第二章 28話 期待のホープ
キャーーーー!!!!!!
うぅぐぁぁ…
シュウ「助けないと!!!」
ワグ「待て待て!!檻!檻!!空いてるぞ!!」
小張「二人とも!戦闘態勢に!!」
キャーー!!! フザケンナ!!!
ウワァァァ!!! タスケテェェ!!!
周りはもうパニックに陥っていた。
抵抗していた女ももうゾンビにやられてしまう…
シュウ「行きます!!!」
シュウが飛び出そうとしたその瞬間─
長く伸びた何かが女性を襲おうとしたゾンビに勢いよく当たった。
ゾンビ「ぐぉぉ…」
ゾンビは衝撃で飛び倒れる。
シュウ「え!?」
小張「あれは!」
ワグ「の、伸びてる…!?」
入口の方から伸びていたものはなんと、腕だった。
バンシャ「さあ!!今夜の我がバンシャフリークショーはクライマックスだ!!今回!非常に危機的状況に馳せ参じたのは!我らが期待のホープ!全身ゴム男のヒーロー!ノブだ!!」
ゆっくりと姿を現す正義のヒーロー。
ワグ「あれが…」
小張「伸びる能力…」
シュウ「ノブ…」
ワグ・シュウ(かっこいいっ!!)
ノブと呼ばれた男は戻した通常の状態でも四肢は長く、身長も非常に高い。そして何よりも、厳つい。顔が非常に怖い。恐らくとても怒っているのだろう。もし出てきたのがゾンビではなく、チンピラだったら秒で土下座をするレベルだ。
ノブは更に両腕を伸ばし、開いた檻を出てきたゾンビごと腕でグルグル巻きにする。
小張「あそこまで腕が伸びるの!?」
ワグ「つ、つえぇ!!」
シュウ「す、すげぇ!!」
ノブ「グゥオオオオオオ!!!!」
ノブは檻ごとゾンビを投げ捨てた!!
オリゴトナゲタワ!? イマウデガ!?
イッタイドウナッテンダ!! マジックカ!?
檻は凄い音を出し、倒れた。中のゾンビも衝撃が強かったからかもう動かなくなっていた。
バンシャ「流石は我が期待のホープ、ノブ!!危機を難なく回避だ!!」
その言葉にざわざわと観客達はざわつき始める。
シュウ「や、やったんですかね…?」
ワグ「ゾンビってこんな呆気なかったんだな…」
小張は眉間に皺を寄せ言う。
小張「うーん……これは…演出ね。」
シュウ「やっぱりそう思います?」
ワグ「ドキドキしちまったよーしてやられたな!」
バンシャ「皆様!驚きましたでしょうか?このゾンビも我が団員!勿論感染とかはないのでホッとしてほしい!」
フザケンナー!! コロスゾオラァ!!
イミワカンナインダケドー!!
会場は怒りの声が響く、それもそうだろう。ここまで嘘のような本当の事が何度もあって、ゾンビも本当に居るんだと信じこまされたのだから相当の恐怖だったのだろう。しかも、ここに居る観客達は普通の人達ではない。何かあったらマズイ人達が多いのだ。そこまでされた怒りのボルテージは相当溜まっていた。
バンシャ「まあまあ、お客様方!最後にこのショーをお見せさせて頂きますので、きっと!その怒りも忘れる程のオオトリでございますので!ノブ!よろしいですか?」
ノブ「大丈夫。任せてくれ。」
そのノブの言葉の後照明が消える。
バンシャ「よし!それでは!!摩訶不思議の身体を持つこのノブ!!この身体は神が与えたか悪魔が与えたか!タネも仕掛けもなく人間とは思えないこの業に皆さん驚愕し、興奮の渦に巻き込まれることでしょう!!さあさあご覧あれ!!」
明るくなった時にはいつの間にかゾンビも回収されており、中央にノブが一人だけとなった。腕を絡め、グーッと背伸びをする。そのあと上半身を右左に捻らせ、準備運動を終わらす。
バンシャ「今回ノブが見せますのは的当てでございます。ですが、何かを投げて当てるという芸ではございません。当てるのはこの身この腕。先程は恐怖でそれどころでは無かったと思います。なのでじぃっっくりと見てくださいませ!!」
ノブ「…」
ノブは黙って真っ直ぐ前の七階客席を指さす。
周りの観客はさされた方向を見る、さしていた物は観客達にではなく、その頭上にある的であった。よく周りを見ると、東西南北にしっかり的がぶら下がっていた。
ワグ「いつの間に!!気付かなかったわ…」
シュウ「もしかしたら、最初から吊り下げられていたのかも。」
小張「一体何を見せるのかしら…」
ノブは最後の伸びをした後、よしっと気合いを入れる。
ノブ「フッ!!!」
ノブは一気に右腕を伸ばした!
