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かって夢見た光景⑤

「うーん。どうしたら、いいんだろう……」


招待状を持っている人を、ラトレ村に来れなくすればいいのかもしれないけれど、その人が王家から罰せられる可能性が高い。

食堂に足を運んでくれたお客さんを、危険にさらすことだけはしたくない。

せめて、その人物が誰か分かれば、対応策を取れるのだけど。

この膠着状態を打破するために、私ができることは……。


「横から失礼します。アウリ様。少しご相談をしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「は、はい……!」


思うところがあったのか、アウベルさんが会話に加わってくる。


「王国からの不当な呼び出しに、お困りなんですよね? でしたら、王国の使者が、村に向かう道中を、テレビの精霊様が『密着、王国からの使者24時』のように、『実況』されたらどうですか?」

「実況……?」


アウベルさんの提案に、私は呆気にとられる。


「はい。テレビによる実況は、ルージュ王国の王家でも、容易に手を出せないほどの権威。つまり、実況をすれば、国や貴族への牽制になります」


テレビで実況中継。

その手はいいかもしれない。

密着すれば、王国の使者がどんな人なのか、把握できるだろう。


「アウベル、それはいいな。強引な勧誘に出た王家を、社会的に抹殺してやろう!」


幼なじみの提案を聞いた勇者リスアは何の迷いもなく、食い気味に宣言していた。

テレビの情報の拡散力は半端じゃない、

下手をすれば、炎上するだろう。


「この村にはちょうど、我々がいる。外圧を作れば、ルージュ王国も下手に手出しできないはずだ!」


魔王軍を総動員して、ルージュ王国の陰謀に立ち向かう気満々なのは魔王ウリだ。

世界が滅ぶほどの気合いを見せている。

まさに最強の脅しだ。

放って置いたら、大変なことになりそうだ。


「よし、村の守りは、私たちに任せろ!」

「……ふむ。守りを厳重に固めれば、ルージュ王国側も、アウリたちを容易に拉致することはできないだろう!」


目的が定まれば、もはや、迷いはなかった。

勇者リスアと魔王ウリはやる気満々だ。


「では、私たちも即急に、ラトレ村全体に結界を張りましょう」

「今後の発展を考え、広大で強力な結界を張るのがいいかもしれないわね」


マリン様とリラ様も、ミモザ帝国の従者さんたちと内密な会議を開いている。

この場にいるみんなが、ルージュ王国の陰謀に一致団結して立ち向かおうとしていた。

ミモザ帝国と魔王軍とギルドの保護下にあるラトレ村。

そのことを知れば、ジルハルト殿下たちは動揺をあらわにするだろう。


「……大変なことになったわね」


アリスの言葉が、すべてを物語っていた。

強引な勧誘を受けるという心配はなさそうだけど、逆方向に想定外の事態になってきた。


これから先、大丈夫だろうか。


不安に思った時、サフランくんがぽつりとつぶやいた。


「アウリ様。力や道具は、善きことに使うこともできるし、悪いことに使うこともできます」

「えっ……?」


一瞬、自信のない自分の心を読まれたかと思った。

だけど、そうではなかった。

サフランくんの瞳は、どこまでもまっすぐだったから。


「昔、母さんが言っていたんです……」


そう前置きして語り始めたのは、サフランくんの過去だった。


『ねえ、サフラン。あなたは将来、たくさんの人たちを助けたいのよね?』

『はい! 俺の力で、みんなを幸せにしたいです!』

『だったら、自分の持っている力を正しく使うのよ。どんな力でもうまく使えば、人を救い、悪用すれば、人を傷つける』

『傷つける……』

『……大丈夫よ。あなたは優しい子だから、きっと正しく使いこなせるわ』


その力強い言葉に、私ははっとした。

どんな力であろうと、それを使う者によって、毒にも薬にもなる。

サフランくんのお母さんの言葉には、そんな意味合いが込められているように感じられたからだ。


サフランくんは幼い頃に、森の中に捨てられた。

だが、それまでは『家族』と一緒にいたのだろう。


昔のことを語るサフランくんの表情は穏やかだった。

きっと、サフランくんは森に置き去りされた時も、両親を恨むことはしなかったのだろう。

自分の持つ力が、争いの種になることを知っていたから。

もしかしたら、サフランくんの両親は、ラトレ村の人たちが見つけやすい場所に、サフランくんを託したのかもしれない。


「アウリ様。大事な人たちを守るために、その力を振るう。そのことはきっと、間違いじゃないと思います」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥でただよっていたものがすとんと落ち着く。

文字通りに憑き物が落ちたようだった。

進むべき道程の険しさはとうに知っている。

それでも、サフランくんたちは進み続けるのだろう。

心の内にきらめく刃を抱きながら、一歩ずつ。

それを最大限応援するのが、この村に住む、大精霊である私の役目。

そのことを改めて、実感したからだ。


「星魔法でみんなを助け、精霊様たちの心を癒すアウリ様は、みんなから必要とされています。アウリ様は、ここにいていいんです。ここで生きて、幸せに暮らしていいんです!」

「……サフランくん、ありがとう」


小さな幸せの見つけ方も、家族の愛情も。

笑顔が連鎖することも、幸せが誰かに届けられるということも。

少し予定と違ってしまったけれど、今日という日だって特別になる。

得難い経験が、いつもと違う景色が――きっと、心を重ねる後押しをしてくれると信じて。


私は全力で、ラトレ村を守り抜くことを心に誓った。

だが、皮肉にも、それがルージュ王国を轟かす大事件に発展していくことになるのだった。

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