出会えた時の愛おしさも。
数え切れないほどの感謝も。
意気投合した時の喜びも。
すべてが、この胸の中。
春はまだ続く。
これから幾度も、こんな一時を、私たちは堪能することになるだろう。
異世界『アルトクラン』生活。
胸のわくわくは、いつまでも止まらない。




