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月夜と黒猫  作者: 陽夜
第2章
20/24

Mission18 不運な1日

 今日はついてない。本当についてない。

 いくらなんでもこれはあんまりだー、って人に同意を求めたいくらいに。

 きっと全部あの占いのせいなのだ。こんなに運が悪いのは。





『残念!今日の最下位は水瓶座。色々なトラブルが起こるかも』

「ええー!」


 朝ご飯の片手間、横目で見ていたニュース番組の「きょうの占い」コーナーでそんな結果を聞いてしまったわたし──成瀬花音は、尽く不運に見舞われた。

 予習したノートを忘れるわ、そんな日に限って先生に指されるわ、生徒会の仕事を片付けていたらデータは吹っ飛ぶわ、挙げ句の果てにお昼は食べ損ねるわ……と他にも数え切れない程散々な目にあった。


『ラッキーアイテムはサボテン!トゲには十分注意してくださいね』


 なぜサボテン?そう思わなくもなかったけれど、トラブルに巻き込まれては堪ったもんじゃない。藁にもすがる思いで凜さんに鉢植えのミニサボテンを借りたのに効果なんてさらさらない。恥を忍んでずっとサボテンを持ち歩いていたわたしはなんだったのだろう……と凄く悲しい気分だ。


「はあ……」

 今日何度目か分からない溜め息を吐きながらとぼとぼ寮に向かって歩く。ゆかりんは「倉ちゃん先生に組み手頼んでくる!」と言って先に行ってしまったので、1人寂しい道中だ。


 ヴォリュビリス隊が理兎さん・恵さんの2人と模擬戦をした……という話は、吟先生が「なんでオレに話が来なかったんだー」と嘆いていたので知っている。

 そこで何があったのかは聞いていないし、そもそもなぜ模擬戦が行われたのかも知らない。なんとなく予想はつくけれど、敢えて追及しないままだ。

 寮に帰ってきてすぐにゆかりんは「もっと強くなる」と意気込んで担当のローレンス先生以外にも色々な人に手合わせを頼んでいる。

 勿論わたしも頼まれたら容赦なくやるけれど、打刀と大刀では間合いが違う。ゆかりんはまず対人戦に慣れる必要があるし、そうなると同じ系統の武器を扱う人に頼んだ方が良い訳で。

 努力するのは良い事。そう、良い事のはずなのに。ゆかりんと一緒にいる時間が減ってしまうのはやっぱり寂しいと思ってしまう。彼女の隣は存外心地いい。


 前を向く気力もなくて、下を向いたまま歩く。石畳はどこまでも続いていて、前を見なければ道を間違えそうだけれどそれさえもうどちらでも良かった。

 ふと、頭に何かが落ちてきた感触。雨?確かに降る予報は出てたし空は真っ黒で今にも降り出しそうだけれど。

 掌を掲げて降雨の確認をする気力もなく、ゆるゆると腕を上げて頭に触れる。……ん?雨じゃない?

 恐る恐る手を見ると白い何かがこびりついている。

 バッと上を向いて視界に入ったのは、空を飛んでいる1羽の鳩。

「…………」

 再度手を見る。

 もう叫ぶ気力もなく、わたしはまたとぼとぼと歩き出した。


「ただいまー……」

 寮の玄関ポーチで帰寮の挨拶をする。返事はない。多分みんな地下の訓練場か自室にいるのだろう。

 髪を洗いに風呂へ入るのも面倒で、とりあえず脱衣所にあったタオルを濡らして頭を拭く。

 あとで戻せばいいや……と、タオルを持ったまま自室に戻ったら兄がいた。

 もう一度言おう。兄がいた。

「「…………」」

 見つめ合う兄妹。兄は不遜な事に、わたしの勉強机に座って足を組んで踏ん反り返っている。

 沈黙が流れる。

「……って、なんでいるのよお兄ちゃん」

 先に耐えられなくなったのはわたしだった。おかしいだろう。普段人の部屋になんて絶対入ってこない兄が目の前にいるこの状況は。

「何かあったか?」

 兄よ、それは答えではない。疲れ過ぎて、もはや今日の不幸ぶりをいちいち説明する気にもならない。

「別に……」

 答えないのもアレなのでとりあえず素っ気なく返す。1人になりたいのでいい加減ご退去願いたい。

「何かあったか?」

 なおも兄は問う。というかこの口の悪い兄はようやく面と向かって人に気を遣う事を覚えたのだろうか?

