Oστών και το Kαλώδιο - 〝骨とケーブル〟 -
エスとアドは、因劉と共に街を歩いていた。
因劉。アドと知り合いだったようだが、アドは思い出すことができなかった。そのことから、自分が壊れていることをアドは再認識する。
一方エスは、チャンスとばかりにアドと因劉の会話を聞いていた。
エスが彼を不審がっているのを気にしながら、因劉はアドに話しかけた。
「......本当に、なんもかんも忘れちまったのな。前に天才軍師をお前に言った時、お前は烈火の如くキレてたぜ」
[ログを検索......リザルト:そのようなログは存在しません]
「そっか。まあいい。俺もお前も、思い出したくはないことだろうしな」
アドと因劉の間になんとも言えない雰囲気が流れ始めた。その様子を見て、エスは因劉に警戒しつつアドを心配している。
「そういえば」
エスを見た因劉が呟く。二人の視線はゆっくりと因劉に集まり、因劉は言葉を続けた。
「お前たち、あそこで何をしていたんだ?」
「ギルドの事でしょうか」
アドが即答する。エスと旅を続けていくうちに、この世界のことを勉強していた故の回答の速さ。
それを聞き、因劉は頷きながらアドに言う。
「ああ、それだ。……あの場所で、お前の新しいマスター? それとも彼女? どちらでもいいか。お前たちは何をしていたんだ?」
「依頼を受けに」
アドがそう言った瞬間、エスが横から入ってくる。エスが因劉に見せたのは依頼書。ドラゴン討伐の依頼だ。
ドラゴン。その言葉を聞いただけで少なくともカラバイアの人間は共通のイメージを抱く。
巨大な爬虫類に翼が生えた見た目。鋭い目つき。堅い鱗で覆われた皮膚。そして、巨大な爪。
数ある魔物の中で最も冒険者が討伐依頼に乗り出しやすい依頼だ。まだ幼くとも村一つは容易く滅ぼせるほどの力。倒した時の達成感から、無謀に依頼を受けて命を落とす者が後を絶たない。
「へえ......いや、”アレ”とは無関係なんだろう。うん。ところで俺は戦えそうにないな。俺って昔研究者だったから」
因劉はアドから聞いた情報に何か心当たるがあるらしく、しばらく考えていた。それをアドが遮る。
「なんの研究を?」
それに、因劉は困ったような表情をしてから静かに答えた。
「......いや、いい。話したくない。それより、ドラゴンだっけか。俺はどこに居たらいい」
「旅館で待機していてください。アドさん、地図って出せます?」
因劉がエスに聞き、エスがアドに紙を渡した。アドはエスからの指示通り、手渡された紙にとった旅館の地図を描いた。
「ほう。では俺は旅館で待機している。また会おう」
「ではまた」
二人に手を振る因劉を、アドとエスは見送った。
◇
「......さて」
エスがアドの方を向く。彼女が話そうとしていることは、因劉のことだ。
アドと自分に本当に接点があるなら、アドに接点がある因劉を詳しく調べれば自分のことが分かる。
そうしたら、ずっと感じている違和感の正体も掴めるかもしれない、とエスは考えていた。
鉄を叩く熱気は商店街の門から放たれている。隣には川が流れており、それを引いて水が必要な仕事に使っているらしい。
「......因劉さんについて、何か思い出せることは?」
[検索......リザルト:一件ヒットしました]
「おっ!」
エスは目を見開き、アドの言葉に耳を傾ける。
「因劉。......の研究員を務めていた。セキュリティレベルは......」
アドは語り出すが、ほとんどは音声ファイルが破損していてめちゃくちゃなノイズだ。
「......それだけ?」
「お役に立てず、申し訳ありません」
エスは自分の肩から一気に力が抜けていくのを感じながら、アドに「大丈夫です」と言って先へ進み始めた。
Bクラスのドラゴン討伐。エスはギルドでその依頼書を見た瞬間にそれを受けることに決めていた。
本来ドラゴン討伐はパーティがいくつも集まってクランを結成し挑むものだが、Bクラス程度なら一人二人で討伐できる。
