果てなき空の精霊歌②
『おお、魔王様がスカウトを始めたぞ!』
『行け行けー!』
そして、熱狂的に、魔王ウリを応援しているのは魔王城の酒場にいる魔物たちである。
『えっ、王太子ってクズなの……?』
『最低……』
逆にルージュ王国の人たちは、その発言にざわつき始めた。
『あなた方は、ラトレ村の方ですか? ジルハルト殿下の命により、聖女様をお連れするために参りました。ご同行をお願いしたいのですが……』
テレビの生中継に、自分が映っている。
まさか、そんな状況になっているとは露知らず、使者さんは低姿勢で、ここに来た理由を告げる。
『断ると言ったら?』
『ジルハルト殿下は、どうしても聖女様にお目にかかりたいと言っておりまして……。ほんのちょっとだけでも、王城においでいただけませんか? ぜひとも、聖女様に、ご挨拶させていただきたいと申しております』
勇者リスアの問いかけに、使者さんは慇懃な態度で応えた。
『合わせて、大精霊様も、城内にご招待したく思いましてーー、事前調整の使者として、私がうかがいました。何か不都合な点や懸念などありましたら、ぜひこの場で……あるいは王都への道中でお申し付けください』
使者さんからの誘いに、勇者リスアと魔王ウリは顔を見合わせる。
……実はこの招待、本来なら選択肢がないのよね。
『ルージュ王国の王家からの招待』を、『たかが平民出の者たち』が断るなんてあり得ない。
ここでいう『招待』とは、ある意味、強制的な呼び出しに近い。
だが、彼がそれを伝えた相手は『勇者』と『魔王』だ。
そして、女神様のミスで分裂した、もう一人の私、異世界転生者である。
『悪いが、行くつもりはない! どうしてもと言うのなら、私たちを倒してからにしてもらおう!』
『さあ、遠慮はいらない。全力で来るがいい!』
『ひいっ!』
圧倒的な格の違いを見せつけているのは、勇者リスアと魔王ウリだ。
聖剣を構える勇者リスアと、強大な闇魔法を放とうとする魔王ウリからは、圧倒的強者のオーラを感じられる。
即座に、力の差を実感したのだろう。
門前払いを受けた使者さんは、肩を震わせて絶叫した。
『命ばかりはお助けを!!』
並々ならぬ威圧感に絶望した使者さんは、即座に平伏する。
うーん。
使者さんは見た目は優秀そうなのに、なかなかの残念感が漂っている。
油断できない相手よりは、ずっといいけれどね。
そこで画面が切り替わり、アリスがいる森の中が再び、映し出される。
『お話を伺おうと思いましたが、どうやら、お取り込み中だったみたいですね』
そう前置きして、アリスは神妙な面持ちで切り出した。
『ルージュ王国の使者に選ばれた彼は、このまま勝ち目のない戦いを挑むのか、ルージュ王国に戻り、処罰を受けるのか。それとも、森の牢獄でスローライフを送るのか。はてさて、彼の命運はいかに!』
今の使者さんの心境はといえば、涼しさやらスカッとする爽快感などからは程遠いだろう。
絶望的な選択肢を前にして、使者さんは絶句する。
そこでアングルが変わり、ジルハルト殿下がいるルージュ王国の王城が映し出された。
『なんだ、これは! 今すぐ、止めさせろ!』
この放送を見たジルハルト殿下は、自分の差し金が、世界中で笑いものにされていると知って怒り狂っていた。
『それが、世界規模で行われているようでして、止める手段が見当たらなく……』
『おのれ~!』
面目を潰されたジルハルト殿下は歯噛みする。
テレビという未知の存在を前にして、臣下の者たちもお手上げの状態である。
魔法や技術の範疇を超えた、『世界規模の放送』には手も足も出ないのだ。
絶対的な権力を持っていたはずの王族が、見えない電波(星魔法)に無力化される姿は滑稽だったのだろう。
「最高!! まさに暴露会だ……!!」
「すばらしいな……!!」
視聴者さんたちは内心、おかしかった。
もう笑っていないとやっていられない馬鹿らしさだ。