「ああ、この前食った菓子で体重でも増えたのか」

「…………」

 前言撤回だ。兄は気など遣っていない。

 わたしはわなわなと鞄の持ち手を握り締め、そして。

「お兄ちゃんの……バカ────!!!」

 全力フルスイング。投げ出された鞄はなんとも形容し難い鈍い音を立てて、兄の顔にぶつかった。





「ありえない、ありえない、ありえない!ほんっとお兄ちゃんありえない!!」

 兄の顔面に鞄を叩き込んでから十数分後。わたしはそのまま部屋を飛び出してプリュイにある公園に来ていた。

「全くなんなのよお兄ちゃんは!」

 怒りは全然収まらず、1人なのをいい事にブツブツと兄に対する恨み言を呟く。座っている塗装の剥げたブランコはぎいぎいと音を立てながら傾ぐ。

 住宅街のためか、住人の高齢者の割合が高いためなのかはよく分からないが、やけにこぢんまりした公園が沢山点在しているプリュイは時間帯によって誰もいない公園ができることがよくある。ストレスを発散させたい時はいつもここら辺の公園を回って、人っ子一人いない状態を確認してからこんな感じに1人で愚痴っている。

 大体、最近凜さんもゆかりんみたいに訓練に励んでいておちょくる相手がいないからってわたしにそれを向けるとはどういう事か。凜さんがからかい甲斐があるのはわたしも認めるけれど、それとこれとは話が別だ。


「──……」

 ……ここまで考えて、ふと思った。凜さんが編入して来るまでは、わたしが構われていたではないか。

「そういえばお兄ちゃんって元々そういう奴だった……」

 今更な話だった。兄が人に暴言を吐くのは息をするのと同じようなもので、そんな事に一喜一憂していたらこっちの身がもたない。

 さっき兄が最初に言った言葉は「何かあったか?」だ。本当はちゃんと心配してくれていて、ワザと怒るような事を言って逆に元気付けようとしたのではないか。そのやり方が若干酷い気がするのはとりあえず置いておくけれど。

 それに兄であったらあんな鞄くらい、軽々と避けられたはずだ。それを避ける素振りもなく、そのまま当たって見せた。それは流石に言い過ぎたと思ったからなのではないか。

 そう考えてみると、わたしはなんて馬鹿だったのだろう。あの普段は捻くれ者で天邪鬼な兄がストレートに尋ねてくるものだから、少し狼狽えて適当にあしらってしまった面もある。毒ばかり吐く兄の事だ、きっとこれもそうに違いないと。

 わたしはなんだか申し訳なくなってきた。兄はただ妹を気遣っていただけなのだ。気を遣えないのではなく、気を使っている事を悟らせない。故に意地が悪いし凄く分かりにくいが、それが兄という存在ではないか。


 うん、お詫びにケーキでも買って帰ろう。わたしはそう思い立ってブランコから立ち上がる。

 ぽつりぽつりと雨が降り出したけれどもう気にしない。だって気分はこんなにも晴れやかなのだから。

 先ほどの帰りとは打って変わり、鼻歌交じりに石畳を軽やかにステップ。濡れたって構わない。占いが最下位でも今は楽しい気分。そんなの味合わなくちゃ損でしょ?

 わたしはボーにある行きつけのケーキ屋さんまで上機嫌で向かった。



ナンバリングミスってたので修正しました

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