ドラゴンというのはその鱗から心臓、血液に至るまで売ることができる。小型であろうと60万ミナは稼ぐことができるのだ。高クラスのドラゴンだと命を落とす危険性も伴うが、今回は比較的小型だと聞いた。
このチャンスは、逃すことが出来ない。
エスが少し歩調を早めて歩いていると、アドが突然立ち止まった。
メインカメラが川の方を向き、突然そこへ手を突っ込んだかと思うと、中からケーブルのようなものが巻きついた骨を取り出した。
細い骨だ。小指あたりの骨だろうか、とエスが推測していると、アドはおもむろにそれをポケットに仕舞い込んだ。
エスは慌ててそれを出すように命じた。
「何やってんですかアドさん!? 骨持ち歩くって! 黒魔術師と間違われますよ!」
「これは私にとって、非常に大切なものであると判断されました」
アドの発言にエスは呆れたような仕草をすると、おもむろに杖を取り出し小さく振った。自分と出会った時のような雰囲気をこれにも感じたのだろう、と予想することは彼女には容易なことだった。
魔法陣が空中に投影され、エスはアドに骨を渡すよう言った。
「......それは」
「魔術で作り出した異空間です。この中にしまいますからね」
アドはいつも通りの無表情で、エスに骨を渡した。
その姿にどことなく哀愁を感じたのはエスの気のせいである。
「......ほら、行きますよ。しょんぼりしてないで」
エスがそういうと、アドも歩調を合わせて歩き始めた。
◇
[不明なシグナルを検知 分析開始......100% 動画ファイルを再生します]
目の前には数式が書かれたホワイトボード。バーのような雰囲気を纏ったその場所に入ると、女性を模して作られたアンドロイド達が私を歓迎した。彼らにロボットと人間を識別する能力はない。だから、人間にする対応と同じ行動をとったようだ。どのような仕組みになっているのだろう。
自分に使われている技術にも関わらず、さっぱり理解出来ない。ロボットが自分で自分を補強しないようにと、国の指示で取り付けた機能だ。博士はそれに反対らしく、幾つもの穴を作ってあると聞いた。
......私がここへきた理由、それは。
「おっ! アド〜」
名前は忘れた。彼に会いにきたのだ。
彼は私の何を気に入っているのか、やたらと会話したがる。同じ博士の元で生まれたからだろうか。しかし彼は博士を防衛するために作られたロボットであって、私とは会話する機会が少なかった。故に、私と彼との関係はたまにあっては話すという関係だった。
「いやー、流石だったぜ! ......のバビューンってやつ!」
ノイズ混じりに彼が語る。彼の発言のほとんどは壊れていてわからなかったが、彼が私を賞賛していることだけは理解出来た。
私は適当に相槌を打ちながら、カクテルを飲む。琥珀色の液体の様子から、カクテルの正体はスティンガーだろう。味なんて数字でしか出てこないが、私は嗜好品として楽しんでいたのだろうか。
私がスティンガーを半分ほど飲み終えたあたりで、彼は急に真面目な表情を作って自分のカクテルを見つめた。
「なあ、アド。......ってどう思う?」
きっとこの質問は、私にとって忘れてはならないものの一つ。私は無理矢理にでも、答えなくてはならない。
私はスティンガーに自分の表情を映しながら、ゆっくりと口を開いて、こう言った。
「.....................」
......なんと言ったのだろう。
◇
風が彼の頬を撫でる。丘の上から見下ろす町は壮大で、周りの草叢がガサガサとなっていることすら彼は気にしていなかった。
潮っ気の強いその風が染みるのか、彼は目を細めて遠い街を見た。
宝石が大量に使われたその鎧は、日光を浴びてキラキラと輝き自身を主張している。
彼は遠い街を見つめながら、襲いかかってきた肉塊に剣を一度振る。
その瞬間、空間が切り裂かれたと錯覚するような突風とともに、隠れていた肉塊どもも丸ごと消え去った。
剣に付着した血を払うと、彼はゆっくりと儚げに遠くを見つめ、丘を降り始めた。




