あり得る”未来”
ちょっと長めです。
陽介の意識は、深い眠りとともに暗闇へ沈んでいった。
しかし次に目を開けたとき、そこは日常とはかけ離れた世界だった。
空は灰色に染まり、街は赤い警告灯の反射で揺らめいている。
遠くでは爆音と、叫び声……そして、何かが暴れている轟き。
(ここは……?)
陽介はビルの屋上の端に立っていた。
冷たい風が服を揺らす。
しかし足元の瓦礫は、まるで“今この瞬間”起きている現実のように生々しい。
視線を前に向けると、街のあちこちで黒煙が立ち、
その中心が妙に“計画的”なのがわかった。
主要駅前。
高速道路の分岐点。
空港の近く。
大規模商業施設の周辺。
——すべて、交通・物流の要衝ばかり。
(なんで、こんな……同時に……? 偶然じゃない……)
自分の声が頭の中で響いた。
その瞬間。
「陽介! 時間ないぞ!」
階段を駆け上がってきたのは、黒髪を振り乱した黒川倫だった。
タブレットを握る手が震えている。
「全国で異常能力反応……しかもパターンが同じだ。これ“自然発生”じゃない。誰かが仕掛けてる!」
続いて、肩で息をしながら星野そらが屋上に飛び込んでくる。
「先輩っ! 操られてる人たち……動きも能力の使い方も完全に統一されてます!普通の暴走じゃありません!」
そこへ、通信端末を耳に当てた滝本が焦燥を隠せない声で言った。
「……だめだ、救助要請が多すぎる……!各地の交通網、全部機能停止し始めてる!これ、全国マヒのカウントダウンだぞ!」
そして、背後では南が必死に叫んでいる。
「陽介くんっ! “重力系”が空港で暴れてる!あれ止めないと……飛行機が……!」
仲間それぞれが分担して、この異常事態に全力で食らいついている。
息も絶え絶えなのに、誰も諦めていなかった。
そこで、空からゆっくりと一人の影が降りてくる。
髪は淡い銀色。
瞳は深い青。
異世界じみた雰囲気をまとった青年だった。
彼は静かに地面に降り立つと、陽介だけを見つめて言う。
「……少年。この未来は“君の選択の先”だ」
陽介が息を飲む。まるで、”本当の自分”に話しかけているようだったからだ。
「俺が……能力を配ったせいで……?」
またもや自分の声。今度は自分の口が勝手に…。
彼は首を横に振る。
「違う。能力を配ったこと自体は、世界の調和を保つ選択にもなり得る。しかし――君は“第三者の介入”を想定していなかった」
第三者。
(……誰かが……この状況を“作った”……?)
そんな”未来の”陽介の思考を遮るように、再び地上から黒い光柱が立ち上がった。
空を裂くような黒の閃光。
「陽介! まただ!」
黒川が叫ぶ。
「これ、完全に制御されてる! 能力者たち……やっぱり“操られてる”んだよ!」
星野が青ざめ、滝本は歯を食いしばり、南は涙を堪えていた。
ユラナスはほんの少しだけ陽介へ歩み寄り、
低い声で静かに告げる。
「少年。この未来を変えられるのは、君だけだ」
陽介の心臓が大きく跳ねた。
炎の街。
仲間の必死の声。
黒い光の中心で暴走する“誰か”。
そして、彼の厳しくも優しい眼差し。
視界が歪む。
音が遠のく。
街の悲鳴が薄れていき――
最後に聞こえたのは、銀髪の彼の声だった。
――選べ。黙ってみてるか、これを変えるか。
タイトルは、リゼロの中の言葉「ありうべからざる未来を見ろ」を少しだけ真似しました。




