Mission14 昼休み
新章突入です
五月も中頃に入ったある日のこと。
昼休みの生徒会室は窓から差し込む光だけでも十分明るくて、麗らかな日差しは室内を暖かく照らしている。あと二、三週間も経てば梅雨に入るんだろうなあ……などとあたしは外を眺めてぼんやり考えていた。
今日の生徒会室は珍しくあたし達ヴォリュビリス隊以外誰もいない。いつもなら詩音か花音辺りがお昼を片手間に生徒会の仕事を片付けるのに書類にペンを走らせているか、パソコンとにらめっこしているかのどちらかなのだが。
あたしは広報、海とゆかりは書記、すみれと千夏は庶務なので、副会長の詩音と会計の花音より仕事量が少ない。処理しなければならない書類も普段からある訳ではなく、従ってお昼は基本的に教室やら屋外やらカフェテリアで食べる。
それならなぜ今日は生徒会室でランチタイムなのかと言うと。
あたしと同じ、ヴォリュビリス隊の一員である千夏が「話したいことがあるから集まってほしい」と招集をかけたからだ。
五人で固まって円卓を囲んだあたし達は、まずは腹ごしらえとそれぞれに購買で買った昼食を摂る。
朝食担当が気の利いたメンバーだと昼食の分まで用意してくれることもあるのだが、今日はあいにく……非常に残念なことに海とりまの組み合わせだった。
自分のやりたくないことに関しては頑として動かないりまに当然朝食を作る頭などなく、食パンと数種類のジャムやペーストを食卓に用意したのみ。まあ用意してくれただけマシというものだ。
対する海は張り切って作ろうとしていたのだが、あたしとゆかりで必死に止めた。
「朝から死人が出る」
「海お姉ちゃん、作るならお休みの日にお菓子にしよう? ね?」
「……ゆかりはともかく、凜は酷くない……?」
とりあえずレタスちぎったサラダだけにしよう? ウインナーソテーしたりスクランブルエッグ作ろうとしたりしなくていいからさ? ……そう言ってどうにか海を説得し、九死に一生を得たのが今朝である。
海の料理はなんというか、悲惨な結果になるのが目に見えている。……とても口では表せないほどに。
そんなこんなでハムレタスのサンドイッチとジャムマーガリンのコッペパンをあたしが食べ終えた頃。
千夏が話を切り出した。
「そろそろさ」
「ん?」
「どうしたの?」
「……?」
「何? 千夏」
「任務の話があってもいいと思うんだよな」
あたしより先に食べ終えていた千夏は、手持ち無沙汰にBLTサンドの入っていた袋を結んだりほどいたりしていた手を止めてまっすぐこちらを見つめる。
「まあ確かに……。あたし達もこっちの生活に慣れてきたことだし」
あたしが肯定の意を示すと、千夏はきらきらと目を輝かせた。
「だよな!? 任務って具体的にどんなことやるんだろうな!?」
「遊びじゃないのよ……」
全く、これだから男子はとすみれが卵サンドをかじって溜め息をつく。
「メールとフォレの各地で起きている怪異の原因究明と解決でしょ?」
ごちそうさまでした、とバタースコッチの入っていた紙袋を丁寧に畳みながら海が言う。
「つまり?」
「悪事を働いてる人を捕まえるってこと」
「なるほど」
やや頭の弱い気がある千夏は、噛み砕いて説明されてようやく理解できたらしい。
「でも『任務やりたいです!』……なんて誰に言えばいいんだろうね?」
食べかけのクリームパンを手に持ちながらゆかりが首をちょこんと傾けて疑問を口にする。実際、誰にそんなことを言えばいいかなんて皆目見当もつかない。
「そこは俺に任せて」
自信たっぷりに千夏は胸を張る。
「アテがあるから」
「全員任務に出たい! ってことでいいんだよな?」
と、半ば強引に連れてこられたのは職員室に面しているテラス。初等部から高等部の色々な先生が、各々昼休みを過ごしている。
千夏は目当ての先生を見つけると、あたし達四人を引き連れて一目散に駆け寄った。
「ツッキー先生!」
「あれ? みんな揃ってどうしたんですか?」
呼びかけられて呑気に振り向いたのはツキ先生。コーヒーを片手にクロワッサンを食べていたところだったらしい。
「ちょっとお話がありまして」
すみれがすかさずフォローを入れる。四六時中喧嘩してる割には息ぴったりなのがこの二人だ。
「話?」
「俺達は席を外した方がいいかな?」
同席していた吟先生とローレンス先生が口を開く。
歳が近いからか、ツキ先生と吟先生、それにローレンス先生は割と一緒にいることが多い。今日も丸いおしゃれなテーブルを囲んでお昼を食べていたらしく、各自の前には飲み物とパンが置かれている。
それにしても。