手が的に当たり乾いた音が響く。ノブは伸びた状態で静止をする。
その出来事に観客達の頭脳はついていけなかった。あまりにも異常なフリークさに思考が少しフリーズしてしまっているのだ。こんな間近にまで長く伸びるのかと、マジックでは無いと目の当たりにされたからである。
そのようになってる観客を知ってか知らずか次はギュンと手を戻し、次は後ろの方の的に今度は左足を伸ばす。
良い乾いた音が響く。そして間髪入れず足はそのままで右腕をまた前の的へ伸ばす。
小張「同時にこんなに伸ばすことが可能なの!?能力の調整が凄く手慣れてるわ!」
シュウ「しかも意外と伸びるの速いですよ!」
足と腕を戻すノブ。そして両腕を左右に広げ─
ノブ「フンッ!!」
両腕を同時に伸ばし、左右の的に当てた。だがそれだけでは終わらず、
ノブ「っ!」ザザッ
足を振り子のように前後ろに振った後、前へ伸ばし前の的にも当てる。今は両腕と片足が伸びきっている状態だ。
ノブ「ムッ!!」
何とノブはその状態のまま片足を軸に回り始めたのだ!三肢伸びた状態で回り、的を掴み回収するその姿は非常に圧巻だった。しかし…
観客女「ば…化け物……化け物よ!!人じゃないわ!!」
この一声が会場に響いてしまう。全て的を掴み、回収し終え、三肢縮めたノブは黙ってその声のしたところを向く。
能力者は他の人から見たら化け物。
シュウ達三人は内心ドキッとして少し悲しい気持ちを持った。
ワグ「じゃあ俺達も…化け物なんだよなぁ…」
小張「気にしちゃ駄目よ。流しましょ。」
そしてバンシャが締めに入る。
バンシャ「どうでしたか皆様!!特殊なフリークの数々!楽しんで頂けたでしょうか!先程、化け物と一声がありましたが、我々はそう疎まれてきました…ですが、そのフリークさはまさに個性、才能と言って良いものです。現に、ドキドキワクワクしてくださったでしょう?だからこそ我々はあなた達に魅せたいのです!化け物でも出来る最高のショーを!!これからも御支援や応援等よろしくお願いいたします!!それでは皆様!良い朝を!」
ガラガラガラっと天井が開く、そうすると朝日が出てきてサーカス場の中は明るくなった。
音楽隊がPOPな音楽を鳴らし、衣装を着た団員が帰りの出口へ誘導する。
小張「一旦出ましょ?外出てゆっくりこれからのことを話そう。」
シュウ「そうですね!……ワグさん?」
ワグは難しい表情で何か考えていた。
シュウ「ワグさん?」
小張「どうしたの?ワグ?」
ワグ「あ、いや、一旦出るか!」
三人は外へ出る。外へ出るとサーカスを見ていた観客達が感想などを興奮して話し合ったりしてまだ余韻が残っているようだ。だが、一番興奮していたようだったワグが何故か静かになっていた。
それを見かねてシュウは声をかける。
シュウ「どうしたんですかさっきから。」
小張「そうよ、気持ち悪いわ。」
ワグ「……俺さ…決めた。」
シュウ「何をですか?」
小張「何を?」
ワグ「俺、サーカスやるわ!」
シュウ「え?」
小張「は?」