……前から思っていたのだがこの三人、揃いも揃って顔が良過ぎやしないだろうか。並んでいると自分が場違いであるような気がしてくる。というか既に内心慄いている。
「いや大丈夫です」
……個人的には話に集中できなさそうなので席を外してほしかったのだが、千夏に断られてしまってはもう為す術もなく。
千夏は迷う素振りもなく、一息吸ってすぐに口を開いた。
「任務行きたいんで直談判しに来ました」
いや、いくら何でも単刀直入過ぎやしないだろうか。あまりにも唐突過ぎてツキ先生も首を傾げてるし。
「任務?」
「もう宵に入って一ヶ月半は経つし、そろそろ任務の話があってもいいんじゃないかなーと」
凜先輩達もこっちでの生活に慣れてきたみたいだし、と千夏は付け足す。
「うーん……。確かに僕は人事担当だけど、任務のことに関しては僕の一任じゃ決められないしなあ……」
「わたしを呼んだ?」
ツキ先生が僕の一任じゃ決められない……と言った途端にひょっこりと現れた人影。
焦げ茶のジャケットとスカートに赤いリボンタイを合わせ、同系色のシルクハットを被っている。身長はかなり低く、多分一四〇センチもない気がする。ルビーレッドのロングストレートに蜂蜜色の瞳が鮮やかで印象的だ。
「アレンカさん、驚かさないでくださいよ」
「だってツッキーが僕だけじゃ決められないー、って言うから来てあげたのにー」
「どこから見てたんですか……」
「んー? 内緒ー」
アレンカさんと呼ばれた人はおどけた様子で話をはぐらかすとあたし達の方に向き直った。
「あれ? 初対面だったかな? いつも見させてもらってるからもう会ったつもりになってたや」
「えと、はい。初めてですね」
「そっか、ごめんごめん」
そう言ってアレンカさんは手にしていたステッキをこつん、と鳴らして居住まいを正した。
「──それでは改めまして。アレンカ・エンフィールドと言います。皆のことは魔法越しによく見てるよ」
ちなみにツッキーと同じ宵幹部のエトワルだよ、と付け足すアレンカさん。曰く学園の運営担当がニュアージュ、人事担当がエトワルらしい。
「それで? 任務に出たいって?」
「はい」
答える千夏は真剣な面持ちだ。
「ツッキー、ちょっと」
アレンカさんはちょいちょい、とツキ先生を手招きすると何やら二人で話し始めた。
「ヴォリュビリス隊の初任務かー」
「最初から全員揃って挑むのは宵史上初めてかもね」
静観していた吟先生とローレンス先生が口を開く。
「そうなんですか?」
海が尋ねると両先生は頷く。
「入った時期が全員バラバラだからな。オレの初任務はロスとマシューとだったな」
「思い返すと随分脳筋なパーティーだったよね」
「何であれ、とりあえず殴れば勝てる! ……って感じだったな」
違いない、と当時を思い出して愉快だったのか、二人ともコーヒーを片手に口元に淡い笑みを浮かべている。
まあ確かに、三人ならローレンス先生が回復役になるより全員で殴った方が早いだろうというのは想像がつく。二振りのカットラスが得物の吟先生と普段の気弱なイメージにそぐわずバトルアクスを振り回すマシュー先輩、そして流麗な手捌きで槍を操るローレンス先生が一度戦うとなれば。
「なんか、先生達血塗れで目を爛々と輝かせながら敵を屠ってたんじゃないかな……。そんな気がする……」
「あたしもそう思った……」
ゆかりの呟きは全員の同意を得たのだった。
*
「よし! じゃあ放課後になったら訓練棟の大演習場に来てもらえる?」
アレンカさんの一言で、着替えて訓練棟に集まったのは四時半過ぎ。
訓練棟に来たのだからもちろん何かやるのだろう、とそれぞれの得物をカードから取り出して待っていたところ。
「君達がヴォリュビリス隊?」
「呼び出しておいてその本人は遅れて登場か、全く」
あたし達が入ってきた出入り口とは反対の方から来たのは、二人組の男性。一人は煉瓦のような色の髪を持つ中性的な人で、もう一人は黒縁の眼鏡の神経質そうな人だ。
「ごっめーん! 遅れましたー!」
二人が入ってきた後ろから駆け足でやってくるアレンカさん。ツキ先生もその更に後ろからのんびり歩いてきている。
「恵、理兎。突然呼び出したのにありがとね」
恵と理兎と呼ばれた二人は、多分“恵”であろう人が「いいえー」と返し、“理兎”であろう人はフン、と鼻を鳴らした。
「御託はいいからさっさと始めてくれ」
「はーい。……それでは」
アレンカさんは一旦言葉を切ると、わざとらしく咳払いをした。
「ヴォリュビリス隊の試験を行いたいと思います」
2023.7.17訂正
現在の書き方に合わせて改稿しました
ローレンスの武器を長巻→槍に修正




